ポケモンスリープと私with睡眠障害
ポケモンスリープと睡眠障害の私
睡眠が下手だ。睡眠が下手過ぎて、薬を処方されているレベルには下手だ。具体的に言うと、入眠はできる。ただ、たまに、いやほぼ、ほとんど確実に、二時間半に一度起きてしまうのだ。そして、すぐに眠ることができる。
かかりつけの精神科医は言った。
「睡眠周期で起きちゃうんだねえ」
「はあ」
おじいちゃん先生は、レム睡眠とノンレム睡眠について詳しく教えてくれたが、重大視していなかった私にはまさに馬の耳に念仏だった。愚かである。
今は後悔している。症状が悪化したからだ。
早い話が、ストレスって溜めちゃうとまずいよね! である。すでに何種類ものメンタルの薬を飲んでいた私は「起きてもすぐに寝られるしなあ」と処方された睡眠導入剤(睡眠を深くしてくれるらしい)を飲むのを躊躇った。
副作用に「悪夢」って書いてあるの怖いし、慣れるまで時間がかかるのも嫌だし、てか明日仕事早いし起きれなかったらどうしようetc……。
言い訳はいくつでも並べることができる。あと素直に飲み忘れていた。愚かである。
そうして半年が経った頃には、睡眠がド下手になっていた。
熟睡ができない、すなわち満足な睡眠が取れていない。結論、一日中眠いのである。
夜十時に寝ているのに、深夜一時には起きてしまう。次は三時、五時……。目覚ましのアラームが鳴れば止めるが、次の瞬間には寝ている。もはや気絶だった。
もちろん生活にも支障が出た。慌てて薬を飲み始めるが、狂った体内時計は二時間半に一度は起こしてくる。次第には、睡眠導入さえ下手になっていった。
そこで本題である。「ポケモンスリープ」がサービス開始したのだ。
ふ〜ん、カビゴンねえ。
捻くれていた私は、友達がいくらキャッキャしていようがダウンロードしなかった。
正直、こわかったのだ。ピカチュウに「ヴァッ(お前の睡眠、カスだよ)」と直面させられることに怯えた。
何故始めたのか。明日も仕事なのに、とても眠いのに、時計の針が二十四時を回っても寝られずヤケクソになったからだ。
もはやチュートリアルのことは覚えていない。そして、どうにか眠って、どうにか起きた。
最初の記録がこちらだ。
私には「15」が何を指す数字なのか分からなかった。職場で同僚に聞いた。
「あっ、それ15点すよ」
私にカス睡眠だと伝えたのは、ゼニガメだった。ピカチュウではなかった。
百点満点中の十五点。平均点がどうあれ、赤点は確実である。私は「ウケる」と乾いた笑いを繰り出し、打刻をした。
ここで突然だが、私には自他ともに認めるひとつのジンクスがあった。
「健康と引き換えにソシャゲでレアを引く」
次の日起きたら、黄色の可愛子ちゃんがいた。誰がどう見たって可愛い。鳥好きの同僚に見せたら発狂していた。色違いはレアなのだと言う。
可愛いので、「ちる」と名前をつけて、日中も眺めていた。しかし、ちるは夕方には半目になっていた。
私のせいだった。トレーナーすなわち私の睡眠によって、ポケモンたちは体力を回復するのだ。
カビゴンの世話なんてしなくていい。私は強く思った。しかし、ゲームフリークには逆らえない。ちるは半目のままだ。
使命感が私を奮い立たせていた。ちるを守らなければならない。私が守るのだ。私しか守れないのだ。
どうにか三日目には七十一点を出した。奇跡だった。何度か起きた記憶があるがカウントされたらしい。その朝、カビゴンの隣でちるは笑っていたが、昼には半目になった。
カス睡眠が記録されていく。一晩に二回計測しているのは、スマートフォンを弄りたいがあまりにそうなってしまった。カス睡眠(一)とカス睡眠(ニ)を足しても、大した点数にはならない。ちるは半目だった。
戦いのゴングが鳴っていた。ちるを守ってやらねばならない。ちるに笑って欲しかった。元気にふわふわして欲しいのだ。
そうして、日(睡眠)を重ねていくごとに、新たな気付きがあった。
カス睡眠の統計が取れていた。当然である。睡眠アプリなのだから。ちるを眺める時間よりも、溜まっていくデータを見る時間が増えていく。
点数がいいと嬉しかった。ちるもにこにこしている。それがまた嬉しかった。
睡眠への意識が変わった瞬間だった。
まだ、二時間半に一度は起きてしまう。時間を確認して、まだまだ深夜なことを知って、凹むこともある。処方されている薬も減らないし、「起きれなかったらどうしよう」と考え怯える。
でも睡眠に対して諦めかけていた意識が、少し上向いたのだ。
睡眠をもっと良くしたい。
それだけでも、私にとっては進歩だろう。少しずつでも前に進めばいいのだ。改めて、当然のことが身に染みる。
ちるもふわふわと浮かんでいる。ちるだけでなく、他の仲間たちも私を応援してくれている。
だから、今日はここまで。おやすみなさい。
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