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兎追いし彼の山



まだ獲ったことのない獲物がいる。
兎だ。

北海道に暮らすエゾユキウサギは冬になると
体が真っ白になる為、木の根元などでじっとされると
全く分からない。

数回だけ、走っているところを見た事があるが
遭遇率は鹿よりも全然少ない。
生態系の底辺に近いところに位置するはずなのに
鹿より個体数が少ないのだろうか。

兎追いしかの山、と唱歌に歌われるくらいであるから
子供でも追いかけられるような動物で
珍しくもないはずなのだが
とにかく北海道では姿を見ない。
私にとっては謎だらけの動物である。

以前に比べ数が減っている、という調査結果もあるが
絶滅が危惧されているわけでもなく
狩猟鳥獣としても認定されているので
今年は是非一匹獲ってみたいと思った。

遭遇率の低さから考えると
犬でもいない限りは
銃を持って山を歩いても勝算はない。
そこで罠を仕掛けることとした。



もう10年以上前の話だが、
カナダ・ユーコンのキースとは
兎を獲った事がある。
当時、キースが住んでいた地域は兎が多く、
家からそう遠くない場所に
たくさんの足跡があった。

頻繁に使っている道は明確に分かり、
その中でも木と木の間をすり抜けるようなポイントに
幾つものくくり罠を仕掛けた。
針金で作った輪の中にちょうど顔を突っ込むよう、
脇に小枝なども刺して獣道を狭めて誘導する。
20個ほど仕掛けて翌朝に見回ると
1、2匹、かかっていたり、いなかったり、
という感じであった。

兎の皮剥ぎは、鹿とは違って腹を割らずに
両後脚の膝下から肛門まで切れ目を入れ
まるで靴下を脱がすように一本の筒状に剥く。
皮を剥いだ後の体は
イメージしていたより全然小さいことに驚く。
全くと言っていいほど脂肪がなく、
一つ一つの筋がはっきり分かる真っ赤な筋肉は
まさにアスリートそのもの。
兎は脂肪ではなくフカフカの毛皮だけで
暖をとっているのだろう。

味は正直、あまり記憶にない。
ネットで検索すると「味の濃い鶏肉のよう」と出てくる。
最近読んだ本の中に秋田の阿仁マタギの話があり、
兎は骨まで全部砕いて肉団子にし、
皮や脳、目玉までも食べ、耳以外は全て平らげるという。
是非、自分でもやってみたいものだ。



今まで兎の足跡を真剣に探したことはなく、
友人からの情報を頼りにポイントを決める。
罠を仕掛ける場合は
日程と場所を管轄の森林管理局に連絡し
許可を得る必要がある。
なかなか自由が効かないが
法令は遵守しなくてはならない。
年末の休暇を利用して
5日間、罠を仕掛けることにした。
期間中は毎日見回りも欠かせない。

細い真鍮の針金を漂白剤につけて黒く染め、
投げ縄のような構造の罠を作る。
罠の数は一人最大30個までと法律で定められており、
とりあえず前の晩までに25個を作った。



初日、実際に罠を仕掛けに行ってみると
まだ雪はうっすらとしか積もっておらず、
足跡は少ししか見当たらない。
前脚は一筋に縦につき、その前に両後脚が平行に着地する
独特の足跡だ。
立ち止まった時だけ、前脚の足跡が二つ並んでつく。
なぜここで立ち止まったのだろう。
物音に驚いたのか、食べものの匂いを嗅ぎつけたのか。
周囲の状況を見ながら色々想像する。

兎のものと思われるフンを見つけ、
その付近に罠を二つ仕掛けることにした。
明確な獣道を見いだす事ができなかったため、
罠の先にキャベツも少し置いた。




翌日、微かな期待を胸に罠を見に行くが
案の定罠には何もかかっていなかった。
しかし雪が降った事で初日より足跡が見やすい。

林道を横切り、また戻っている足跡を見つけ
そこに新たに三つの罠を仕掛ける。
しかし、カナダに比べ圧倒的に足跡が少ない。

結局その後毎日見回るもウサギはかからなかった。
は兎はおろか鹿も口をつけないまま
透明に凍りついているキャベツ。
惨敗だった。


兎の猟期は1月末まで。
あとひと月、諦めずにできることをやってみよう。

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