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プロの定義とは何か?〜本日は大安なり〜

先日、辻村深月さんの『本日は大安なり』を読んだ。
ちょっと前に「傲慢と善良」を読んでいた。
『傲慢と善良』は「婚活」をテーマにした小説だったので、同じ作者が「結婚」を題材に書いた小説ということに興味を持って手に取った。

『本日は大安なり』は大安の日に同じ結婚式場で結婚式を挙げる4組について、それぞれの結婚式における関係者(新郎、新婦、親族、プランナー)の視点から裏事情を交えて語られていく。
4組の結婚にまつわるストーリーに結婚式場で起こるトラブルが触媒となって、化学反応が起きるといったような話だ。

さて、私がこの本を読んで心に残ったというか、突きつけられた問いは「プロの定義とは何か?」ということだ。
本の中にウェディングプランナー目線で語られるストーリーがある。
新婦の性格や事情もあり、担当しているお客さんから降りたいと最初は思っていた。上司と話したこともきっかけとなり、このお客さんの式をやり遂げることができたら、自分はこの夢の世界の住人としてやっていける自信がつくと半分思い込み、プロとして式を成功させるために奮闘するといったようなストーリーだ。
ネタバレになるので詳細は書けないが、「かっこいいなあ、こんなふうに仕事ができたら」と思う場面がいくつかあった。

この話で出てくる一つのプロの定義が「嫌なお客さんでも手を抜けないこと」だった。
心に手を当てると、何でこんな対応をしてしまったんだろうと思う経験がある。
お客さん軸だとまだプロにはなれていないんだなと感じる。
では、別軸ではどうなのだろうか。
例えば、お客さんを大事にしていれば、社内の人を蔑ろにしていいわけではない。
この場合は自分がどういう立ち位置なのかによっても、プロの定義が変わりそうだ。

プロとは他者との関わりがあり、他者にも認められて初めてプロと言えるのかもと思うと、かなり難しい。
「専門家」というのとは何か違う、キラキラ、ギラギラ、ざらざら、さらさらみたいな色々な形容詞がつくようなイメージがある。

勝手に基準を決めて、それを自分に課すことで一定水準を担保するという使い方ぐらいが妥当なものなのだろうか。

ダラダラと書いてしまったが、『本日は大安なり』が「プロってかっこいい」と思わせてくれる本だということには間違いない。
特に、仕事の中でも、事件が起きている現場レイヤーが好きな方におすすめしたい。

追記)
複数人の視点から代わる代わる書かれているスタイルは同じだったが、読んでいて感じる印象はかなり異なっていた。
『傲慢と善良』は自身の考え方における葛藤に向き合う部分が多いが、『本日は大安なり』は誰かのためにであったり、誰かのせいであったり、他者にベクトルが向いている部分が多い。
一見似ている題材に見えていたが、本人同士の関係性がほぼ全ての婚活と、本人同士以外も含めて家族になる結婚は全然性質が違う。
得られる感情が違うので単純比較はできないが、軽い小説の方が好きな方には『本日は大安なり』をおすすめする。


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