第44回広島大学中央図書館小展示「S(すごい)F(ふしぎ)の世界へようこそ!~エキサイトかつスリリング! エモーショナルなファンタジー!~」 展示書籍紹介・解説<勝手に広島大学図書館の本を紹介>

会員のW辺です。今回は広島大学中央図書館で2020年4月~12月に行なわれていた第44回小展示で配布されていた展示本紹介・解説を掲載したいと思います。

じつは中の人はHULSにも所属しており、せっかく解説を書いたのに小展示が終了した後読めなくなるのはもったいないと思ってこちらに掲載することにしました。(図書館側の許可は取っています)

はじめに

突然ですが“SF”って何でしょうか?一般的にはScience Fictionの略として知られていますが、“S”はScienceを始めSpeculative(思弁的)、Space(宇宙)など、“F”の方もFictionの他にFantasyなど様々な単語があてはめられています。日本でも『ドラえもん』の作者である藤子・F・不二雄によって“すこし・ふしぎ”という意味が与えられていたりしますが、この展示ではもっともっとも~っと広い意味をこめて“すごい・ふしぎ”というキャッチコピーをつけています。
展示書籍も範囲を出来るだけ広く取って、分かりやすいものから難しいものまで、有名なものから知られざるものまで、定番のものから変わったものまで様々選んでみました。想像力の限界に挑戦する“すごい・ふしぎ”な作品をお楽しみください。
※『~』は書名、作品名の「~」は収録作品、『~』「~」(リンク付き)は広島大学図書館で読める作品、『~』(太字)は展示している(展示していた)書籍です。

1. SFとは何か?

先ほどは略語の言葉遊びに終始してわざとお茶をにごしましたが、やはり“SF”をテーマにする以上“SFの定義”について触れないわけにはいきません。といっても定義するのは非常にめんどくさいしだだの一SFファンからすれば畏れ多い。ということでScience Fictionの定義は先人に学ぶとして、ここでは私の造語“すごい・ふしぎ”な作品を超広くとって“(科学的要素が出てくる)非現実的要素がある創作・論述”としてみます。

この定義をふまえた上で、まずは『世界のSF文学・総解説』。古今東西様々なSF作品がありますが、SFのメインストリームにある作品から、ファンタジーやホラー、必ずしもSFとはみなされない文学作品や古典作品まで国内・海外を問わず紹介が行き届いています。

ところで『世界のSF文学・総解説』でもいくつか紹介されているようにSFという名前が付く前からSF的作品はありました。それを通して知りたい、つまり(日本)SFの歴史を知りたいなら『日本SF精神史』『星新一 一〇〇一話をつくった人』です。『日本SF精神史』は江戸・明治~戦後すぐ(“SF”が日本に入ったとき)までが、『星新一 一〇〇一話をつくった人』はSF作家星新一の生涯をたどる形で戦後~90年代までが書かれています。また、一冊で古典~現在までまとめて知りたいなら展示してはいませんが『日本SF精神史 完全版』が良いでしょう。それらに取り上げられている明治・大正期の実作を読める『懐かしい未来』も合わせて展示しています。参考書コーナーにある『日本幻想作家事典』はそんな古典~2006年デビューまでの幻想的作品を書いている作家がまとめられた事典で、わからない作家がいたらこれで調べてみましょう。

『文学賞メッタ斬り!』は文学賞をもとに作品を批評した内容で、SF関連の内容こそ1章(+0.5章)分しかありませんが、他の章も読書の参考になる内容ばかりなのでSFに限らず読書好きな方全てにおすすめしたい書籍です。現在のSFシーンの最先端である「ゲンロン大森望SF創作講座」の講義を収録した『SFの書き方 「ゲンロン大森望SF創作講座」全記録』も合わせてどうぞ。他ジャンルとの関わりについては代表として『ライトノベル研究序説』を展示していますが、他にもミステリ、ホラー、純文学との関連など探せば多くあります。

2. SFのメインストリーム

今回の小展示では、通常SFと聞いてイメージされる作品は残念ながら『日本沈没』『タイム・マシン : 他九篇』 『たったひとつの冴えたやりかた』しか選んでいません。頑張ってもあと『フラットランド』 『献灯使』 『Inter ice age 4』 『虚数』が入れられるぐらいでしょうか。あまり中央図書館には作品が入っていなかったという事情もありますが(西図書館にはかなりそろっています)、実はあえて作品数を絞っています。

SFのメインストリームに入る作品は、例えば先述の『世界のSF文学・総解説』のようなブックガイドを読んで気になった作品を知ることができますが、作者には本当に申し訳ないですが果たして『献灯使』『田紳有楽』のような作品を知る機会があるかというとかなり積極的に調べないと中々厳しいものがあります。そのため既に知っている身からすると、紹介するせっかくの機会を逃すわけにはいけません。また、SFの読者人口は意外と少ないため、通常他ジャンルに分類される作品も紹介して展示に興味を持ってもらう人数を増やしたいという下心もあることはあります。

ということで最初は日本で最も売れたSFである小松左京の『日本沈没』。当時最新のプレートテクトニクス理論を用いて書かれた、題名通り急激な地殻変動によって日本が沈没する内容です。発表された1973年当時は高度経済成長期が終わって経済が下降気味になりはじめて終末論が流行していたこともあり(同年に『ノストラダムスの大予言』が発売されています)、その時流に乗って売れたのかもしれませんが、実はそのあらすじから受ける印象とは正反対で本当に書かれているテーマは“日本人の未来”についてです。このことは2006年に谷甲州と連名で書かれた『日本沈没 第二部』を読めば如実に分かるのですが、残念ながら『第二部』は研究室所蔵で気軽に読みに行くことができません。代わりに西図書館にある海面上昇後の世界を書いた『華竜の宮』(上田早夕里)と、日本を思わせる祖国が消滅した主人公がヨーロッパを放浪する『地球にちりばめられて』(多和田葉子)をおすすめしたいと思います。(追記 後日入った小松左京全集の第五巻『日本沈没』が綺麗で読みやすいと思います。)

『タイム・マシン : 他九篇』は言わずと知れたH.G.ウエルズによるSF最初期の名作。H.G.ウエルズはジュール・ヴェルヌ(『海底二万里』 『十五少年漂流記』などで有名)と並んでSFというジャンルの創始者と言っても過言ではありません。

最後はジェイムズ・ティプトリー・Jr.の『たったひとつの冴えたやりかた』という短篇集。表題作は宇宙、そしてファーストコンタクトという王道のテーマの内容です。果たしてどこまでネタバレしていいのか迷いますが、非常に感動的で涙を誘うストーリーであることは間違いありません。一応作者の思想を汲んでフェミニズム的な読み方もできますがとりあえずは全く考えなくても大丈夫です。

他にも『海を見る人』(小林泰三)、『祈りの海』(グレッグ・イーガン)など国内海外を問わず紹介したい作品は数多くありますが、他を優先してこれぐらいにします。

3. ファンタジー

日本では“ファンタジー = こども向け”という印象が強いためか成長するにつれてあまり読まなくなってしまうかもしれません。しかし、それでは非常にもったいない。“こどもでも読める”ということと“こどもしか読むべきではない”ということは全く違います。そして、もう一つ感じているのは「果たしてSFだけを特別視する必要があるのかどうか?」ということ。科学技術が発達した現在ではそれらの要素を全く用いずに物語を書くことは逆に非常に難しくなってしまっています。いわゆる筒井康隆が1970年代に提唱した “SFの浸透と拡散”という現象です。今回展示している作品でも『星の王子さま』『モモ』の描写、他にも次項のようにSF的に純文学を読めること自体がそれを象徴しています。ということでSFがテーマですがファンタジーも入れました、というかむしろ“すごい・ふしぎ”というからにはSFがファンタジーに含まれているという方がしっくりきます

 最初は何と言っても『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』(ルイス・キャロル)。児童文学の古典にして最初期の近代ファンタジーです。あらすじは書くまでもないですね。実はルイス・キャロル(本名チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)は数学・論理学者で、さすがに作中には数学自体は使われてはいないもののその影響は明らかに見ることができます。この展示では注釈付きの英語版『The annotated Alice』を選んでみました。

続いては『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)と『モモ』(ミヒャエル・エンデ)。これらも児童文学として書かれたファンタジーです。『星の王子さま』は砂漠に不時着した飛行士が放浪の小惑星の王子と出会う内容、『モモ』は主人公の女の子が人びとの奪われた時間を泥棒から取り返す内容ですが、どちらにもSF的要素が使われています。特に『モモ』の途中の描写はほぼ(ディストピア)SFと言ってよいレベル。

最後は佐藤さとるの『だれも知らない小さな国』。主人公が人知れず暮らしていた小人(=コロボックル)と出会う、戦後初の国産長篇本格ファンタジーです。戦前にも稲垣足穂(「一千一秒物語」)、宮沢賢治(「銀河鉄道の夜」)、小川未明(「眠い町」)など素晴らしいファンタジーを書く作家はいましたが、佐藤さとるによって日本の近代ファンタジーが始まったと言われています。ちなみにこの作品は幼い頃に私の母親から教えてもらったもので、それ以来現在に至るまでお気に入りの作品の一つです。シリーズは全5作ですが最初の1作しか入っていません。ただ有川浩が書き継いだ『だれもが知ってる小さな国』が入っています。

たまたま今回は全て児童文学の作品を選びましたが、例えば『くちなし』(彩瀬まる)、『レプリカたちの夜』(一條次郎)、『図書館の魔女』(高田大介)、『沼地のある森を抜けて』(梨木香歩)、『失われた町』(三崎亜記)、『ラピスラズリ』(山尾悠子)や、いわゆるファンタジーの枠に収まらない作品を送り出し続けている日本ファンタジーノベル大賞出身作家の作品(恩田陸、小野不由美、森見登美彦、畠中恵など、個人的なおすすめは小田雅久仁の『本にだって雄と雌があります』)など、児童文学でないファンタジー(ときに幻想小説と呼ばれることもあります)もある程度所蔵されています。

4. 文学とSF

図書館の意義からして当然かもしれませんが、今回展示している書籍もこの分類に属するものが最も多くなっています。

まずは芥川賞関連の作品。芥川賞は日本の優れた純文学に対して与えられる賞ですが意外とSFとは相性がよく、2011年下半期の『道化師の蝶』 (円城塔)をはじめ、展示している 『百年泥』(石井遊佳)や安部公房、池澤夏樹、多和田葉子の作品(受賞作はそれぞれ『壁 S・カルマ氏の犯罪』 『スティル・ライフ』 『犬婿入り』)、他にも笙野頼子(『タイムスリップ・コンビナート』)、川上弘美(『蛇を踏む』) 、広島大学出身の小山田浩子(『穴』)などの幻想小説が多く受賞しています。(追記 小展示開催期間中に選考された2020年下半期芥川賞では遂にSF新人賞出身者の作品『首里の馬』(高山羽根子)が受賞しました!)展示している各作品を紹介すると、『百年泥』(石井遊佳)はインドのチェンナイで起きた100年に一度ともいわれる大洪水から死者たちが立ち上がる内容。『献灯使』(多和田葉子)は東日本大震災後を象徴するディストピア(というかポストアポカリプスかも?)。個人的には政治色の強いディストピアはあまり好みではないですが、これは入れないわけにはいかない。『Inter ice age 4』は安部公房のSF長篇『第四間氷期』の英訳。戦後初の日本SF長篇ともいわれていますが、未来を予測する予言機械を巡る内容です。『The navidad incident : the downfall of Matías Guili』は池澤夏樹の長篇『マシアス・ギリの失脚』の英訳。内容紹介は後回しにします。

この他に特筆したいのは川上弘美と村田沙耶香。川上弘美は大学時代にはSF研究会に在籍しており、近年は『大きな鳥にさらわれないよう』『某』などSF的な作品を積極的に発表しています。『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香も同じくSF的作品を精力的に発表しており、広島大学図書館には『消滅世界』 『地球星人』 『生命式』などが所蔵されています。どれも過激な作風ですが非常に面白い。『生命式』は短篇集で読み始めやすいでしょう。『地球星人』『美しい星』(三島由紀夫)と読み比べると面白いと思います。理由はナ・イ・ショ。その多和田葉子、川上弘美、村田沙耶香などがふつうの恋愛の美的基準から大きくはみ出した"変てこな"愛の物語「変愛小説」を書き下ろしている『群像』の2014年02月号の特集「変愛小説集」もおすすめ。さらには村田沙耶香と同じく過激な作風で知られる笙野頼子も面白いことは面白いのですが、少々政治的過ぎて気軽には紹介しにくい。近年の作品はともかく、次項で紹介する『表現の冒険』収録の「虚空人魚」はおすすめです。

また、藤枝静男は芥川賞を受賞こそしていませんが二度候補になっており、展示している『田紳有楽』は金魚とぐい呑みが恋に落ちる奇想天外な話です。彼の作品も「一家団欒」が『表現の冒険』に収録されています。ちなみに藤枝静男は医学博士ですが、同じく医学博士で作品が芥川賞候補になったこともある石黒達昌の作品もユニークで、例えば『文學界』2002年5月号初出の「冬至草」は放射能を帯びた光る植物を巡るレポートの体裁をとった作品です。単行本は所蔵されていませんが雑誌のバックナンバーを当たれば他作品も読むことができます。

先ほどの村田沙耶香や笙野頼子は共にフェミニズム的な作品も多く発表していますが、全篇女性作家で、大原まり子、菅浩江、森奈津子、小谷真理、佐藤亜紀などのSF系作家も参加している実質的に“フェミニズム”がテーマのアンソロジー『ハンサムウーマン』も展示しています。他にもキノコ、カビ、コケなどがテーマの日本の文学作品を集めた装丁がすごく凝っている『胞子文学名作選』や、戦争文学の全集『コレクション 戦争×文学』の中の第5巻でSF・幻想系の作品をまとめた『イマジネーションの戦争 幻』もあります。

日本では筒井康隆、大江健三郎、そして展示している池澤夏樹などが影響を受けているマジックリアリズムというジャンルがあります。南米の作家が得意としており、『百年の孤独』 (ガブリエル・ガルシア=マルケス)や『伝奇集』 (ホルヘ・ルイス・ボルヘス)が特に有名ですが、手軽に短篇で味わいたいということで『20世紀ラテンアメリカ短篇選』も選んでいます。前項で題名だけ触れた池澤夏樹の『マシアス・ギリの失脚』も南の島を舞台にしたマジックリアリズムな作品です。『20世紀ラテンアメリカ短篇選』『タイム・マシン : 他九篇』は岩波文庫の書籍ですが、もうちょっと岩波文庫から欲しいなぁということで、初めて“ロボット”という言葉が使われた戯曲の『ロボット R.U.R.』(カレル・チャペック)も選びました。

5. 実験する小説

さて、通常の視点から一段上にあがって“書かれた手法”に注目すると、世には“実験小説”というジャンルがあります。もちろん自然科学や社会科学の実験を小説にしたものではなく、いわゆる実験的(先鋭的、前衛的といっても良いですが、それらはしばしばSF的な印象を受けます)な取り組みがされた小説のことです。例えば『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス)は日記形式で主人公の知性に応じて文体が変わることで有名ですし(ネタバレかも?)、日本人作家では、一章ごとに一音ずつ使える音が減っていくリポグラムの傑作『残像に口紅を』の筒井康隆や、「叔父は文字だ。文字通り。」な文章自動生成システムを開発した叔父から様々な形式の手紙が私(姪)に届くメタフィクショナルな作品『これはペンです』の円城塔が有名です。

まずは前項でも触れた『表現の冒険 戦後短篇小説再発見10』。テーマ別に戦後発表された短篇小説がまとめられているアンソロジーの中の一冊で、新しい表現に挑戦した作品ばかりが集められています。見つけた時このテーマでまとめられていることに私は感動しました。SF作家の作品も2作(筒井康隆、半村良)、ほかにも稲垣足穂、安部公房、渋澤龍彦などの作品が入っていますが、注目作は先ほどあげた藤枝静男、笙野頼子の作品と、特に高橋源一郎の「連続テレビ小説ドラえもん」。果たしてこれを“表現の限界に挑戦した⽂学”と捉えるか、“下世話なパロディ”と捉えるかはあなた次第。より尖ったアンソロジーとしては筒井康隆選の『実験小説名作選』がありますが、残念ながらさすがに広大図書館には所蔵されていません。

実験小説には幸いなことに優れたブックガイド『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』(木原善彦)が存在しています。普通の小説に飽きた時はこのブックガイドに載っている作品を読めば退屈することはないでしょう。これに出てくる書籍の中から『虚数』(スタニスワフ・レム)と『文体練習』(レーモン・クノー)を展示する本に選んでいます。『虚数』は架空の書物の序文や講義録がまとめられた作品。その内容もバクテリアを利用した未来予知の研究書や人間の手に寄らない新しい文学「ビット文学」の研究書などの序文、未来の「完全な」百科事典のパンフレット、人智を超えたコンピュータによる人間への講義録などで、まさに“人智を超える”という称号に最も近い。スタニスワフ・レムはポーランドのSF作家で、同趣向の架空の本の書評集の『完全な真空』や、あまりにも異質な知性を描き本質的なコミュニケーションの不可能性に迫った傑作『ソラリス』もあります。『文体練習』は「満員のバスのなかでいさかいを起こしていた男を駅の前で再び見かける」という状況を実に99通り(+α)の文体で書き分けた超絶技巧の作品。1996年の旧版と2012年の新版が入っており、違いとしては旧版はタイポグラフィーが効いている、新版は挿し絵が多いという印象ですが、正直どちらを読んでも構いません(というか両方読んで比べてほしい)。展示する方には広島弁で訳された章がある新版を選びました。ちなみにコミックで同趣向の表現を試みた『コミック 文体練習』(マット・マドン)も西図書館に所蔵されています。他にも先述の『残像に口紅を』 『これはペンです』をはじめ、『冬の夜ひとりの旅人が』(イタロ・カルヴィーノ)、『煙滅』(ジョルジュ・ペレック)、『石蹴り遊び』(フリオ・コルターサル)、『両方になる』(アリ・スミス)などの掲載作が所蔵されています。

6. SF的想像力を用いる

最後に、SF的想像力を用いた専門書を紹介します。

まずは“生物系三大奇書”の『鼻行類』(ハラルト・シュテュンプケ)、『平行植物』(レオ・レオニ)、『アフター・マン』(ドゥーガル・ディクソン)。“奇書”というだけあってどれも尖った作品ですが、その中でも最も変わっている『鼻行類』を展示しています。それぞれ内容は、主に“鼻を使って移動する”ような哺乳類についての架空の論文『鼻行類』、時空のあわいに棲み、われらの知覚を退ける植物群についての解説書『平行植物』、そして『アフター・マン』は未来の生物についての図鑑です。『鼻行類』に関連して架空の学術文書に注目すると、『ランゲルハンス島航海記』(ノイロニムス・N.フリーゼル)や『架空論文投稿計画』(松崎有理)という作品もあります。先述の石黒達昌もこの形式の作品を多く書いています。また、情報科学の分野でも面白い内容の書籍があり、聖書中の神の選択をゲーム理論で解釈する『旧約聖書のゲーム理論』(スティーブン・J・ブラムス)と、セルオートマトンの入門書である『ライフゲイムの宇宙』(ウィリアム・パウンドストーン)を選んで展示しています。

小説仕立ての科学解説書も読み逃せません。展示している『フラットランド』は二次元世界に生きる正方形が主人公の数学小説ですが、他にも『不思議の国のトムキンス』(ジョージ・ガモフ)、『宇宙への秘密の鍵』(ルーシー&スティーヴン・ホーキング)、『ソフィーの世界』(ヨースタイン・ゴルデル)、『数の悪魔』(エンツェンスベルガー)、『異世界語入門 転生したけど日本語が通じなかった』(Fafs F. Sashimi)などの書籍があります。この辺りはもしかして読んだことがある方もいるかもしれません。個人的なおすすめは情報科学を上手くファンタジーに落とし込んだ川添愛の諸作品(『白と黒のとびら』 『精霊の箱』 『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』 『自動人形の城』 『数の女王』)です。あと『数学ガール』(結城浩)もアンチ森見登美彦(=リア充)的な意味でS″F″(数学“ファンタジー”)?

おわりに

他にも紹介したい書籍は多々ありますがもう欄がありません。ということで最後に一つだけ。『伊藤計劃トリビュート 2』所収の「最後にして最初のアイドル」(草野原々)を是非読んで!!!

展示書籍リスト(解説掲載順)

※全て中央図書館所蔵作品
広島大学図書館OPACにて、詳細検索でタグを「中央図書館 第44回小展示 S(すごい)F(ふしぎ)の世界へようこそ」に設定して検索しても出てきます。

『世界のSF文学・総解説』(伊藤典夫編集) 903.1/Se-22
『日本SF精神史』(長山靖生) 910.26/N-25
『星新一 一〇〇一話をつくった人』(最相葉月) 910.26/Sa-22
『懐かしい未来』(長山靖生編) 913.6/N-25
『文学賞メッタ斬り!』(大森望, 豊崎由美) 910.26/O-63
『SFの書き方 「ゲンロン大森望SF創作講座」全記録』(大森望ほか) 901.3/O-63
『ライトノベル研究序説』(一柳廣孝, 久米依子編) 910.26/I-17
『日本沈没 上』(小松左京) 913.6/Ko-61/上
『日本沈没 下』(小松左京) 913.6/Ko-61/下
『タイム・マシン : 他九篇』(H.G.ウエルズ) 933/W-57
『たったひとつの冴えたやりかた』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア) 933.7/Ti-5
『The annotated Alice : Alice's adventures in Wonderland ; and, Through the looking glass』(Lewis Carroll) 933/C-22
『星の王子さま』(サン=テグジュペリ) 953.7/Sa-22
『モモ』(ミヒャエル・エンデ) 943/E-59
『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる) 913/Sa-85
『百年泥』(石井遊佳) 913.6/I-75
『献灯使』(多和田葉子) 913.6/Ta-97
『Inter ice age 4』(Kobo Abe) 913.6/A-12
『The navidad incident : the downfall of Matías Guili』(Natsuki Ikezawa) 913.6/I-35
『田紳有楽』(藤枝静男) 913.6/F-56
『ハンサムウーマン』(明智抄ほか) 913.68/A-33
『20世紀ラテンアメリカ短篇選』(野谷文昭編訳) 963/N-73
『ロボット R.U.R.』(カレル・チャペック) 989.52/C-16
『表現の冒険 戦後短篇小説再発見10』(内田百閒ほか) 913.68/Ko-19/10
『虚数』(スタニスワフ・レム) 989.83/L-54
『文体練習』(レーモン・クノー) 953.7/B-89
『鼻行類』(ハラルト・シュテュンプケ) 480.4/St-9
『旧約聖書のゲーム理論』(スティーブン・J・ブラムス) 193.2/B-71
『ライフゲイムの宇宙』(ウィリアム・パウンドストーン) 007.64/P-86
『フラットランド』(エドウィン・アボット・アボット) 414/A-11

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