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不登校対策定番メニューを意味あるものにするには スクールカウンセラー編

前回は、スクールカウンセラーが不登校対策としてかなり不十分なもので、不登校の児童生徒数を減らすことにも、また再登校につなげることも、あまり役に立っていないという現実をお伝えしました。

https://note.com/hutsumi1977/n/nd57cbb2ad792

今回は、意味のあるSCにするためにどうすればいいのか、を考えます。

アメリカのスクールカウンセラー

そのための導入として、アメリカのスクールカウンセラーが、どのような役割を担っているかを確認しましょう。

アメリカのスクールカウンセラーの仕事例としては、例えば以下のような役割があります。

  • 「人間関係力/人間力」を育成する授業を行う(ガイダンスプログラム)

  • ソーシャルスキルのトレーニングを行う

  • 問題・課題を抱える「可能性」の段階から関わる

  • 教師のカウンセリングを行う

  • 1人1人全員と各学期に面談を行う

などなどです。(米国のSCの仕事に関しては、最後にWEB上で閲覧できるものをいくつか載せておきます)

そもそもアメリカの場合は、先生はあくまで「授業」のプロであり、子どもたちの心理面や社会性の面などには原則的に関わらないことがほとんどです。日本の先生に慣れている見方からするとすごく冷たいようにも思えますが、むしろ先進国で言えば、こちらの先生のあり方がスタンダード。それゆえに、生徒の心理面や社会関係の面での成長をサポートするスクールカウンセラーなどの専門職が学校内部に必要なのだと言えるでしょう。

ここで少し遠回りをします。日本は1995年からスクールカウンセラーを段階的に導入していますが、その際にもちろんアメリカをお手本にしています。では、アメリカはなぜスクールカウンセラーを学校現場に導入しなくてはいけなかったのでしょうか。恐らく、その背景として、社会が産業化・消費社会化し、テレビなどの娯楽産業も増え、モータリゼーションが進み、地元や地域の人々同士の結びつきや社交が少なくなるなど地域コミュニティが徐々に衰退を始めていたことがあるのだろうと考えられます。日常生活において子どもたちの心理面を安定的に保っていた人間関係は薄れ、子どもがメンタル的な不調をきたしても、それらを家庭(主に主婦)で支えなくてはいけない状況になり、学校において、社会的な対策として心理面をサポートする専門家が求められるようになっていった。(パットナム著『孤独なボウリング』というコミュニティ衰退を研究した書籍がありますが、その本の中で語られている時代よりもずいぶん前から米国の都市部では社会構造の変化が始まっています。)

まぁ、ざっくり説明すると、子どもたちの心理的社会的成長を支えるためにスクールカウンセラーという専門職が求められた、ということです。

実際、神奈川県スクールカウンセラー協会HPの「アメリカにおけるスクールカウンセラーの役割」で、キャリア20年の米国SCは、以下のように述べています。

カウンセラーとしての私の役目は、全ての児童が情緒的にも社会的にも成長することであり、自分の得意と不得意、強み弱みを理解し、学校と社会で成功するためにう必要な問題解決能力を与える事です。

アメリカにおけるスクールカウンセラーの役割 神奈川県スクールカウンセラー協会HP

社会に向かって伸びていく子どもたちの心理的社会的成長を全面的に支えるのが、アメリカのSCの仕事です。


日本のSCは「いじめ」「不登校」対策の専門家?

翻って、日本はどうでしょうか。

⁠文科省の説明⁠によるとSCの導入に関しては、「近年のいじめの深刻化や不登校児童生徒の増加など、児童生徒の心の在り様と関わる様々な問題が生じていることを背景として、児童生徒や保護者の抱える悩みを受け止め、学校におけるカウンセリング機能の充実を図るため、臨床心理に専門的な知識・経験を有する学校外の専門家を積極的に活用する必要が生じてきた。」ということだそう。

アメリカのSCが子どもの成長を心理的な側面から全面的にサポートしていく体制であるとすれば、日本の場合は、主に「いじめ・不登校」できずついた子どもたちの事後的ケア専門の職員という位置付けが強いですね。

ここには、全ての子どもの心理的な安全や不安定のケアという観点は抜け落ちているように感じます。

不登校の位置づけとSCの役割のズレ

さらに問題があります。それは、文部科学省の「不登校」の位置づけとSCの仕事の大きなずれです。

文部科学省は「不登校については,取り巻く環境によっては,どの児童生徒にも起こり得ることとして捉える必要がある。」と述べています。

「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」


この認識自体は、ごく正当なものだと思います。しかし、「どの子にも起こり得る」と通知を出しているにも関わらず、スクールカウンセラーを事後的な対策としてしか活用しない自治体がほとんどです。「どの子にも起こり得る」のならば、アメリカのSCがやっているように、学期に1度はSCが子どもたち全員と面談をするなどして、その子が心理的に抱えている課題や学校への感情、進路への不安、仲間との関りにおける問題などをしっかりと把握すべきなのではないでしょうか。「誰にでも起こり得る」という認識があるのに、そこへの具体的な対策はしていない、というのは、ある意味で、理解していなから対策をしていないことよりも、ずっとよくない状態だと思います。わかっていてやっていないのだから。

「不登校対策」としてSCを制度化している限り不登校の子どもたちは減らない

ということで、SCを本当に意味があるものにするには、非常に逆説的ですが、そもそも「不登校対策」としてSCの仕事を行わない、ということが大事なのではないかと思います。

1.学校復帰や不登校予防のためのSCではなく、登校の可不可と関係なく、その子の成長と発達・自律、良好な他者関係構築をサポートするものとして位置づけをしなおす。

2.ソーシャルスキルの具体的なトレーニング 

3.保護者全体への利用ガイダンスもできるかぎりSCが対面で行う 

4.教師へのカウンセリングを行う

ひとまず、このどれか一つからでもいいのでやっていただきたいなー。

SCの拡充は素晴らしいと思います。
しかし、現在のやり方を踏襲したままやっても人・金・時間の無駄なる可能性がかなり高いです。運用そのものをしっかりと変えて、拡充という方向へと進んでほしいものです。

みなさんは、どうお考えですか?


podcastやってます!


興味がある方は以下も参考に

アメリカにおけるスクールカウンセラーの役割 神奈川県スクールカウンセラー協会HP
https://ksca.info/about/america/

カンザス州 (米国)で見たスクールカウンセラーの活躍 ;小学校編
/https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/1/14364/20160527204448136573/006_119_129.pdf

アメリカのSC制度等についての調査
https://www.clair.or.jp/j/forum/docs/2021-11-19.pdf

*この調査を踏まえると、そもそもスクールカウンセラーは「いじめ」や「不登校」に専門的に対応するものとしてさえ考えられていない可能性がある。これは「いじめ」や「不登校」へ対応しないのではなく、それらは様々な生徒が抱えている問題の一部なので、SCの仕事として、わざわざその問題を焦点化する必要を感じていないのかもしれない。

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