20240226 ワルツ
「はっはっはっは」
その男は大きな口を開けて笑う。歯並びの整った白い歯は、まるで塗りたてのペンキのようだ。
「俺の長所だって?」
それまでずっとトントンと何かの儀式のように手に持っていた煙草を咥えると、おもむろに火をつける。
「すまんすまん、わかったよ。もうふざけずにきちんと答えるからそんな顔をしないでくれよ。」
そう言うと、火をつけたばかりの煙草を揉み消し、目線を窓の方へ向ける。窓辺の鉢植えを見ているのか、外の景色を見ているのかはよく分からない。ただ、その男の周りに突然静寂が流れ込んできた。
「俺はね。俺は浪費癖があるのさ。」
「金の話じゃないよ。金なんて使えば全て浪費さ。家だろうが車だろうが、さっき食べたミートスパゲティだってね。もちろんキミと今話していることだって、見方を変えれば時間の浪費とも言える。」
「そうじゃない。金とか時間とかそんなものの浪費じゃない。」
「浪費というワルツを踊る癖があるのさ。これはそう誰でもできるものじゃない。だから俺の長所として挙げたまでさ。」
「そんな怪訝な顔をするなよ。ちょうど今あの窓から入り込んできたから、少しだけなら。ほら、耳を傾けて、そしてこうステップを踏んで…」
そう言って男は立ち上がると、奇妙な足の動かし方で狭い部屋の中を動き回る。
「はっはっはっは」
「ほら、キミも一緒に。」
食器棚や照明器具にぶつかる度にガシャガシャと音が鳴る。
「ほら、聴こえないのかい。」
「はっはっはっは」
男はいつの間にか真っ黒な影のようになり縦横無尽に動き回る。
「はっはっはっは」
「ほら、一緒に。ほら。」
「はっはっはっは」
「はっはっはっは」
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