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独身気分で宛て無くドライブ

そうだ。こんな時は温泉に行こう。

思い立ち、愛車に飛び乗った。

自粛要請の影響で、温泉施設は軒並み5月一杯休んでいる。

地方の田舎町は既に宣言解除。

飲食店もチラホラと営業を再開しているようだ。

オープンしている所は無いかとググると、候補が3箇所見つかった。

1.山奥の硫黄系温泉(東へ片道50キロ)

2.山奥のナトリウム系温泉(南へ片道40キロ)

3.海側の硫黄系温泉(西へ片道40キロ)


天気も良い。海沿いをドライブすることに決めた。


子供たちはお年頃で、何か買って欲しい時やカラオケに行く時くらいしか一緒に出掛けてくれなくなった。

あいつは・・・。

まあ、第三次成長期だか、反抗期だか、そんなものが女にはあるらしい。

鉾先を変えてしまうのがスマートな男の優しさだろうと嘯いたが、爽やかな潮風に洗われ流れた。


独身気分の気楽なドライブは、追い立てられる日常から遠ざかるようで、開放感に満たされる。


進まぬ仕事、見えぬ展望、得体の知れない不安感。

汗と一緒に全て洗い流そう。


「申し訳ございません。ただいま『密』のため、入場制限がかかっております。」ですとな!!

(゚Д゚;)(゚Д゚;)(゚Д゚;)

うそー!

いやはや、宣言解除とあって、皆さんお出かけしたくなるよね。

道中、なんとなく車が多かったような気も。

やれやれだぜ┐(´д`)┌ヤレヤレ


こんな時、律儀に待つなど、男の美学に反するので。

『密です!』状態のロビーを後にした。

(あんなの、制限する意味あんのかなぁ。。。密を避けるために密を作って本末転倒じゃん(゚Д゚;)(゚Д゚;)(゚Д゚;))


せっかくここまで来たのだ。幾分遠回りして帰ることに決めた。

海沿いに標高700メートル程の山があり、山頂までのスカイラインはおよそ30分。


梅雨前の陽気に、緑が溢れていた。


山頂付近のパーキングでは、粋な走り屋たちが弄った相棒を並べていた。

弄ろうが何をしようが、文句を言わずに乗らせてくれる相棒。

そんな相手に入れ込んだこともあったと、ほんの少しだけ後ろを振り返った。


見上げた視線の先には、展望台が。

ざっと500メートル程だろうか。石畳の階段がうねっていた。


登らぬ理由はないだろう。


だが、山奥の石畳は定期的な整備がされていないためか、並びが無造作で不規則だ。


おろしたてのSantoniのローファーが、滑らかな斜面で滑る。

ワンサイズ小さく、履いて慣らそうと素足なのが、ここで災いするとは思いも寄らず、靴擦れで足が悲鳴をあげた。


だが、靴擦れ程度で引き返すのなら、その程度の意思決定なのだ。

山頂に至らなければ見えない景色もあるはずだ。


柄物のYシャツにチノパンの男が、レザーのクラッチを脇に抱え裸足で石段を登る姿に、すれ違う若者の笑う声が背中から聞こえた。

何も履かずに外を歩くのなんて、いつ振りだろうか。無骨な硬さを味わいながら、山頂に辿り着いた。


展望台から見下ろす海は、果てが無く、穏やかだった。

山の緑と、海の青さの調和に、傾きかけた太陽が少しの茜色を差していた。


このまま、海に陽が沈むのを眺めて居たくなったが、雲の多い今日は、沈む太陽を見ることはできない。

そうと決まれば、長居は無用だ。

足早に下りた。


それにしても、温泉を目指して出掛けたのに、温泉に入れずおめおめと帰るなんて勘に触る話だ。

気付けば、南のナトリウム泉に向かってハンドルを切っていた。


どうせ独り身だ。誰に咎められることもない。長年眠らせていた自由への渇望が目を覚ました瞬間を内側に感じ、不思議と高揚感が湧いてきた。

明日からまた新しい週が始まるのだ。今日を、悔い無く過ごそう。


宛ての無いドライブは、時間に限りがあるからこそ、充実をもたらす。

次は、晴れた日に麓から自分の足で登るのもいいだろう。


かすかな心の傷も、激しい靴擦れの痛みも、いつの間にかどこかへ消えていた。

晴れた心と程よい体の疲れは、深い眠りへと私を誘った。


2020年5月25日

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