人文書を読む(3) 村井益男『江戸城』(中公新書)

もしかしたら、現代人にとって「江戸城」ってどこにあったの?と思わせてしまうような、江戸城はそんな影の薄い存在かもしれません。実際、江戸城の天守閣をイメージできる人は(写真などが残っていない以上当然といえば当然ですが)ほとんどいないでしょう。

本書は、コンパクトながらそんな江戸城について概説しようとする一冊です。中身は歴史学者の書いたものらしく堅実なものになっていますが、教科書的な通史とは違った形で、「江戸城」という歴史的な建築物から「江戸」の歴史へとアプローチできるようになっています。

内容の検討

本書は、中世から明治以降の時期まで、扱う時代は幅広くなっていますが、その半分以上は(当然といえば当然のことながら)近世の徳川時代の「江戸城」に関するものとなっています。

序盤、「江戸氏の館」と「道灌築城」の章では徳川氏が入る以前の江戸の状況について簡潔に述べられています。徳川氏の「江戸城」が成立する前の前提がどのようなものであったのかを手早く把握できます。

続く「関東転封」から「築城術」の章では、徳川氏が関東に移り「江戸」という地に城を築いていく過程がかなり具体的に述べられています。特に築城に関しては、石垣の積み方など多数の図解があり、具体的なイメージを持ちながら「江戸城」の成立に迫ることができます。また、これに続く「江戸城の構造」ち「城内の諸役所」では、江戸城がどのような構造を持ち、どのような役割を果たしていたかが手際よく整理されています。

ここまで主にフィジカルな面から「江戸城」にアプローチしてきましたが、続く「年中行事」と「城内の生活」の章では、文化的な側面から「江戸城」が取り上げられます。「江戸城」の中にはどのような人がいて、どのような生活がなされていたかということを知ることができ、興味深い部分です。続く最後の章で、明治以降の旧江戸城の流れが非常に手短に述べられ、本が閉じられます。

どう読んだか?

上の内容の検討でも簡潔に触れましたが、本書の特徴のひとつに図版が多数使われていることがあります。図版というとしばしば本文に対して付随的な、おまけ的な位置づけになることが多いような気がしますが、本書では多数の図版を使って視覚的に「江戸城」を捉えようという試みがなされており、具体的なイメージを持つのに役立ちます。

また、政治的な文脈や物理的な「城」としての特徴に紙幅を割きつつも、文化的な側面にも注目しているのも興味深いところです。将軍をはじめとして「江戸城」の中で何が行われていたのか、限られた紙幅とはいえ「大奥」に関するトピックなども扱われており、著者のバランス感覚が伺われます。

終わり方がやや唐突な感じはありますが「東京」と街の名が変わったあとの歴史は近代史を扱う書籍に委ねたということでしょう。歴史をどのような切り口で見るか、その一つのよい例を本書は示してくれていると思います。

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