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長期的視野に立った対応こそ(前編)

※2020年度と2021度の2年間、メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』のバックナンバーから厳選した100本の掲載文(コラム)を転載してきましたが、昨年度からは『ごかいの部屋』掲載文にかぎらず過去に書いた文章を毎月1~2本、時系列に転載することによって私の自称 “体験的不登校・ひきこもり論” の進展をたどりながら理解と対応の参考にしていただけるよう進めています(執筆時から年数が経っていることで修正する場合があります)。

※2022年度からは「原則として2年前までの文章を転載する」という方針で更新しており『ごかいの部屋』掲載文にかぎらず30年余り前の文章から選んで時系列に転載を進めてきました。そして先々月2年前まで進んだことで、いよいよかつてのような『ごかいの部屋』掲載文(コラム)を転載できる時期に入りました。そこで今月は、先月転載した掲載文の続きとして、4年前の今ごろに世間を騒がせていたもうひとつの事件に関連して、ひきこもり相談のあり方を提言した文章です。

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川崎(登戸)事件と市の相談機関

 4年前の今ごろ、長期ひきこもり状態にあった人が川崎市登戸のバス停に並んでいた児童らを殺傷して自殺した「登戸事件」が発生し、4日後に前回の本欄で取り上げた元農水事務次官による暴力息子殺害事件、いわゆる「練馬事件」が発生して、世間が大騒ぎになっていたことをご記憶のことと思います。
 
 そこで今回は、前回取り上げなかった「登戸事件」に関連して相談業務のあり方や相談する際の注意点についてお話しします。
 
 この事件発生後、容疑者の伯父伯母が相談していた川崎市の相談機関の責任者が記者会見し、相談の経緯を説明しました。
 
 その内容を含めた当時の報道によると、市の相談員が「本人と話ができない状態をどうするか」という相談を受けるなかで「手紙を書いたらどうか」と提案し、それを受けて伯父が「おまえはひきこもりだから自立しなさい」という趣旨を含めた手紙を書き、それを読んだ本人が伯母に「生活を自分でやっているのにひきこもりとは何だ!」と激怒し手紙を破り捨てた、ということでした。
 その後、伯父伯母は「様子を見たい」と連絡し相談を中断した、とのこと。犯行はその4か月後でした。
 
 もちろん、市の相談員の提案が事件のきっかけになったかどうかはわかりません。ただ、私は「手紙を書くことを提案したのに書くべき内容を提案していなかったのか?」と不思議でなりませんでした。
 
 不登校状態への対応で「登校刺激はいけない」と言われているように、ひきこもり状態を含めて一足飛びに目標達成を求めるのは、話ができる関係であっても避けるべきだという対応論がずいぶん普及しています。
 それなのに、話のできない関係にあった家族の第一声が「自立しろ」ですと、本人は絶望したり追いつめられたりしてしまいます。

私が川崎市の相談員だったら

 では、もし私が川崎市の相談員だったらどう提案したのでしょうか。

 11年前の12月に配信した197号の本欄『会話を深めることから』で私は、本人と話ができないという親御さんによく提案していることとして「日常会話→深い話→本題の話」と、3種類の話を積み重ねていくイメージを提示しました。その文章はかつて実施した「バックナンバー掲載文転載企画」で下記リンク先に転載(上が前編、下が後編)しましたので、ご存じない方はご一読ください。

 それ以来、私はこれを「会話の地層を形成する」と表現して講演(カバー画像はレジュメの該当部分)や家族会でも図示してお伝えしていますので、ご存じの方もいらっしゃると思います。
 
 すなわち、話ができない状況なら、まず挨拶や他愛のないおしゃべり、あるいは用件(連絡・頼みごと)などといった日常会話だけを積み重ねていきます。
 それが定着したら人生や社会についての語り合いや互いの気持ちを打ち明けるなどの深い話もするようにします。
 そして、それも定着――日常会話も深い話も定着――すれば、本題の話(これからどう生きるか、学校/社会復帰をどうするか)がスムーズにできるようになる、といった具合です。

                           <後編に続く>

不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。