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小説

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2019年5月の記事一覧

『ご飯ネタ』

 「――お疲れさまでした」
 渡した書類に一通り目を通した受付のお姉さんは書類に判を押すと、にこやかに依頼の完了を告げてくれた。
 お姉さんは今度は別の紙に判を押してから、こちらに一枚の紙を渡してくれた。
 今度は僕が「どうも」と告げてにこやかに依頼完了証を受け取った。

 昼過ぎの公共ギルド(主に小さな町や村に設置されている簡易的なギルド機関)は多くの冒険者たちが集まっており、ガヤガヤと騒がしい

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『ギターを弾けないギタリスト』

 「どうっすかなぁ……」
 窓に面した大通りを眺めながら呟いた。
 空は朱に染まり始めたが、大通りを行くヒト達は少しずつ増えてきたようだった。
 仕事が終わり家路についている者も多いだろう、しかしそれだけではない。
 多くの者が集い始めた理由、それがどこからともなく聴こえてくる。
 歌声と打楽器を叩く音、そして美しい旋律を奏でる笛の音。
 正確に言えば「笛」だけでなく、管楽器、吹奏楽器と呼ばれる分

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『スマートフォン』

 高度に発達したテクノロジーを有する現代社会において、今僕の手の中にある小さな長方形のデバイス、スマートフォンの中に世界の全てが集約されている。
 だから、僕が教室の隅でみじめに目の前のスマホとにらめっこするだけの休み時間を過ごしているように見えるとしても、そのスマホの中で画面の向こうの人間と繋がっているのだから、決して僕が世界から隔絶されているということなどない。
 
 周囲のクラスメイトの声が

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「平成から令和」

 ガチャリ、と音を立てて部屋の扉が開いた。
 「あー……疲れた……」
 この部屋、103号室の住人である風島 清景(かざしま きよかげ)は21時過ぎのこの時間にやっと帰って来たのであった。
 靴を脱ぎ、部屋の中を進む。
 1Kの部屋の明かりを点ける。
 男子大学生の一人暮らしにしては小綺麗な部屋だった。
 肩にかけたカバンとギター、それと手に持っていたエフェクターボードを下ろし、コリをほぐす様に肩

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