2019大学祭配布冊子「図書館でSFが読みたい!」(2) 1.評論編(1/2 SF・文学評論)

注意:この記事の情報は2020年4月末時点のものです。また、半分個人の備忘録的な内容であるため、あらすじや紹介を見て興味を持っただけの未読作品も含まれています。

はじめの一冊

 一番SF評論関係で読みやすいのは声優の池澤春菜が『S-Fマガジン』上で連載した(今もしています)エッセイをまとめた『SFのSはステキのS』(タイトルはレイ・ブラッドベリの『S is for Space』のパロディで、日本語訳『スは宇宙のス』が西図書館に入っています)でしょうか。東千田図書館に入っています。他にも読みやすいものの代表例としては大森望の著作があげられますが、残念ながら豊﨑由美と共著の『文学賞メッタ斬り!』以外は入っていません。ただし、彼は『文藝年鑑』のSF部門の解説を1989, 1990, 2000, 2001, 2007, 2008, 2017, 2018年(1990年版は未所蔵)に担当しているのでそれで雰囲気はつかめるかもしれません(文体は少し硬いですが)。他にもたまに雑誌『ダ・ヴィンチ』に原稿が載ったりします。ところで『文藝年鑑』には文学賞受賞作家の写真や文学界全般の動向、死没者一覧、雑誌掲載作一覧などが載っており、さらに『文学賞メッタ斬り!』は文学賞をもとに作品を批評した内容で、SF関連の内容こそ1章(+0.5章)分しかありませんが他の章も読書の参考になる内容ばかりなので、どちらもSFに限らず読書好きな方全てにおすすめしたい書籍です。

SF評論

 一方で本格的な評論についてですが、日本SFに関係するもののなかでは『日本SFこてん古典』の著者である横田順彌による『近代日本奇想小説史』や当時の日本SFの(研究者ではなく)作家・評者などの関係者による評論である『日本SF精神史』『日本SF精神史 完全版』『日本SF論争史』『現代SFのレトリック』などが、また海外SFについては優れた翻訳者であり膨大な量の海外SF雑誌のコレクターであった野田昌宏の『「科学小説」神髄』を筆頭に『フランス流SF入門』『中国科学幻想小説事始』『中国科学幻想文学館』や英米SF雑誌の歴史をたどる『パルプマガジンの饗宴』などが広島大学図書館に入っています。

 最近の日本SFの事情としては、2007年にデビューしわずか2年ほどで早逝したにも関わらず作品が日本SF大賞を受賞し大きなセンセーションを巻き起こした伊藤計劃をめぐる『ポストヒューマニティーズ 伊藤計劃以後のSF』、すぐ下に出てくるニッポンコン2007で行った講演とそれに応える小説を収録された『サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ』、3.11(2011年に起きた東日本大震災)に対するSF作家の見解をまとめた『3・11の未来』という書籍がありますし、タイムトラベル系に特化した『時間SFの文法』という書籍も所蔵されています。日本SF作家クラブが編纂した『世界のSFがやって来た!! ニッポンコン・ファイル2007』『国際SFシンポジウム全記録』もあります。他にも『越境する言の葉 世界と出会う日本文学 日本比較文学会学会創立六〇周年記念論文集』には「日本SFその受容と変容」(巽孝之)が、『1982 推理小説代表作選集』にも「SF界1981」(風見潤)が入っているのを確認しています。児童文学に関する評論集(実作も多少あり)の『叢書児童文学』の第3巻『空想の部屋』にも手塚治虫、水木しげる、佐藤さとるなどの論考が収められていました。

 SFの創作に関するものは『SFの書き方 「ゲンロン大森望SF創作講座」全記録』(大森望編)や『コンピュータが小説を書く日』(佐藤理史)、『短篇小説講義』(筒井康隆)などがあります。前2つは習作なども入っており創作する過程が楽しめるのではないでしょうか。

周辺分野の評論

 よりテーマを広げて周辺分野との関りを論じたものは、『新版 電脳都市』(坂村健)、『虚構世界はなぜ必要か』(古谷利裕)、『アニメ研究入門』(小山昌宏,須川亜紀子)、『「ポスト宮崎駿」論』(長山靖生)、『スターウォーズによると世界は』(キャス・R・サンスティーン)、『「シン・ゴジラ」をどう観るか』(河出書房新社編集部)、『巨大ロボットの社会学 戦後日本が生んだ想像力のゆくえ』(池田太臣ほか)、『あなたは今、この文章を読んでいる。』『私は小説である』(佐々木敦)、『震災・原発文学論』(川村湊)(この著者が編者を務める『日本原発小説集』も所蔵されています)、『東日本大震災後文学論』(限界研)、『エンドレスエイトの驚愕 ハルヒ@人間原理を考える』(三浦俊彦)、『サイバーミステリ宣言!』(一田和樹ほか)、『ディストピア・フィクション論』(円堂都司昭)、『昔話とアニメの中の政治学』(梅川正美)、『未来のサウンドが聞こえる』(マーク・ブレンド)、『ビデオゲームの美学』(松永伸司)、『フランケンシュタインの精神史』(小野俊太郎)などの他、『オタクから見た日本社会 動物化するポストモダン1』 『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』 『郵便的不安たちβ』 『弱いつながり 検索ワードを探す旅』『ゲンロン叢書シリーズ』など(東浩紀)、『ゼロ年代の想像力』 『リトル・ピープルの時代』など(宇野常寛)などのSFと関りの深い思想家の著作もあります(東浩紀は『クォンタム・ファミリーズ』という小説も入っています)。『図鑑 世界の文学者』なんていう図鑑(という割には文章多めですが)もあります。

 『妊娠小説』で有名な斎藤美奈子による『日本の同時代小説』は1960年代以降の日本の小説界全体を見渡す内容でSF(というかポストモダン系小説)のブックガイドとしても使える内容ですし、『明治・大正翻訳ワンダーランド』(鴻巣友季子)では当時の奔放な翻訳事情をうかがい知ることができます。

 他にも特定のジャンルや作家を扱ったもの、映画やアニメ、漫画との関係を述べたもの、社会問題とからめたものなど数多くあるので自分の好きな分野に関係するものを各自探してみてください。SF以外のジャンルを扱った解説書ももちろんたくさんありますが、SFが好きなら『世界文学ワンダーランド』(牧眞司)や『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』(木原善彦)も読んでみると面白いと思います。

各作品の考察書籍

 さらに、研究というか特撮・漫画・アニメ・ライトノベルなどに出てくる設定を考察した柳田理科雄の『空想科学読本シリーズ』はだれでも一回は読んだことがあるのではないでしょうか。

 作品考察がテーマの書籍は他にも前田建設がマジンガーZの地下格納庫を受注し見積・設計する『前田建設ファンタジー営業部』、現役の医師がブラック・ジャックに出てくる症例を考察する『ブラック・ジャック・ザ・カルテ』、ハリー・ポッターの魔法の実現可能性を考察する『ハリー・ポッターの科学』(ロジャー・ハイフィールド)、過去の名作から環境問題を読み解く『名作の中の地球環境史』(石弘之)などがありますし、夏目漱石作品の中の科学の描写を考察する『漱石のサイエンス』(林浩一)、ただただ村上春樹作品に表れる猫をSF的に語る『村上春樹は電気猫の夢を見るか?』(鈴村和成)、新書でも名画に描かれた人物の診断をする『モナ・リザは高脂血症だった』(篠田達明)、妖怪の体の構造を真面目に考察する『ろくろ首の首はなぜ伸びるのか』(武村政春)、世界各地に伝わる"怪異"を古生物学的に解釈しようという『古生物学者、妖怪を掘る』(荻野慎諧)や『怪異古生物考』(土屋健・荻野慎諧)、源氏物語の描写から当時の気候を推定する『平安の気象予報士 紫式部』(石井和子)、UFOと現代文明の関りを解く『UFOとポストモダン』(木原善彦)など読んでみると面白いものが結構あります。

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