#93 百鬼堂農園(33) 葱頭梁山泊
「やがて土に還ろう。そう思った時、人は孤独ではなくなります」穆弘・穆春の父、穆紹が宋江に言う。宋江の父も土に親しみ、消えてゆこうとしている。このあたりの諦念というほどでもない感情が、実感として感じられるようになった。なってしまった、という感じか。
いやまあそこまでは枯れていませんが、土いじりは楽しいものですな。え?北方水滸伝、WOWOWでドラマ化されるの?
タマネギをついに植えた。汗だくになり、作業の途中に何度も腰を伸ばし、畝を新たに一列起こす。籾殻と肥料を混ぜ込み、腐葉土をかぶせてならす。その数日後に訪れたホームセンターの店頭には、タマネギの苗は残りわずかしかなかった。指南本やYouTubeに出ているものにくらべ、かなり苗が細い。これからもう少し立派なものが出回るかもしれない。しかし、もし出回らなければ、今季は諦めるほかない。悩んだが、大きく育つことを願って買った。
指で畝に穴を開け、細く弱々しい苗を15センチ間隔で植える。30本300円くらいの束を2つ買ったので、植えたのは60本近く。うう、また腰が痛い。苗が倒れそうだけど、大丈夫かなあ。心配を口にすると、妻は「長ネギも大きく育ったから、大丈夫じゃない?」という。今はたくましく育った長ネギも、植えたころはよく倒れたなあ。妻が言うならきっと大丈夫だろう。
芽が出ず失敗したかと心配していたハクサイが、1週間近くしてようやく発芽。うまく育ってくれるだろうか。心配のタネが尽きないのも、農というものか。本職の農家の方とは全然レベルは違うだろうけど。
ダイコンとコマツナは恐ろしい勢いで葉が虫に食われ、まともに育つのはせいぜい3割くらいではなかろうか。農薬も含め、来季は防虫アイテムを投入せざるを得ないかもしれない。ホームセンターで防虫ネットを眺めて悩む。投資は惜しくないが、手間は惜しい。何といっても、使わないときの資材の置き場所が家にない。車に積みっぱなし、というのは最後の手段だ。このままだとハクサイもやられるのだろうか。悩ましいことである。
「そう、また明日がある。土があれば、永遠に。地球がなくならない限り、農業は続く。だからこそ、楽しくないといけないと思う。」
「わたしの農継ぎ」(高橋久美子、ミシマ社)。市民農園の私なんぞとはご苦労のレベルが違うけど、悩み、戦い、そしてみんなで喜ぶ農業の話、といったところか。黒糖の話や石垣の話は興味が尽きない。「その農地、私が買います」の続編。面白い本です。関心のある方はぜひどうぞ。