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【生肉食について】


生肉流行


生肉食が巷で流行りを見せているようです。確かに生肉は美味しく、柔らかく、栄養素の漏出もなく、ワンちゃんも喜んでいるように見えますよね!より自然な状態が良いとするなら、生肉をあげるのが良いのかも知れません。

ただし、「自然な状態=良い」という前提がそもそも正解かどうか分かりません。今のヒトの平均寿命をみても分かるように、生活の変化によって寿命は延びています。ワンちゃんの寿命も当然医学や食の知識の進歩により延びているのです。

自然な状態より管理された状態の方が一般的に寿命は延びます。つまり、もし長生きして欲しいと願うなら、その願望に合った適切な食を選ぶ必要があります。

自然な状態の方が幸せだ!と飼い主が判断するならば多少のリスクを負って生肉をあげるのもアリかと思います。
今からそのリスクの話をしましょう。

リスク

➀ウイルス感染

鹿からヒト、イヌへのウイルス被害の実際がどうかというと、このような感染症は僕の周辺では一度も聞いたことが無い。2003年に生食によるシカ→ヒトのE型肝炎感染が確認されているが、それ以降聞かないし、イヌに関しては一度も聞いたことがない(イヌの臨床現場の声を聞く限り)

実はウイルスが種を跨いで感染することは珍しいことです。
「いやいや、エボラ出血熱とか、色々怖い人獣共通感染症ってあるし!実験で異種感染成立してるし!エゾシカのウイルスがヒトやイヌにだってかかるかも知れないじゃないか!」という主張も良く分かります。

だが、あの手の異種感染を実験的にどのように行うか、知っている方は少ないのではないでしょうか?
ああいうのは感染させるのが結構難しく、場合によっては実験動物を固定しウイルスを含むミストを超高濃度で当て続けて感染を成立させることもあります。
それだけ動物種を跨ぐ感染というのは、無理矢理起こすことさえ困難なのです。

正直、我々猟師の中でも鹿肉を生肉で食べたことのある方は多く、高齢ハンターの方々に聞くとまず「食べたことあるよ」とおっしゃいます。ここで特に注意が必要なのがやはりE型肝炎でしょう。
ちなみに先述の通りE型肝炎の健康被害があった。亡くなった。と聞いたことは「身の回りでは」ありません。
実際はあるのかも知れませんが、僕の肌感としては、エゾシカの生食によるウイルス性の健康被害が起こる頻度はかなり低いです。
事実、E型肝炎ウイルスを保有しているシカはかなり稀というデータも出ています。

それでも、もし起こった時のリスクはかなり大きいです。場合によっては死にます。妊婦さんは特にリスクが大きいです。(まぁ常識的に妊婦さんは生食なんてしないとは思いますが)
だから、獣医師という立場では「絶対おすすめしません」と言うしかありません。
ちなみに、イノシシは無視できないレベルの割合でE型肝炎ウイルスを持っているというデータがありますので、絶対に生食はしたくないですね!
ワンちゃんに生肉をあげることに関しても、原因ウイルスは変わってくるかも知れませんが、常に同様のリスクは考えられます。
ウイルスは熱で失活しますから、しっかり厚労省推奨の温度で加熱することをオススメします。



②細菌感染


上記の様にウイルスによる被害は稀だとは思いますが、細菌感染、特に食中毒菌感染は十分に考えられます。細菌は種をまたいですぐ感染が成立します。

生肉の上には細菌がたっぷりいます。その中には大腸菌などの食中毒菌も当然いる可能性があります。大体は消化を受けてそのような菌は殺せるので多少の細菌が入ろうが大した問題にはなりません。皆さんも普段から細菌類は無意識に口にしています。
ただし、わざわざ好んで細菌がウヨウヨ付いているかも知れない生肉を食べるのはやはりリスクでしかありません。
その生肉がどういう処理をされたかによって表面にいる細菌の数はかなり変わってきます。
処理の過程が見られない限り、僕は他人の捌いた肉は生では愛犬にやはりあげたくないですね。

僕は保健所の認可をいただいて、そういった細菌類が肉の表面に付かないような解体のできる施設を建設中ですが、それでもなお加熱をお願いするつもりです。

③寄生虫

言わずとしれた生食のリスクです。
エゾシカですと、特に住肉胞子虫、トリヒナ、エキノコックス(これはほぼ無視して良いレベル)かと思います。
が、実は大きなリスクなのですが、これによる被害もかなり稀です。
どの程度稀か、知りたい方はそれぞれググって見てくださいね!

まぁただ、感染しないに越したことは無いですし、当然寄生虫は加熱により死にます。
だったら加熱してリスク除去した方が良いです。

④カビ

カビなんて見りゃ分かるよ!と思うことなかれ。
実はカビが生えてなくても処理の段階でカビが付着する可能性はゼロではありません。
万が一カビ毒を摂取してしまった場合、ごく少量で肝臓の機能を壊す威力を持っています。
気を付けましょう。

加熱しましょう!!!

結果、獣医師としての見解はやはりこれに尽きます。
生食によるメリット(嗜好性の向上、溶出または熱破壊される栄養素が少ない)も十分理解できますが、それでも万が一の際に被るデメリットが大き過ぎます。

ただ、これらのリスクを理解した上で、メリットとデメリットを秤にかけて、自己判断するのはアリかと思います。

現に、うちの子には少しくらいの生肉は普通に食べさせています。
が、これは僕が自分で撃って自分で捌くからこそ為せることです。

加熱しても毒は残る

さて、最後に重要な注意喚起をしておきます。
加熱を過信しないで下さい。多少悪くなっても加熱したから大丈夫!と思ってはいけません。
細菌やカビ自体は死にますが、この病原体が出した毒素は加熱では失活しないことが多いです。また、病原体が死ぬ過程で毒素を放出し悪質度が増すことさえあります。

とにかく鮮度の良いものを、適切に加熱して与える。
これがペットにジビエ肉をあげる時の最良の選択かと思います。
※猛禽類、爬虫類、野犬、ウルフドッグの場合などなど、生肉の消化が問題なく、それしか食べない。という場合は例外かも知れません。

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