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火車【読書感想】宮部みゆき

以前一度読んだのだけど、改めてもう一度読んでみたくなったので再読。

でも以前読んだ時より当たり前だけどドキドキ感は薄れた。
この小説は一人の女性を追いかけていく臨場感を登場人物の目線で追体験していくので、一回読んでしまっているということはクリアしたゲームをしているようなものなので衝撃が無くなるから…
そりゃースリルは薄れるよね。

あと、思った。
当時はすごく怖かった。この小説。
高校生の時ぐらいに読んだと思うので、もう22年以上前のことだけど
その時代とはいろいろな物が変わった。
法律や知識を得る方法や時代背景。
どれが一番怖さを薄めたんだろうか。
知識を得る方法=インターネットの普及 だろうか。

クレジットカードと言うものが新しくできて、お金が無くてもカードで手に入れることができるという魔法のような方法ができてしまった。
そのために起こる借金地獄がこの時代には溢れていたんだろうな。
その時代背景が恐ろしかったんだと思う。
社会的弱者の人権が当たり前に踏みにじられていることが。
法律が間に合ってないから現在では不可能な利息もとれて、放棄できる…というかそもそも負う必要の無い借金のせいで人生をボロボロにされている人たちとか。
借金の片に風俗に落とされると言うのがごく当たり前になってる。
女だったら風俗に落とされて、男だったら肉体労働か臓器売買か。
足があったらいいなって思う蛇に、足があるように映る鏡を売る蛇がいる。
カードの怖さ狡さをこう表してる。
「蛇には足がないよ。そういうもんだって知っている人なんだよ」
って言ってくれる人が近くにいない人。
孤独の怖さ。

転轍機が音もなく切り替わって地獄へ続く道へ少しずつ変えていく。

言葉の一つ一つが印象的な小説なんだよね。宮部みゆきの小説は昔話みたいな教訓を言うところがあるなーって思ったりするんだけど
その表現の言葉がとても印象的。

さらにはこの追われている女は
同じ境遇(借金のために家族がバラバラになってその一人一人が辛い仕事につかされて精神も体も蝕まれて、逃げても執拗に追いかけられてせっかくつかんだ幸せも壊されて捕まる恐れ)にある女性を殺して
彼女に成り代わってしまった。
結果、地獄から逃げたけど入れ替わった相手も地獄の奴隷だった、と。

追う休業中の刑事のセリフ
「君たちは共食いをしたのだ」が辛くてつらい。

若くて美人で聡明な一人の女性が逃亡をし続ける話。

だからあの結末で最後だったのだと思う。

逃亡者の話だったから。

今はこの話は生まれない。
この時代にインターネットで検索をして法律を調べたり、相談窓口を探したり助かる方法が多いから。
彼女がまだ今も生きていたら、あの慎重に自分を隠し、小さい可能性も拭う聡明な彼女はきっと助かって本当の幸せにたどり着けていたと思う。
50歳半ばぐらいかなぁ?
結婚してるだろうか。してなさそうだな。
綺麗なご婦人なのに独身で、穏やかで物静かだけど、すごく影のある笑顔をする時があるわねぇあの人。と噂されるような人だろうな。
新城喬子。


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