伝説の剣

ロールプレイングゲームに出てくる、伝説の剣(つるぎ)。

その剣は、硬い岩に刺さっていて普通の者では決して抜けない。

選ばれし者にしか抜けないその剣を抜いた者こそが、伝説の勇者として、世界を平和に導く---

伝説の剣が刺さっている岩の近くに住む村人たちは、しょっちゅう旅人に、

「伝説の剣とやらがこの近くにあると聞いた。
その剣が無いと魔王は倒せないのだ。
それはどこにある?」

と聞かれていると思う。

週に、2.3回は聞かれて、その度に親切に答えるけど、村人たちも目が肥えているので
(うわー、こいつじゃ無理そう〜)
と思いながら教えてそう。

ちょっと意地悪な奴なら、

「お兄さんやったら絶対抜けますよ!いったってください!この世界の平和、お願いします!!」

と、無駄に鼓舞する。もちろん半笑いで。
そんな奴は確実にいる。

それで、旅人が伝説の剣チャレンジを終えて(全然抜けずに)帰ってきたら、みんなで駆け寄って

「どうでした!?抜けました!?伝説の勇者っぽい感じで振るまってたから、もちろん抜けましたよね!?いやー、伝説の剣が抜けたんならこの世界も安泰やなぁ。勇者さん、この世界の平和、よろしくお願いします!」

と、思っても無い事を言って、ねっとりと詰める。、さらに
「みんなー!伝説の勇者さまだー!」
と、大声で村のみんなを呼び寄せたりする。

「ほら!この人が伝説の勇者!みんな見て!それじゃ、伝説の勇者に色々聞いていきましょう!」

と、突然の囲み取材が始まる。

旅人も、それだけ村人に囲まれて、子供達からキラキラした目で見てる中

「抜けませんでした」

とは言い出しづらく、

「いやー、最初はピクリとも動かなくて焦ったんですけど、急に雷が鳴り出して、そしたら、なんか持つとこが光り出して〜」

みたいな、それっぽい事を言い出すと思う。
さらに、囲み取材は続く、

「ちなみに、その伝説の剣を使って、まず何をしたいですか?」

定番の質問だ。

「やっぱり、平和のために戦いたいっすね。魔王?とか言う奴が調子乗ってるみたいなんで」

囲んでいる村人も一同「おお〜!」「勇者様〜!」と喝采。
もちろん村人も伝説の剣を抜けなかったのを知ってて、暇つぶしに囲み取材に参加している。
もう、この村ではそれが一番の娯楽だ。

「それでは、平和を願う村人に一言お願いします」

「伝説の剣抜いたったぞーー!!私に任せろー!」

村人一同「ウォーーー!!勇者様ーー!!」

旅人も、囲み取材と村人の喝采を受けて感覚が麻痺してきて、
「あれ?俺本当に伝説の剣抜いたんかな?」
と勘違いしてくる。そこで、

「では、その伝説の剣を見せてください」

という、鬼の無茶ぶり。
聞いてる方は、笑いをこらえるのに必死で2分ほど息を止めている。

そこで旅人は我に帰るが、もう後にはひけなくなって、

「あれ?ちょっと待って?
伝説の剣どっかいった?あれ?さっきまで持ってたのに、、、
あれ?森を出てくる時にはあったけどな、あれ?、、、モンスターを伝説の剣で倒して、、それで一回地面に置いて、、あー!あの時かー!」

と小芝居をするしかなくなる。そして

「まあ、でも、剣が無くても?魔王?とか言う奴は、剣とか使うまでもないっしょ!
素手でバチコーン!倒しますわ」

と、謎の宣言をする。
村人も、

(いや、お前さっきまで伝説の剣が無いと魔王倒せんって言ってたやーーん!!)

と心の中で盛大に突っ込む。全員笑いたくて5分は息を止める。
この村の人間は肺活量が凄い。

そんな、意地悪囲み取材をしているさなかに、本当に伝説の剣を抜いた勇者が村にやってきたらどうなるんだろう。

伝説の剣を抜いたフリをし続けてた旅人に、
「いや、伝説の剣抜いたん俺やけど」
と冷静に突っ込んでほしい。

テンパった旅人は、
「に、二本あるんかな、、?」
とか言い出すと思う。

インタビューしてた奴もまさかの展開に盛り上がって、

「じゃあ、どちらが本当の伝説の勇者か、戦ってみてはどうでしょうか!?」

トドメを刺すような、電光石火の無茶ぶり。

それを言われた旅人は、汗だくになりながら

「俺たちが戦う相手は魔王だろ!??」

と、熱弁しだす。

村人からしたら、とんでもない神回だ。

なんだかんだあって、上手いこと旅人が切り抜けて、そいつが帰っだ後は、村中が大爆笑だと思う。
何も成し遂げて無いのに、そいつの話で三日三晩村中で宴をして盛り上がって、その後も、その旅人の話を面白おかしく語り継ぐと思う。

自分の子供に語り、子供から孫へと、その旅人の
「俺たちが戦う相手は魔王だろ!?」や、
「二本あるんかな?」
は後世まで語り継がれる。

そういう意味では、その旅人もまた、
「伝説の勇者」
なのかもしれない。

伝説の剣の近くに引っ越したら案外楽しそうだな。

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