2019大学祭配布冊子「図書館でSFが読みたい!」(17) 4.専門書編(3/3 数学小説)

注意:この記事の情報は2020年4月末時点のものです。また、半分個人の備忘録的な内容であるため、あらすじや紹介を見て興味を持っただけの未読作品も含まれています。

小説としての数学小説

 最後に、個人的な興味から独断と偏見で「数学小説」をまとめて紹介します。ただし「数学」には論理学・情報・コンピュータも含みます。

 先述したSF作品の中では、『第四次元の小説』  『順列都市』 『盤上の夜』 『海を見る人』『アリスマ王の愛した魔物』(の表題作)や「ぼくの手のなかでしずかに」(『あがり』に収録)がそうです。他にも円城塔なども数学・情報をモチーフにしたSFを書いています。最近の作品では『浜村渚の計算ノート』(青柳碧人)が有名になりました。

 もちろんSFでない「数学小説」もあります。例えば『博士の愛した数式』(小川洋子)や『天地明察』(冲方丁)、『容疑者Xの献身』(東野圭吾)がよく知られています。他にも和算をテーマにした歴史小説があったり、児童書・ヤングアダルト向け作品の中にも結構あったりします (後者では向井湘吾が有名) 。雑誌編で挙げた『数学セミナー』  『現代数学』に掲載された短篇もそうです。

専門書としての数学小説

 そんな「数学小説」ですが、専門書に分類されるものとしては、例えば『フラットランド たくさんの次元のものがたり』(エドウィン・アボット・アボット)、『ピュタゴラスの復讐』(アルトゥーロ・サンガッリ)、『四次元の冒険』(ルディ・ラッカー)や「ビックリ」がくせになる『数の悪魔』(エンツェンスベルガー)、読むだけで論理的思考が身につく数学自己啓発小説らしい『論理ガール』(深沢真太郎)、それにサイモン・シンのあの著作『フェルマーの最終定理』よりは大分易しい『[小説]フェルマーの最終定理』(日沖桜皮)、ハノイの塔を通して数学の問題の解き方を描く『第三の理-ハノイの塔修復秘話』(根上生也)などがあったりますが、白眉は『数学ガールシリーズ』(結城浩)と川添愛の諸作品(『白と黒のとびら』 『精霊の箱』 『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』 『自動人形の城』 『数の女王』)です。流石にストーリーは青春小説で教科書的な『数学ガールシリーズ』をSFと言ってしまうのは無理矢理感が出ますが、川添愛の一連の著作は上手くファンタジーと情報理論を融合させておりSFといってしまってもよいでしょう。むしろ『数学ガールシリーズ』は私にとってはアンチ森見登美彦(=リア充)的な意味でSF(数学”ファンタジー”)なんて思ったりします。

 他にも『時そばの客は理系だった 落語で学ぶ数学』(柳谷晃)なんていう新書がありますが、数学的な落語といえば題に入っている「時そば」や、料金紛失トリックっぽい「壺算」、上手く損を分ける「三方一両損」などが思い浮かびます。「頭山」も"自分の頭に飛び込む"ということを再帰だととらえるとフラクタル落語かもしれません。さらには、近代の文豪と数学との関りを述べた『数学を愛した作家たち』(片野善一郎)もありました。短歌だと『愛×数学×短歌』(横山明日希)という歌集がありますが広大図書館には入っていませんでした。

 数学"小説"ではないのですが『ライフゲイムの宇宙』(ウィリアム・パウンドストーン)もおすすめです。内容はセルオートマトンの入門書で、80年代以降コンピュータが発達すると同時にSFの題材として良く選ばれるようになっている(ここに上げた中では『順列都市』など、井上夢人や小川一水も取り上げています)ので読んでみるとそれらの理解が深まるかもしれません。ライフゲイムには表れるパターンに「グライダー」や「宇宙船」など名前がついていたりしますが、その「ただのビット列に名前を付け物語性を見出す」所は、まさにSFにも重要な想像力の発露だと言えます。

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