見出し画像

ひきこもり対応のフェーズが変わった2019年(前編)

※一昨年度と昨年度の2年間、メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』のバックナンバーから厳選した100本の掲載文を転載してきましたが、今年度からは『ごかいの部屋』掲載文にかぎらず過去に書いた文章を毎月1~2本、時系列に転載することによって私の自称 “体験的不登校・ひきこもり論” の進展をたどりながら理解と対応の参考にしていただけるよう進めています(執筆時から年数が経っていることで修正する場合があります)。

※今から4年前の2019年は、3月末に内閣府が15~64歳を対象にした調査結果にもとづき「ひきこもり64万人」という推計値を公表。5月末から6月頭にかけてひきこもりの人が加害者と被害者になった事件が立て続けに発生。ひきこもりが大きな社会問題になり、厚労省やマスコミがひきこもりの当事者経験者や家族に直接話を聴くのが当然という流れが生まれた年でした。そこで今月は、同年6月にその流れを概観したうえで懸念点を論じた『ごかいの部屋』のコーナー「当方見聞読」を転載します。

====================

ふたつの事件とその影響は

 ご存知のとおり、神奈川県川崎市と東京都練馬区で起きたふたつの殺人事件は「ひきこもり」というキーワードでつながっていました。
 
 5月28日に発生した川崎市の殺傷事件では、翌日に川崎市精神保健福祉センターが記者会見を開き、容疑者の親族から「介護を利用したいが、ひきこもり状態で話もできない家族(容疑者)の反応が心配」という相談を受けていたと語ったため、情報番組やインターネットで「ひきこもり=犯罪予備軍」であるかのような言説が流布しました。
 
 この会見、精神保健福祉センターが概要とは言え相談内容を公表したことじたいが信じられないのです(守秘義務違反でしょう)が、明かされた内容にもひきこもり相談としてどうなのか、という疑問を感じざるを得ない点が複数ありました。
 
 そして、事件からわずか4日後、恐れていたとおり報道の影響をモロに受けたと思われる事件が発生。「ひきこもりで家庭内暴力もあった息子」を「同じことをするかも」と父親が刺殺。インターネット上には父親への同情や称賛の言葉が飛び交いました。
 
 23年前の2000年にも “ひきこもりが起こした” と言われる事件が2件起こりましたが、そのときには当事者や理解ある関係者はほとんどおらず、まさに「ひきこもり=犯罪予備軍」という空気が社会を覆いました。またあのときと同じ空気に覆われるのか・・・。
 
 ところが、このたびは様相がまったく違いました。

マスコミが当事者経験者の声を初めて重要視

 川崎市の事件後、前述のような報道に対して、いち早く抗議声明を出したのは、ひきこもり当事者団体のひとつ「ひきこもりUX会議」でした(5月31日)。
川崎殺傷事件の報道について(声明文) : 一般社団法人ひきこもりUX会議 オフィシャルブログ (livedoor.jp)
これに、ひきこもり家族会の全国組織である「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が続き(6月1日)、
https://www.khj-h.com/statement/3058/
 ひきこもり支援の全国組織である「JYCフォーラム」も発表(6月3日)しました。
https://jycforum.org/info/kawasaki_case/
 
 なかでも「ひきこもりUX会議」の声明は多くのマスコミが取り上げ、同団体の代表理事である林恭子氏にはテレビやラジオの番組から出演依頼が殺到。ひきこもり当事者活動家がテレビ番組をハシゴするという前代未聞の光景が現出したのです。
 
 これまで斎藤環氏と池上正樹氏の独壇場だったひきこもりについてのコメントは、おふたりの推奨もあって林さんをはじめとする当事者経験者も対象にされるようになったわけです。
 
<後編に続く>

不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。