#75 最近よんだもの(18) 半身でいこう
「百年の孤独」(ガブリエル・ガルシア=マルケス、新潮社)は人にあげたりして、単行本で3回買った。池澤夏樹の読み解き支援キットをプリントアウトしたが、文庫版を買って久しぶりに読んでみようか悩んでいる。
「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(三宅香帆、集英社新書)
日本人と労働と読書について、働いて生きていくことについて、深く考察した一冊。著者の名前は近年、新聞の書評などで目にすることが増えたが、なるほどこんな本を書く人だったか。思いのほか味わい深く、骨太な印象のする好著でした。
要所要所に出てくる「花束みたいな恋をした」(坂元裕二、リトル・モア、筆者は未読)の引用が絶妙に象徴的で、面白い。当時のベストセラーから時代を読み解く、斜め上からや下からや裏側からの視点が素晴らしい。谷崎潤一郎、司馬遼太郎、さくらももこ、階級・格差問題と教養主義、コミュ力、カルチャーセンター文化、自己啓発。雑多なテーマを俎上に載せて、みごとに捌く。これだけでも、著者が多読乱読雑読であることがわかり(多分ですが)、たくさん読んでる人は面白いなあ、と思う。
私なんかは「教養」という言葉に毒されているのかもしれない。昭和平成の時代をモーレツビジネスマンとして生き抜いてきた諸氏にとっては、苦い味のする本かもしれません。本読みの方もそうでない方も、特に、忙しい向きにはぜひ読んでほしい。
「私たちはノイズ性を完全に除去した情報だけで生きるなんてー無理なのではないだろうか」
この無理を押し通そうとするところに、人間らしさがあるのだろう、とも思う。「自己実現の奴隷」にならないというのは重い言葉で、自分も、趣味などへの向き合い方も考えないと、バーンアウトする可能性がある。仕事でバーンアウトしない自信は少しあるが。
個人的には近年、人見知りながらも職場以外のところにいろいろ身を置くよう心がけており、農園経営もその一環。私は武道をちょっとやっているので、「半身で働く」という一文には感銘を受けた。武道の半身とはまったく違った意味で使っているのだが、武道では攻めにも守りにも瞬時に転じられる基本姿勢。相手の攻撃を、世間の荒波を、真正面から受けてはダメなのだ。受け流して、その上でできるなら、力に転じていきたい。
余談。小説「地上」作者としての島田清次郎の名前をこの本で久々に目にした。「天才と狂人の間」(杉森久英、河出文庫)について熱く語っていた衰弱堂氏を思う。
「君と宇宙を歩くために」(泥ノ田犬彦、講談社)
マンガ大賞2024受賞作。とてもよかった。若者の生きづらさとひたむきさを描く、なんて紋切り型の説明はむなしいほどの快作。必読。
「DIE WITH ZERO」(ビル・パーキンス、児島修訳、ダイヤモンド社)
三宅香帆の流れもあって、流し読み。働きすぎ注意。旅に出たい。
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