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【人怖】アキオくんから聞いた3つの短いお話【実話怪談】

【人怖】マスク

アキオくんから聞いた話。

アキオくんは秋田出身で、私とは大学で知り合いました。
田舎者と思われるのが嫌で、大学デビューを果たしたアキオくんは、とにかくチャラくて声が大きくて馴れ馴れしくて……私とは縁のないタイプの男性だと思っていました。
ところが、不思議なことに、このアキオくんは大人になった今も交流があります。

そんなアキオくんが、この間会ったときに「悪いけどマスク外してくれない?俺さ〜、マスクをしている女性、今めちゃくちゃ怖いんだよね。」と、言い出しました。
詳しく話を聞くと、彼は昔と変わらぬ大きな声で話し出します。

新型コロナウイルスも5類になり、段々職場でもマスクを外す人が多くなる中で、頑なにマスクを外さない女性がいたそうです。
名前はハルナさん。
大人っぽい雰囲気で、きっとマスクを外したらめちゃくちゃ可愛いんだろうなぁと、アキオくんは密かに狙っていたのだそうでした。
ちなみにアキオくんは、大学時代から女性関係が派手で、得意の話術を駆使して様々な女の子をナンパしていました。大人になってもそれは変わらなかったようです。

ハルナさんはおっとりニコニコしながらも、仕事はテキパキこなすキャリアウーマンで、隙がなさそうに見えましたが、ある日会社の飲み会で口説き落としが成功して、LINEをやり取りする仲になりました。
「こうなればもう、こっちのものっていうか……まあ、最終的に、そんな流れになってさぁ。」
そんな流れ、というのはまあ、つまり男女の仲ってことなんですけど。
「実はデート中も飲食しないし、マスクを一切外してくれなくて。それであの日、初めてみたんだよね、俺。ハルナさんのマスクの下。」
アキオくんが、ハルナさんのマスクを外すとそのマスクの下の顔には。


殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

びっしり、赤いペンで隙間のないくらいに、書いてあったんだって。
絶句するアキオくんに、ハルナさんはにっこりして。
「これ、書いといたら、大嫌いな上司の前でもニコニコしていられるよ?オススメ。」って、言ったんだそう。
それ以来アキオくんは、女性のマスク姿を見ると、あの文字が浮かんじゃって、もう、怖くて仕方ないんですって。

これは、アキオくんの実話です。

【実話怪談】机の文字

アキオくんから聞いた話。

大学のゼミで、どういうわけか1人ずつ怖い話をすることになりました。
アキオくんはチャラくて話術に長けていて、こういう時には1番周りを盛り上げてくれそうなのに黙り込んでしまい、「俺は特にないから、パスで。」とらしくないことを言うのです。
なにか隠しているような感じがしたので、気になって後からアキオくんに聞いてしまいました。
「ほんとは、何か怖い話あるんでしょ?」って。
アキオくんは「あるよ……キミが連絡先を教えてくれるなら話すよ。」と、言いました。
そんなわけで、そこで初めて連絡先を交換して以来、アキオくんとは腐れ縁で未だに友人です。

あの時、軟派で有名なアキオくんに連絡先を教えてまで聞いた怖い話は、とても奇妙な話でした。

中学生の時、アキオくんは今と違ってとても暗くて真面目な少年だったそうです。
親からの期待が大きく、習い事は週5で入っていて、毎日とても息苦しく、学校でも下を向くことが多かったと言います。
1年生のある日、音楽室の机に文字が書かれていることに気付きました。

『友達になろう』

その文字に目が釘付けになり、すぐにシャープペンシルを取り出して「いいよ。俺はアキオ。キミは?」と、返事をしたそうです。
それから、音楽の時間になると必ずその机を確認して、文字のやり取りが始まりました。

相手の名前はユズキ。男の子。3年生。サッカーが得意。好きな食べ物はカツ丼。勉強が苦手で、受験が憂鬱。

毎回短い文字のやり取りですが、いつ見ても必ず返事はありました。
ある時アキオくんは、「もっと話せたら良いのに。」と机に書きました。
すると、『いいの?じゃあもっと話そう』と返事がきました。「どうやって話す?会う?」とアキオくんが書くと。

次の返事は、アキオくんの教室の机に書かれていました。

『これでいつでも話せるね』
という文字に、アキオくんは少し驚きながらも、「俺の席、知ってたんだね!」と返事を書きます。
すると、アキオくんの書いた文字がスッと消え、『これからもよろしく』と浮き出てきたのです。アキオくんは一気に怖くなり、慌てて文字を消して、それきり返事をしなかったんですって。

これで終わり、と思いきや。
帰宅して漫画を読もうと自分の机に座ったら、


『どうして無視するの?』

って、少し大きめに書かれていたそうです。

泣きそうになりながら慌てて消して、震える手で「もうやめて。どうしたら消えてくれる?」って、思い切って書いてみたアキオくん。

すると。

『友達、紹介して』

と文字が浮き出てきました。
それも慌てて消そうとしますが、今度はどういうわけか、消そうとしても消えません。
それどころか、

『友達、紹介して』

『友達、紹介して』

『友達、紹介して』

と、次々に文字が浮かび上がってくるのです。

友達。

アキオくんは悩み、考え、そして。
「同じクラスの宮下タカシがキミの友達になるよ。」
と、書きました。

宮下タカシくんは、自分よりもっと暗くて、いつも俯いて教室でずっと本を読んでいる男の子。クラスでも浮いた存在で、数人の男子からイジメられていました。
(アイツならいいだろう。)と、やはりアキオくんも、どこか彼を見下していたんだそう。

『わかった』

と、文字は浮かび、全部の文字がフッと消えました。ガクガク震えながら、(良かった、これで終わり。)とホッとしたんだって。

次の日から。

やはり気になって、チラチラと宮下タカシくんの様子を見ていたアキオくん。タカシくんの様子はいつもと変わらず、安心したそうです。

「……だけどさ、それからタカシは段々人が変わったように明るくなって、それと同時にタカシをイジメてた奴らが次々と大怪我していって、俺、怖くてタカシを避けてたんだ。」

ザワリ、と、嫌な感じがしました。

「でも卒業も間近になって、修学旅行で一緒の班になっちゃって。でも、話してみたらタカシは良いやつでさ。一気に仲良くなって……そしたら旅行の最後に、ヤツは言ったんだ。」
しばらく黙り込むアキオくんに、私は続きを促します。
アキオくんは震える声で言いました。

「良い友達を紹介してくれてありがとう。この体、気に入ってるよ。」

にっこり笑うタカシくんを見て、アキオくんは絶句しちゃったそうです。
よく考えたら、タカシくんの書く文字は、あの机に書かれていたユズキくんの文字と全く一緒だったんだって。

タカシくんは、ユズキくんと、机の上でどんな話をしたんだろうね。

これは、アキオくんの実話です。

【実話怪談】鍵盤の小人

アキオくんから聞いた話。

アキオくんは子どもの頃、今で言う毒親から教育虐待を受けていたんだそうです。
習い事は週5で入っていて、友達と遊ぶ暇もなく、家では母親からずーっと監視されて、勉強の日々。スポーツも妥協を許されず、更にはピアノまで。朝から晩まで休まる時間が無かったそうです。

私もアキオくんのピアノ、頼み込んで1度だけ弾いてもらったことがあるけど、本当に上手なんですよね。
アキオくんは普段チャラチャラしているから、「黙ってピアノを弾いてた方がモテるかもしれないよ。」って言ってみたんだけれど、アキオくんは「できればもう、ピアノは弾きたくないんだよなぁ。」って。
「こんなに上手なのに、勿体無いよ。」と言う私に、実は……と、アキオくんがこんな話をしてくれました。

中学2年生の時に、大きなコンクールに向けて有名なピアノの先生の厳しい指導を受けていたアキオくん。
毎日過酷なレッスンを受けて、寝る間もなく練習していたので心身はボロボロだったそうです。

「あの時期、スポーツは指を怪我するかもしれないからってそっち系の習い事は全部辞めさせられて、その分ピアノを弾きなさい!って。母親は鬼みたいでさぁ。参ってたんだよね、ほんとに。だからアレは、俺の見間違いかもしれないんだけど……。」と、アキオくんは前置きして続けます。

その年、有名なピアノコンクールで、順調に勝ち進んだアキオくんはついにファイナリストになっていました。
「もちろん母親は大喜びで、更に練習が厳しくなって。でもさ、ある時俺、見ちゃったんだよね。」何を?と、私が聞くと、アキオくんが真剣な顔で言います。
「鍵盤から滲み出てくるの、不気味な小人が。」「小人?」
「うん。俺、ついに頭がおかしくなったと思って、笑いながら練習したよ。小人を叩き潰すように弾いて、実際小人もグシャグシャ潰れて……まあ、幻覚だって自分でも思ってたんだけど。」
それから、しばらく黙り込んだアキオくんに、続きを促します。

コンクール当日。

最終調整でピアノスタジオに入ったアキオくんが、いつものようにピアノを弾くと、隣で見ていた母親が突然。

本当に突然、気が狂ったそうです。

「ひぃ……!何これ!!変なのがいる!嫌!来ないで!何なの!?鍵盤から、ヒトが、ヒトが!!誰か!!!」

何かを払い除けるように暴れる母親は、最終的に泡を吹いて倒れて救急車で運ばれてしまったんだって。
不思議なことに、その時に限ってアキオくんの目には、何も見えなかったそうです。

「コンクール?もちろん棄権したよ。」

アキオくんは笑います。

それから。
アキオくんの母親は人が変わったように大人しくなって、アキオくんの事を全く見なくなったんだって。
「あのままの教育を受けてたら、俺はきっと東大に入れてたよ。」
なんだか複雑そうな顔をして、アキオくんは言いました。

これでアキオくんから聞いたお話はおしまい。
アキオくんの話は、どこまで本当なんだろうね?
他にも沢山聞いた話があるから、続きはまた今度。

これは、アキオくんの実話です。



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