マガジンのカバー画像

小説

277
物語です。
運営しているクリエイター

2020年2月の記事一覧

『飛空艇』

 握っている金属製のハンマーを目の前のこぶし大の石に叩きつける。
 キィンという甲高い音が鳴ったが、石はほんの一部分が割れて剥がれただけでほとんど形を変えなかった。
 何度もその作業を繰り返す。
 甲高い音が工房中に響き渡る。
 その作業を繰り返してやっと石の中心にある手のひらに収まる大きさの半透明の石柱を取り出すことが出来る。
 この半透明の小さな石柱こそが『飛行石』と呼ばれる希少な鉱石であり、

もっとみる

『身代わり』

 ダンジョンがひしめき、魔物が跋扈する世界。
 人々は剣と魔法を引っ提げて、世界の開拓を目指している。

 「えっ……と、『身代わりの護符』ですか?」
 「はい、『身代わりの護符』です。置いていませんか?」
 目の前の綺麗な女性はにこやかにそう告げた。

 ギルドに併設してある道具屋。
 そのカウンターで対応したのは最近この道具屋でアルバイトを始めたばかりの新人の少女であった。
 少女は「お待ちく

もっとみる

『焼肉』

 焼肉とは焼いた肉を食べるシンプルな料理である。
 シンプルな料理ではあるが、基本的にはよほど火加減でも間違えない限り誰が作っても美味しく食べることのできる素晴らしい料理である。
 かく言う僕も料理が得意ではないが、焼肉ぐらいなら美味しく出来る自信はある。
 もちろん料理の得意でない僕より料理の得意な人物が作った方が、臭い消しや下味付け、タレやソースを作ったり、火加減や焼き加減の完璧な調整を持って

もっとみる

『動物と会話できる人間』

 「ほぅ……」
 カイロ代わりに自動販売機で買った温かいお茶を一口飲み、白い息を吐いた。
 1月1日、元日の今日は住宅街の中にあるこの公園はいつもより一層静寂を保っている。
日は傾き、空は淡い藤色をしていて、冬の寒さを引き立てているようだった。

 ぼーっと、そんな空を眺める。
 年末の忙しさから解放されたこともあり、なんだかぼんやりしてしまう。
 しかし、我ながら去年は駆け抜けた一年だった。
 

もっとみる