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「教育対策」を糧に社会へ(後編)

創刊のことば

本誌を『お・そ・い・な』と名づけたわけ

 「教育対策研究所」という、吹けば飛ぶよな小さな事務所を開設して1年になる。
 従来の教育論議の土俵からおり、まったく別の視点から教育状況をにらみながら、教育・心理・福祉といった “業種” にとらわれない自由な立場で、教育や援助の事業を企画実施するための拠点である(以下「教対研」という略称で呼ぶ)。
 教対研の1周年記念事業として、紀要の入った機関誌を創刊するにあたって、名前をどうするかが最初の難問だった。
 教育熱心なおとなは、子どもにどんなことをいちばん強く感じているだろうか?
 「おそいな…」
 ――これだと思った。「言葉の発達がおそい」「九九を覚えるのがおそい」「問題を解くのがおそい」「足がおそい」「社会性の発達がおそい」……。
 教育の目的のひとつは、子どもを急がせることなのだ。早く成績を上げ、早く人格を成熟させ、効率よく要領よく仕事ができる人間にすること。何かにつけ「遅いところを克服してほしい」というのが、教育熱心なおとなたちの、子どもに対するごくありふれた、そして際限のない願いなのだろう。
 ……そう考えた私は、そのとき発見した。実は、この「おそいな」という言葉には隠された意味がある。それは、この言葉は「おしえる」「そだてる」「いきる」「なやむ」の頭文字「お」「そ」「い」「な」でつくられた言葉だったのだ!(うっそ)
 冗談はさておき、多くのおとなは、子どもを「教える」ことと「育てる」ことには熱心だが “自分なりに真剣に「生き」ていて、だからこそ「悩む」こともある” という子どもの現実を認め、彼らとゆったりつきあおうとは考えない。そんなことをすると「教える」ことや「育てる」ことがうまくいかなくなると思い込んでいるのだ。
 ――というわけで、この、どこかで聞いたような本誌の名前は、そんな現代の一般的な風潮とは違った思いを持つ人々が出会い、連帯の輪を拡げていくきっかけを提供したい、という思いを込めてつけたものである。

初出:教育対策研究所機関誌『おしえる そだてる いきる なやむ ~不登校?過保護?指導法?~』創刊号(2001年7月25日)

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※私が社会で動き始めるにあたって、形式的ではあっても目的を持つ個人事務所を開設するまでの経緯を書き下ろしたうえ、1年後に創刊した機関誌の巻頭に掲載した「創刊のことば」を転載しました。

※私は、翌年に同誌の第2号を発行したあと「ヒューマン・スタジオ」を設立し、基礎固めの作業で手一杯になったため、同誌は2度と発行できませんでした。しかし、noteに転載する文章を探すためこの1・2号に書いた論説や書評や1年間の回顧など多彩な誌面を読み返したら「教育対策」という言葉の意味をいろいろな記事を通じて伝えようとしていた、未熟ながらも初々しかった当時の自分が思い起こされました。

※ところで、前編で「ひきこもり時代に考えていたことがまとまって、それを掲げて社会に出た」とお伝えしましたが、ひきこもり時代末期の「“底つき” の苦しみ」やひきこもりが終わるきっかけとなった「人生観の大変化」の内容は、次の2冊に詳しく書いています。

※来月は『お・そ・い・な』第2号に書いたなかから、私がメールマガジンに執筆してきた自称 “体験的不登校・ひきこもり論” の原型とも言える部分を抜粋して転載します。どうぞお楽しみに。

※そのメールマガジンは、間もなく今月号が配信されます。今月号はnoteに転載していたような文章が載る順番ですので、お読みになりたい方は ↓ の配信サイトから読者登録をお願いいたします。

※来たる6月25日(土)夜、不登校・ひきこもり連続講座「ヒュースタゼミナール」(ヒューゼミ)の第5期(5年目)が開講します。
一般コース(家族支援の関係者・志望者等)は全8回、家族コース(家族親族・知人等)は全4回。欠席なさった場合は補講を受けられますので、1,2回ご都合がお悪いだけの方でもお申し込みいただけます。
通し受講をご検討の方は ↓ の公式ブログ記事をお読みいただき、末尾にリンクした告知ページで詳細ご確認のうえ、よろしければお申し込みまたはご紹介をお願いいたします。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。