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会話を深めることから(後編)

まずは日常会話の定着を

 まず、当面は日常会話だけに専念します。「おはよう」の挨拶から始まり、日常生活に必要な用件について話しかけたり他愛のないおしゃべりを楽しんだりします。
 親御さんのほうからは深い話や本題を切り出さないまま、会話の量を少しずつ増やしていきます。くだらない話で笑い合えるようになったら、日常会話が定着した証拠です。本人が「家族と楽に会話できるようになった」と感じて、自然に深い話を切り出したり、口をきかなくなっていた家族に話しかけるようになったりします。

 そうなったら、深い話もできるようになってきます。社会批判や逆に自分を責めるような発言、あるいは「こんな生き方がしたい」「こんな人になりたい」などという夢を語るような発言が出てきます。

 ただし、ここで気をつけたいのは――定期開催している家族会「しゃべるの会」でも話題になったのですが――本人から社会批判をさんざん聞かされているうち「そんなことを言えるくらいなら自分が社会に出て改革すればいいのに」などとお思いになり、ときにそれを口に出してしまわれることです。

 このように一足飛びに「本題」の話を言い出してしまうと、深い話ができなくなる危険性があります。本人の話す気をそがないよう、ひたすら本人が言いたいことだけについて会話なさることです。

本題の話はいちばん最後に

 こうしてだんだん話が深まっていくにつれ、いつしか本人が「本題」を切り出すようになることがあります。たとえば、ひきこもり始めたときの気持ちを「じつはあのとき・・・」と打ち明けたり「○○になりたいから○○したい」などと、将来の希望やそのための方法について考えていたことを伝えたりします。

 以上のプロセスを図式的に言うと「日常会話の上に深い話が上乗せされていき、日常会話と深い話の上に本題の話が上乗せされていく」というイメージです。

 したがって「突っ込んだ話は、それまでのコミュニケーションの積み重ねという“基盤”の上に可能になる」と心がけ、当面は“基盤づくり”のつもりで日常会話に専念してみてはいかがでしょうか。

 ここ2回例に挙げた“経済的見通しに関する家族会議”のような本題に近い話も、そういう積み重ねができていればうまくいくはずです。

 どういう手順でコミュニケーションを回復させるか、イメージしていただけたでしょうか。もちろん、ここで挙げた本人の発言は必ず3種類のレベルの順番どおりに出るというわけではありませんので、本人とじっくりつきあっていくうえでの目安としていただければ幸いです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第197号(2012年12月12日)

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※“12並び”の年月日に配信した号に掲載した本稿は「閉じこもっているわが子が口をきいてくれない」とお悩みの親御さんによく提案している方法です。文中でもふれた家族会、あるいは講演でよく図示してお話しする“会話の地層”は、この文章をもとにしています。講演では、一昨年5月末に発生したいわゆる「川崎事件(登戸事件)」の容疑者家族の相談に市の相談機関がやった対応への対案として盛り込むことが多いので、お聴きになった方もおられると思います(今月配信のメルマガでもふれます)。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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