わかさぎ釣りの思い出

最初に赴任した学校の先生とは、まだ若かったこともあってか、よく遊んだ。冬にわかさぎ釣りに行こうとなって、2月の上旬、群馬県の赤城に向かった。

朝一番から釣れるようにと、夜中に出発して車で仮眠をとった。道中、たくさん釣れたらどうしようかなどという話で盛り上がり、私も初めてのわかさぎ釣りということもあって、「その場で天ぷらにして食べたりするのかな」なんて考えて、ワクワクしながらその話を聞いていた。

釣り始めの時刻になり、みんな湖上に下りていく。

 「うわっ!寒い!」

想像以上の寒さ。防寒対策はしてきているので、耐えられる寒さではある。私も後をついて下りて行ったのだが、上からではまだ暗くて見えなかった湖上の様子が見えるようになると、

 「えっ?うそ・・・」

と思わず声が出てしまった。

 「雪が、雪が積もってる・・・」

はい、当たり前のことです。季節は冬、2月上旬、群馬県の赤城、雪がないほうがおかしい。私も今考えればそんなの当然のことって思うはず。

でも、当時は違った。わかさぎ釣りは氷に穴をあけて行うもの、つまり湖上は氷が張っているのみで、氷の上に雪が積もっているなどと考えてもいなかった。

それが証拠に、スニーカーで来ていた。氷だからそこが滑らないように配慮はしたが、スニーカーはスニーカー。ブーツや長靴なんか持ってきてない。

仕方なくそのまま雪の中をずぼずぼ進んでいく。靴の間から雪が入って、一瞬で靴の中はぐしょぐしょに。一緒に行った先生たちは慣れているので、どんどん先に行く。遅れないようにと頑張って歩いていた時だった。

 目の前が真っ白に・・・

何が起こったのか分かるまで少し時間がかかった。前日に来た人があけた穴に右足がはまってしまったのだ。

慌てて足を引き抜き事なきを得たが、釣り始める前からテンションはダダ下がり。車の中のワクワク感はどっかに吹っ飛んでしまった。

 「このあたりで釣ろうか」

一番年上の先生の声に促されて釣る準備をはじめる。氷にガリガリ穴をあけて、テントを張って。準備も完了し、いざ!

何分経っただろうか・・・。4人で行ったのだが、誰の竿にもヒットがない。

 「わかさぎの通り道をはずしちゃってるかな・・・」

一番年上の先生がそんなことを言ったが、もう少し頑張ってみることにした。寒いとトイレが近くなるもので、いったん釣りを止めてトイレに向かうことに。

雪の中をまたずぼずぼ歩いていると、来る時と同じ光景が・・・。

目の前がまた真っ白に・・・

今度は、左足が穴にはまった

 「え・・・?抜けない・・・」

血の気が引いた。今度の穴は最初にはまった穴よりも小さかったのか、足が抜けないのだ。どうもがいても抜けない。だんだん足が冷たくなってくる。

もがいているうちに、ふと思った。

 「これって、靴が引っかかってるのでは?」

氷の角に靴のかかとの部分を引っかけた。スポっと靴が脱げ、足も無事外に出た。すぐさま、穴の中に手を突っ込み、脱いだ靴も捕獲した。思いのほか冷静だった。

スニーカーだからうまくいったのだと思う。長靴やブーツだったらそう簡単に脱げないはず。そう考えると、どうなっていたのだろうとゾッとするととも、浅はかな考えでスニーカーで来たことへの後悔が薄らいだ。

不憫に思った一番年上の先生が、カヌー部の顧問をしていたこともあって、車に積んでいた小さなビート板を私の靴底に縛り付けて、簡易かんじきを作ってくれた。見た目はカッコ悪く、しかも歩きづらかったが、足がはまるよりましだった。しかし、2回もはまったことで恐怖心が芽生え、その場にジッとして動かないことにした。

両足がびしょびしょになった私は、もう帰りたい気持ちでいっぱいだった。濡れた両足からは、加湿器にでもなったのかと疑うほど、尋常じゃない湯気が

その後もしばらく釣りつづけたが、本当にわかさぎの通り道を外したのか、4人とも片手で数えらる釣果だった。私は2匹釣れたが、穴にはまったダメージから、2匹の釣果では気持ちが上がらなかった。その2匹も持ち帰ったところでどうなるわけでもなく、湖に返してきた。

お昼頃、もう上がろうということになって、その場を撤収。近くの温泉に向かった。体が冷え切っていたので、温泉は極楽だった。そして、お約束のように、食堂でわかさぎ定食を食べた。

ただ、温泉に入ろうと服を脱いだ時に目を疑った。両足の太ももが青あざだらけ。おでんに入っているちくわのように、青あざがまだら模様になっている。穴にはまった際に、氷に結構強く足を打ち付けていたようだ。

その後、足が1週間くらい痛み、すべての青あざが消えるまでさらに1週間かかった。

私のワカサギ釣りデビューは、このようにさんざんだったが、今となっては楽しい思い出になっている。気の置けない人たちとわいわいするのは楽しいし、両足を穴にはめるなんてそう簡単にはできない経験だから。

まだまだサポートをいただけるような状況ではないですが、よろしければお願いします。