最後の日
終わった。ハッキリそう認識した。
雲行きの怪しい空を真下から眺め、唸るような風の声を耳を済ませながら目を閉じる。課題も、終わってないな。やばい、課題出した教師、めっちゃ怖いのに。なんて考えながら風を浴びる。
何となく、頬に当たる風が心地いい。
風に当たって涼しい、気持ちいい、なんて思ったことはあるが頬に当たって心地いいなんて初めての感覚だった。
イヤ、何度かはリンゴのように赤くなった頬に涼しい風が当たり気持ちいいと口に出したことはあるかもしれない。けど、心地いいは初めてだ。
段々指先の感触が消えていく。 何も出来ず動かない。多少は動けるが無理に動かない。
自転車でつっ転けて、橋から真下の岩場に落ちたなんて、笑えるわ。笑ってくれや。
目が、閉じそう。 空間認識が遅れる。時間がゆっくり進んでいる。1秒が1分に感じる。ジワジワジワジワと汗が服に染みるかのように頭から出血した血が岩やシャツに染みていく。 痛さはない。麻痺している。だいぶ酷めの麻痺だろう。これも笑えてくる。だって何も感じない。ああ、もう。
「"▶@;;―??」
声。 認識が遅れながら、カタツムリが前を横切るのを目で追うかのようにゆっくりゆっくりと声の方を見る。 短髪、くろがみ。 ああ、アイツか。
「%*-:;????」
何て、言ってんだ。 今思えば思い出ばかりの日々だった。蘇ってくる記憶に、フッと笑みが溢れる。いつも隣にいたアイツ。
春。
「なあ、何かさ。最近ここら辺事故多いらしいけどお前大丈夫なの?」
「えーーとなんの心配?別に大丈夫だけど」
「自転車だからさ、いつか転けそうじゃん」
「んーまあ、大丈夫っしょ」
夏。
「なあ、本当に?なん、大丈夫?」
「怖いんだけど、なに?なになに怖い」
「いや…危なそうじゃん」
「めっちゃ心配するやん」
秋。
「…」
「そんな目で見んなよ」
「別に…」
「心配すんなって、大丈夫だから」
思えば春夏秋心配してたなアイツ。 目の前がボヤけてるし、耳も聴こえづらいからアイツがなんて言ってるのか分からん。最悪。
心配すんなって、戻ってくるって。
そう安心づけたいのに、声が出ない。終わりだ、眠りに落ちそうだ。そう思い、まぶたを閉じる。最後ぐらい、なんて聞こえてるか知りたい。
そう思っていたら、段々と耳だけが覚醒してきた。カラスの鳴き声も、子供の笑い声も認識出来ている、神様、ああ神様、ありがとう。 そう思いながら、アイツの声に耳を傾けた。
「やっと死んだ?」
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