2019大学祭配布冊子「図書館でSFが読みたい!」(14) 3.雑誌編(2/2 その他の雑誌)

注意:この記事の情報は2020年4月末時点のものです。また、半分個人の備忘録的な内容であるため、あらすじや紹介を見て興味を持っただけの未読作品も含まれています。

文化・芸術系の雑誌

 ところでSF小説の特徴は科学・技術(Science, Technology, Arts)との親和性の高さからいわゆる通常の"小説誌"以外にも掲載されていることがある点です。文化・芸術系の雑誌で言えば、『ユリイカ』の2018年2月号の特集は後の項で取り上げる「クトゥルー神話の世界」で酉島伝法、高山羽根子、赤野工作、藤田祥平、久正人らの創作が載っており、『現代詩手帖』の2015年5月号は「【特集】SF×詩」と銘打って最果タヒ、円城塔、酉島伝法、飛浩隆らの詩が掲載されています。『ユリイカ』には結構創作が載っているのでこまめにチェックすると良いでしょう。また『美術手帖』には2010年4月号~2014年8月号にかけて「<小説>」という企画で画家、写真家などのアーティストとコラボした小説が載っており、阿部和重、円城塔、最果タヒ、古川日出男などが書いています(後に『小説の家』というアンソロジーにまとまっていますが、これは所蔵されていません)。

科学系の雑誌

 さらに『日経メディカル』には2007年2月号から2008年1月号まで『医学のたまご』(海堂尊)が連載されていました。小説と全然関係なさそうな『数学セミナー』にも2009年4月号にQR-JAM(QRコードの発展形みたいなもの)の応用例として小林泰三が「探偵助手」という小説を寄稿しています。また、『科学』というシンプルな題名の岩波書店から刊行されている雑誌には2008年4月号に円城塔の「物語《GC Equation》」が、『Bit』というコンピュータ系の雑誌には複雑系(カオス)の研究者である金子邦彦による小説進化の小説「小説 進物史観」が1997年6,7月号に掲載されています。金子邦彦は円城塔の指導教官だった方で、この小説中の登場人物(?)の名前から「円城塔」の筆名がとられています。

 古い雑誌も読み逃せません、先ほどの『数学セミナー』に先駆けること約30年前の1974年、『現代数学』という雑誌にも石原藤夫による数学を絡めたSFショートショートが掲載されていました。1977年に『別冊 現代数学』で「数学とSFの世界」と題してまとめられています。またそのさらに20年前、中高生向けの科学雑誌『科学画報』に日本SF第1世代や周辺の作家たちが小説を連載していました。広島大学図書館に所蔵されている範囲だと、「宇宙人」(新田次郎)(1957年1~6月号)、「地球爆発」(森田有彦)(1957年7~12月号)、「宇宙の警鐘」(丘美丈二郎)(1958年1~6月号)、「αケンタウリ」(小隅黎)(1958年7月号)、「γ博士のロボット」(宮崎惇)(1958年8月号)、「未来人」(吉田要)(1958年9月号)、「テスト・パイロット」(小隅黎)(1958年10月号)、「クレヴァス」(槇敏雄)(1958年11月号)が確認できました。

学会誌

 学会誌にも小説が掲載されていることがあり、『人工知能学会誌』には2012年9月号から2016年11月号まで「日本SF作家クラブ50周年記念プロジェクト× 人工知能学会コラボレーション企画」として松崎有理、眉村卓、新井素子、森岡浩之、宮内悠介、藤井大洋、田中啓文、機本伸司、大原まり子、小林泰三などが「人工知能」をテーマに短編を書いており、後に『人工知能の見る夢は AIショートショート集』という短編集にもなっています。が、雑誌自体は総合科学部の研究室にあり読みに行くのが大変かもしれません。

 また、天下の科学学術雑誌『Nature』にも「Futures」というFictionのコーナーがあって、例えばグレッグ・イーガンは「Only connect」(未訳)が2000年に、テッド・チャンは「What's expected of us」(邦訳「予期される未来」が『息吹』に収録)が2005年に掲載されています。アジア圏の作家だと夏笳の作品「Let's Have Talk」(未訳)が2015年に掲載されています。当然英語で書かれていますが、語学学習に良いかもしれません。あんまりSFとは関係ありませんが『150年前の科学誌『NATURE』には何が書かれていたのか』(瀧澤美奈子)も合わせてどうぞ。

おすすめの雑誌掲載作品

 ということで、(広島大学図書館に単行本未所蔵のため)雑誌でしか読めないSF系の注目作として以下のものを挙げておきますので、気になる方は是非読みに行ってみて下さい。

・「α-ケンタウリ」(小隅黎) 『科学画報』1958年7号
・「少年アリス」(長野まゆみ) 『文藝』1988年文藝賞特別号
・「小説 進物史観」(金子邦彦) 『Bit』1997年6月号,7月号
・「オリエント急行十五時四十分の謎」(松尾由美) 『別册文藝春秋』2000年秋季号
・「冬至草」(石黒達昌) 『文學界』2002年5月号
・「Swallowed Whole(まる呑み)」(Julia Slavin(著)/岸本佐知子(訳)) 『群像』2007年5月号
・「探偵助手」(小林泰三) 『数学セミナー』2009年4月号
・「手帖から発見された手記」(円城塔+倉田タカシ) 『美術手帖』2010年4月号
・「統合前夜」(三崎亜記) 『すばる』2012年10月号
・「呑み込まれた物語―あるいは語られたブラックホールの歴史」(麦原遼+宮本道人) 『現代思想』2019年8月号

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