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狩猟イベントに参加しました

狩猟や肉の解体に興味を持ったのはおよそ1年前で、自分の衣食住をもっと自分で責任を持って賄えるようになりたい、毎日狩猟して自給自足というのは難しくても、自分で生き物を肉にする力というのはあってもいいんじゃないかと思ったことがきっかけでした。

今回、あわくら温泉元湯さん主催のイベントでは、用意された生き物の解体ではなく、足取りをつかみ駆け引きの上で獲物を捕らえ仕留めるという、野生動物と人間の戦いを2日かけて追っていきます。

1日目 座学

14時に元湯に集合。続々と人が集まってきました。女性5人(うち8歳と4歳くらいのお子さん)、男性5人の計10人が参加しました。まずは講師である寺下さんの自己紹介と、狩猟についてのお話がありました。製鉄所から転職し猟師として生きていくことにした経緯、海外と日本の狩猟の違い、狩猟方法についてなど…。

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寺下さんは趣味であった登山中にカモシカに会い、「怖い」と思った悔しさから猟師に興味を持ったそうです。また海外と日本の狩猟の違いとして、銃の代わりにボウガンを用いたり、オス鹿をおびき寄せるのにメス鹿の尿100%の液体(とっても臭い)を用いたりするそうです。日本の猟師さんは職人のようなイメージですが、海外の狩猟は「狩人」という言葉がぴったりな気がします。

今回の狩猟体験では罠を仕掛けて獲物を捕らえるということで、狩猟方法についてもお話がありました。日本では主に銃2種(空気銃・実弾の銃)、罠、網が方法として認められていますが、寺下さんは普段罠で猟を行い、近付いて仕留めるのが危険と判断したときだけ銃を使うそうです。通常は銃でなく寺下さんが自らの手で獲物を殴打し気絶させ、とどめを刺します。実は以前西粟倉に訪れた時、寺下さんの猟の見回りに同行させて頂くとイノシシがかかっていたことがありました。その時も殴打で気絶させていたのですが、いざ自分が獲物を前にしたときにそれが出来るか想像すると、狩猟への興味とは反対にかなり抵抗があると感じました。

今まで散々肉を食べておきながらその過程を目にしたのはここ1年ほどで、どんな生き物であれ殺してでも食べるのなら仕留めて解体することを知るのは大事なことだと思いますが、生半可に狩猟を始められないと気が引き締まります。

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また、括り罠の仕組みも実践を交えて解説していただきました。ばねの力を使い、罠を踏み抜いた獲物の脚をワイヤーでくくります。罠自体はAmazonでも買えますが、猟師さんの中には改造・自作する方も少なくありません。

1日目 罠の仕掛け

ガイダンスが終わり、いよいよ罠を仕掛けに行きます。元湯と川を挟んで向かいの山へみんなで移動。この日は想定外の積雪でフィールドサインが消えてしまっているのでは…という懸念もありましたが、ところどころ足跡が見えます。

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上は蹄の跡だけなのでシカ、下は体が雪に接してしまうウサギやキツネなどの小動物と考えられます。足跡を見るとどちらに向かったかが分かりますが、積雪のない日と異なり雪の日はけもの道以外も歩けるためあまり参考にならないそうです。雪が積もると罠が埋まったり凍ったりして作動しないことも多々あり、仕掛ける位置を定めるのが難しくなります。

さて、しばらく山を登っていくと、大人一人が余裕で入れる檻が置いてありました。これも罠の一種で「箱罠」と言います。普段から置いている罠だそうです。

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試しに作動していただきました。箱の中の細い糸にふれるとストッパーが外れ、中空で固定されていた入口が落ちて獲物を閉じ込める仕組みです。箱罠の利点は作動させる日を決められる点で、例えば罠は作動させずに撒き餌で数日間おびきよせておき、慣れたころに罠を作動するよう仕掛けておくというような使い方ができます。ただしクマは罠でとってはいけないと決められているので、逃げれるように上部に穴があけられています。箱罠で捕らえた獲物は殴打で気絶させることが出来ないため仕留めるのが難しく、棒の先にナイフを括り付けて心臓を刺すか、やむを得ず銃を使います。

引き続き括り罠を設置する場所を探します。

一か所目は獲物を捕らえたことがあるという木の根元に仕掛けます。獲物は罠にかかると暴れるので、ワイヤーの脚をくくる側の反対側はしっかり木に固定します。狩猟免許を持っているがまだ猟をしたことが無いという大学生の中村さんが罠を設置します。

わな (2)

どの脚で踏んでも罠は作動するのですが、くくった脚が傷んで食べられなくなるため、より可食部の少ない前脚を狙うのが基本です。シカがエサを食べるときの体勢を想像し、撒き餌のすぐ右側に仕掛けます。さらに罠の周辺を石で囲み、罠の上に脚を乗せるよう誘導します(小林式誘引法)。

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他に道が交差するポイントと、けもの道の途中に一つずつ仕掛けました。かかってくれるでしょうか。

雪もやまず、薄暗くなってきました。元湯に戻り、今日の活動はいったん終了です。

1日目 食事

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宿に帰り、入浴後夜ご飯を頂きました。シカ肉を使ったメニューです。

・サラダ
・フランスパンにシカひき肉を詰めた○○
(名前が思い出せない、大変おいしい)
・シカのミートボールシチュー
・シカの背ロース丼

シカ肉はかたいというイメージを抱いていましたが、どれも歯ごたえはありながら柔らかくジューシーで、おなか一杯になりました。

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元湯で別のイベントが開催されていたのもあり、人出が多くにぎわっていました。半田さんが焚き火を用意して下さり、ほかの参加者の方や寺下さん・半田さんといろいろなお話が出来ました。21:30、元湯の閉店時間に合わせこの日は解散です。

2日目 見回り

雪は夜も降っていたようで、さらに積もりました。7時半に元湯で朝食を食べた後、昨日仕掛けた罠を見に行くことに。寺下さんいわく、すでにほかの場所の罠を見回りに行ったがかかっておらず、残るは設置した3ヵ所と同じ山に前から設置していた3ヵ所の計6か所。

ゆきー

膝まで埋まる雪で歩くのも一苦労です。前を歩く人の足跡を踏むように進みます(帰りは踏み固められてとても歩きやすかったです)。


さて結果は…


残念ながらどの罠にも獲物はかかっておらず、猟果はありませんでした。これだけ雪が降ればシカもイノシシも動かずにじっとしているでしょう。何日かして雪が減ったら、おなかが空いた多くの動物が米ぬかを食べに来るのではないでしょうか。獲物こそいませんでしたが、帰り道数人で一緒に雪にダイブして、新雪を楽しみました。

生でとどめ刺しを見ることはできませんでしたが、イベントの一週間前にオス鹿を捕らえた時の映像をみんなで見ました。4歳とみられる立派なシカは何度か殴打しても倒れません。動きが徐々にゆっくりしてきて、ふらふらしたところを最後に横から鉄パイプで殴るとようやく倒れました。気絶したところで耳から顎のラインに沿ってナイフを入れて血抜きをします。すぐには絶命せず、途中で意識が戻ると暴れます。なるべく早く血抜きをした方が良いですが、シカの体勢や生命力で血抜きが進まないときは心臓を刺します。瞳孔が開き、目が緑色になって死を確認したら獲物を転がしながら運びます。このとき引きずらず転がしていかないと、肉が熱をもって傷んでしまいます。

ずっと息を止めているような感覚で、徐々にシカが生気を失っていく様子は自分で殺生することの重さを改めて感じさせます。血抜きの途中で意識が戻る場面では自分に置き換えて想像してしまい早く殺してくれと思いましたが、おそらくオス鹿は最後まで生きようと暴れもがいていたのが重く印象に残っています。

2日目 解体

映像を見終わった後、「ちづDeer’s」に移動し、解体の様子を見学させて頂きました。今回は当日に他の猟師さんが持ち込んだメス鹿を、赤堀さんが解体します。

※以下、解体の写真が続きます。

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正直下処理・解体の前は、姿かたちは生きているシカで首だけが変な方向に曲がるので、口からはみ出た舌と相まって不気味です。後ろ片足にワイヤーをかけ吊り下げることで下処理しやすくします。

まずシカ全体をバーナーで炙り、毛を燃やします。ダニなどを殺すと同時に毛を燃やして除去することで肉に異物が混入することを防ぎます。思ったより大胆に全身を炙り、その後高圧洗浄で前身をきれいにしていきます。こげ茶になっていたシカですが、表面の毛が剥がれ落ちると内部はきれいなままでした。最後に肛門にホースで直接水を流し込み、糞を排出させます。これにより解体の時に糞が肉につくのを防ぎます。余談ですが、新緑の季節には糞が真緑色になるそうです。

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いよいよ解体が始まります。踵からくるぶしにかけて皮をはぎ、アキレス腱辺りの骨にフックをひっかけて吊るします。

解体の時に大事なのは内臓を破かないこと。においや汚物が肉につくと商品にならないからです。そのため、最初に膜を介さず内臓と直接つながっている肛門の周囲をくりぬいておき、また食道と気管支を首から取り出して2か所を結束バンドで固定し、その間を切断します。これにより、食堂から肛門までの臓器が皮などの圧力だけで内部で留まっている状態にすると同時に、内容物を出すことなく頭部を切り落とすことが出来ました。

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この状態でおなかの皮を切っていくと、圧力のなくなった内臓が重みで自然と出てきます。胃や肺、心臓を確認して、バケツで受け止めました。

隣にいたご家族のお母さんの、「あんたが生まれてきたときもこんなんやったで」というお子さんに向けたひとことが忘れられません。

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皮を剥いでいきます。イノシシの場合は肉厚な脂をできるだけ残さなければいけないため時間のかかる作業になりますが、シカは皮と肉の間に脂がほとんど無く、皮を少し引っ張ると見える筋膜を裂いていくようにナイフを入れるとするすると皮が離脱していきます。15分ほどでシカは、見た目にも生き物ではなく肉になりました。

シカ全体の体重のうち、肉として残るのは約3割。内臓を取り除き、骨も無くなると可食部は見た目よりずっと少ないことがよく分かります。

時間が無くここから先の精肉作業は見学することが出来ませんでしたが、ここからの捌き方もまたの機会に見学したいですね。

まとめ

今回の狩猟体験イベントはここで終了となりました。天候を初め、自然を相手にしている以上当初の理想とは違った展開になったかもしれませんが、一連の流れを体験させて頂いたことは貴重な経験になりました。自分が狩猟免許を持っていざ野生動物と対峙したとき、殺せるかどうかは正直分かりませんが、狩猟に対してはもっと興味を持ちました。山や動物の動きなどを今とは違う角度で捉えられるようになりたいです。

(文責:清水)

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