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ゲルソン・インスティテュート・アンバサダー氏家京子 連載コラム第4回「健康食と治療食」

この記事は2020年3月11日、ヒューロムWEBマガジン naturise「ゲルソン・インスティテュート・アンバサダー氏家京子 連載コラム第4回『健康食と治療食』」に書いた記事を転載しています。

ゲルソン食のガイドライン

 ゲルソン療法の食事には「治療食」としてのガイドラインがあります。このガイドラインがゲルソン食を「健康食」とは違う「治療食」にしています。
 古今東西、世界中にはさまざまな健康食があります。ゲルソン食にはそれらと共通するルールがある一方で、相反するルールも数多くあります。それは、ゲルソン食の目的が健康維持ではなく、病気治療にあるからです。

良い食事でもがんになる

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  悪い食事が病気の要因という場合、「健康食」に変えれば病気が治ることがあります。この経験から「健康食」が「治療食」と勘違いされるケースもありますが、病気の原因は食事以外にも多数存在します。
 なかには、生涯にわたって良い食事をしてきたのにがんになる人もいます。メキシコのゲルソン・クリニックには、健康食指導者やセラピストの肩書きを持つ患者さんも治療に訪れます。「健康食」で病気が治らなくても、それは不思議なことではありません。「健康食」と「治療食」とでは、根本的に目的が違うからです。

治療に必要な「推進力」

 まず、治療には健康維持よりも大きなエネルギーが必要です。ゲルソン療法では毎日2600~3200kcalのエネルギー源をジュースと食事から摂取します。
 ただし、患者さんの体のエネルギー工場「ミトコンドリア」ではシステム障害が発生しています。その復旧のために塩を使わない「高カリウム/低ナトリウム食」を同時に行い、摂取した栄養をスムースにエネルギー化できるようにします。
 治療の初期に迅速にミトコンドリアのシステム障害を正すことが、後の結果に直結します。なぜなら、治療の初期には大きな「推進力」が必要だからです。

治癒の旅へと飛び立つために

 たとえば、飛行機が離陸するときには大量の燃料を燃やしてエネルギーを作り、高速で滑走路を走ります。それが「推進力」を生むので、離陸した後にはより小さなエネルギーでも飛行が可能になります。
 ゲルソン療法でも、治療の初期に「推進力並みの大きな治癒力」を作ることが大切です。病気の進行に抵抗して治癒の方向性を得るには、それだけ大きな力が必要なのです。
 ゲルソン食のガイドラインは、必要な「治癒力」を効率良く得られるようにデザインされています。

ガイドラインの一例
 ゲルソン食のベースラインは、新鮮な無農薬・無化学肥料の「プラントベースド・ホールフーズ(植物性未精製食)」です。そこに、独特なガイドラインが加わり、さらに各患者に合わせたプロトコルが作成されて、治療が始まります。
 たとえば、ガイドラインでは以下のものが禁止・制限事項になります。

・塩(自然海塩、岩塩も含む)
・亜麻仁油以外の油脂
・大豆と大豆加工食品
・ナッツ・タネ・木の実
・発芽食品
・小麦(全粒小麦も含む)
・マッシュルーム
・海藻・海草
・刺激の強い香辛料(唐辛子、コショウ)
・アルコール・カフェイン
・加工・保存食品

初期のタンパク質制限

 ゲルソン療法の「治療食」では、初期の6~8週間に高タンパク食品を制限するのも特徴です。それには次のような理由があります。

1.細胞内の過剰なナトリウムを排泄しやすくするため。
2.免疫細胞のTリンパ球を活性化させるため。
3.損傷のある細胞や腫瘍が作る代謝廃棄物を減らすため。

ゲルソン療法で摂取するタンパク質

 高タンパク食品の制限期間が長くなり過ぎると免疫機能が低下するので計画的な再導入が大切です。
 しかしながら、実際には、制限期間中でも患者は1日の推奨摂取量を上回るタンパク質を以下のように食べています。

・ジュースから:約56.25g
・オートミールから:約7.1g
・その他、スープやジャガイモから

 ジュースと朝食のオートミール粥だけでも毎日63.35gのタンパク質を摂取します。タンパク質の1日の推奨摂取量は、成人男性60g、成人女性50gなので、制限期間でも患者が著しいタンパク質欠乏になることはありません。(参考:「日本人の食事摂取基準2015年版」厚生労働省)
 Dr.ゲルソンは、高タンパク食品の一時的な制限で自分の患者の白血球のリンパ球が増えているのを1930年代から観察していました。タンパク質制限による細胞性免疫の活性化は、現代免疫学の父として知られるDr.ロバートA.グッドの研究でも証明されています。
(Robert A. Good, M.D., The Influence of Nutrition on Development of Cancer Immunity and Resistance to Mesenchymal Diseases, New York, Raben Press, 1982)

ゲルソン食と自律神経

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 ゲルソン食のベースライン「プラントベースド・ホールフーズ(植物性未精製食)」は、豊富なカリウムとマグネシウムを含み、また、体液をアルカリ化することから、自律神経にも影響を与えます。
(参考:Nutrition and The Autonomic Nervous System, The Science Foundations of The Gonzalez Protocol, Nicholas J. Gonzalez M.D., p.xii)

 自律神経には2種類の神経系「交感神経系」と「副交感神経系」があり、私たちの体の必要性に応じて全身の支配権を交代します。
 たとえば、ストレスがある時は「交感神経系」が、回復が必要な時は「副交感神経系」が、それぞれ全身を支配します。
 1日のなかで「交感神経系」と「副交感神経系」の交代が適切に行われ、全身の器官が活動と休息をバランス良く得られるのが理想的です。
 しかし、現代の私たちの暮らしにはストレス要因が多く、「交感神経系」が長時間労働を強いられがちです。そのため自律神経のバランスが崩れ、回復に必要な「副交感神経系」に交代しにくくなっています。

がんと自律神経

 がんと自律神経の関係は大きな関心が寄せられている研究分野の一つです。たとえば、「自律神経が乳がん組織内に入り込み、がんの進展や予後に強く影響する」ことが最近の日本の研究で発見されています。(国立がん研究センター、2019年7月9日プレスリリース発表)
 「プラントベースド・ホールフーズ」は、バランスを崩して「交感神経系」支配になり過ぎている自律神経を「副交感神経系」に交代させやすくします。なかには、「副交感神経系」の支配が強いがん患者さんもいます。その場合には、カルシウムを持つ酸性食品(動物性食品)を加えたプロトコルでバランスを取ります。
 一人一人の病状に合わせた計画性のある治療食が、ゲルソン療法の食事なのです。

■参考書籍
『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』、氏家京子著、2019年発行

ゲルソン療法に関する日本語HP
ゲルソン・クリニックのHP

このコラムを書いた人
氏家京子(うじいえ・きょうこ)

1972年生まれ。
健康雑誌の編集部に6年勤務。米国系統合医療サービス企業に1年勤務。 フリーランスジャーナリストとして独立後、統合医療や自然療法分野の取材を国内外で継続し、医療消費者への教育活動、統合医療に関する翻訳書籍の出版を行う。
1998年から始めたゲルソン療法の取材経験は日本でもっとも豊富で、米国ゲルソン・インスティテュートから日本アンバサダーに任命される。
ゲルソン療法のワークショップを開催するほか、ゲルソン・クリニックへの入院希望者に通訳として同行する業務も行う。
ゲルソン療法の患者教育を担うゲルソン・エデュケーター育成、ゲルソン療法専門医の育成にも携わる。
2019年6月、『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』を出版。

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