現場であったやべー話①Vtuber編

王様の耳はロバの耳である。

私はいわゆるグラフィックデザイナーである。
ロゴを作ったり、雑誌の装丁を行ったり、グッズだったり
場合によってはキャラクターデザイン、MV制作なども行ってきた。

今日はフリーランス法案も11月からはじまることもあるので、発注に関してのやばいお話を一つさせていただこうと思う。


よくわからないんですが、直してください

いわゆるVtuberのサムネイルの案件だった。
Vtuberといえば、ライバー形式の場合、毎日配信があるケースもある。
その際必要になってくるのが「サムネイル」である。
ライバー形式の場合、サムネイルはキャスト自身が制作することも多いが、そこからの発注は、その毎日のサムネイルを外注制作としてお願いしたい、という話だった。
(私はyoutube用のサムネイル制作経験が5000件以上あり、CTRなどの数字面での改善などにも強く実績があった)

そのVtuberは、今でいうlive2Dではなく、3Dモデルを持っているタイプで、配信ではなく、動画投稿、といった形式のVtuberであった。
キャラクターとしては2キャラであり、ほぼ毎日投稿を行うので、発注は年間で360枚ほどになりといった大量案件であった。
3Dでの取り卸しなどが発生する場合、金額的には勿論通常のサムネイル制作よりも金額が上がってしまうため、大量発注の際は工数の問題もそうだが、何よりも金額の問題があった。

先方からの指定金額は、1点3000円。
3Dの取り卸しや、レタッチなどを鑑みた際に、なかなかに厳しい金額である。
まずは話を聞こうと、クライアントの言葉を待つと
「金額が安いのは承知している」
「なので、レタッチは無しでよい」
「サムネ文字も加工無しでよい(赤字に白ふちでよい)」
とのことだったので、
その形式であれば、金額感も工数も収まる、といった旨で合意をした。

これが地獄の一丁目だったのだ。


リテイクリテイク、そしてリテイク

早速作業を開始することになったが、クライアントから指示書は当然のようになし。
スラックでの文面にて、企画の簡易説明と、途中編集の動画が共有されるのみで、ポージングの指定や、文言の指定すらなかった。
(案件が進むにつれて、動画の共有すらなくなった)
文面にて文言を仰いだが、よくあるものすごい分量での指定。
ここで既に、youtubeに関しての知識がないということが分かった。
(実際に全く経験がなく、個人的にyoutubeを見ている等もなかった)
一旦文言は私のほうで考え、3パターンほどラフを共有してみると、後出しじゃんけんのラッシュだった。

「ポージングはなんかもっと違うのがいいです」
「文字ってもっと加工してくれませんか?」
「キャラクターってもっと見栄え良くレタッチできませんか?」

ちょっとなにいってるかわからない。
私は3Dのポージング制作でのサムネイル制作経験も豊富だったため、大間違い、といったものは制作していないはずであった。
とはいえ、一回目の相談ということもあり、お互いに歩み寄りが必要だと思い、ヒアリングで明確なFBはもらえなかったが
一旦ポージングや文字加工、文言などに関して合計で20パターンほど共有を行った。
今回の制作を元に、今後の方向性やフローの整理を行うためである。

流石に20パターンも渡せば、これは違う、これは近い、といった話にはなるだろう。
そう思った。
しかし、そうはならなかった。


素人プロデューサー、素人ディレクター

「よくわからないんですが、なんか違います」
20パターンを再度提出して帰ってきたメッセージがこれだった。

私もデザイナー経験は長い、このケースは知っている。
これは、発注者本人の中にも、答えがないのである。
明確なビジョンはなく、正直あっているかあっていないかですらわからないような状態なのである。
発注者は、コンセプトや構成やコンテンツの前後感、背景を考えずに、ただ己の趣味のみで判断を行っているケースが多い。
自分の中に答えがないので、自分が気に入る答えを勝手に持ってきてもらうまで自分は動かない、という状態なのだ。

こうなるともう、発注者の教育を行わなければならない。
「20パターン出させていただきましたが、どれが近い、などはありますでしょうか?」
「よくわからないんですよねぇ、わかりますか?」
「コンセプトをヒアリングさせていただいた上では、セリフ系のフォントが良いかと思ってまして、例えば2番の様な形です。これであるなら、CTRを上げることができるかと思います」
「なるほど、ではそれで」
といったやり取りの上で、ラフが決まり、初稿作業を行った。
ちなみに、このなるほど、は流しているだけなので、担当者の後学にも経験にも知見にもなっていない。


話が違うので降りる

結局私は、1年間にわたってこの案件に従事することになったのだが
最終的には自分から案件を降りた。
主だった理由は下記である。
①当初聞いていた分の発注数ではなかった
 ⇒ 年間360枚という話だったが、実際には年間200枚ほどだった
②金額以上のクリエイティブを求められた
 ⇒もともとはレタッチなし、文字加工無し、大きなリテイクもなし、といった話だったが基本的にすべてやらされた。
③制作フローが改善されなかった
 ⇒先のように、こういったやり取りの際には、こういった打ち返しが欲しい、相談や意見が欲しい、と都度交渉を行ったが、わかりました(わかっていない)が永遠に続いた。
④金額交渉をけられた
 ⇒②の部分が主だった理由であるが、金額以上の仕事内容に変わっている点や、何度ものリテイク、そして改善されないフローに対して金額UPの交渉を行ったが、取り付く島がなかった。
 代わりにフローの改善を要求したが、改善されなかった。
 さらには、制作に関してのディレクションをかって出て、改善をという提案を行ったが、それも断られた。

 最終的に、フローを改善するか、金額を上げるのか、どちらかを行っていただけないのであれば、おります、といった旨をお伝えして
 先方は、ではフローを改善します、といったのだが、3か月間改善されることがなかったため、案件を降りることとなった。
 自身の名誉のために言わせていただくが、そこからさらに後任のクリエイターを探す間、1か月間の間制作をつづけてバトンタッチを行った。


久しぶりの再会と信じられなかった言葉

なんと、別の案件にて、2年ぶりに例のディレクターを顔を合わせる機会があった。
こんなレベルでまだこの業界にいたのかとあきれたが
「その節は大変ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
と言われ、私はちょろいので、なんだ、この人も2年間で成長したのかと思ってしまったのだが
「あれから2年、発注に関しては全く変わってません、成長しませんでした」
と笑って付け加えられ、
あぁ、かくも人間は愚かで、こんな人間がクビにもならず、淘汰もされず、クリエイターを顎で使い倒しているのかと
Vtuberという業界にも絶望したと同時に、なぜこんなクリに関心も誠意も仁義もない人間がのうのうとクリの仕事をしているのかというやるせなさに怒りを覚えた。


クリエイターよ立ち上がれ

私たちクライアントワーカーはクライアントには意見しずらく、話が違ったとしても、声を上げずらい。
声を上げれば、変わりはいくらでもいる、これだからクリエイターは、ビジネスを、社会をわかっていない
そうして勝手に悪評をばらまかれる。
にもかわらず、さらにクオリティを人質にとられている。
我々クリエイターはプロだ。
関わった案件には全力を尽くす。
ステークフォルダーに、特にユーザーにはなにも関係ないのだ。
勿論プロデューサー、ディレクターにも敬意はある。
皆が皆、自分ができないことに関して支えあってモノを作るのだ。
だからこそ、こんな基本的なことで躓いたり、疑問を抱くようなことがあっては、ユーザーの心を動かすものなど作れはしないと、強く思う。

こういったなんちゃってP、なんちゃってD、わかった気になっている自称クリエイター、錯覚資産にまみれた人間たち。
そういったクラスタを作ってしまったのは、もちろんモノづくりを軽んじている当人に問題がある。
それは動かず、一番の問題である。

ただ、我々クリエイターは忘れてはならない。
スマホゲー普及からの2Dの買いたたき、夢を人質に買いたたかれたこと
それをよしとしてしまった結果、今のクリエイターの地位が失墜して、地に落ちているということを。
我々は声を上げていかなければならない。
昨今の生成AIに関しても同様である。
声を上げなければ、彼らは良しとして受け取ってしまう。
だって不満がないから声を上げないのでしょう?と
だからこそ、我々はしっかりと意見をつたえ、声を上げていかなければならない。
これ以上クリエイターが軽んじられることがないように。

そのためには、我々はtoBだけではなく、toCの力をつけていかなければならない。
幸運なことに、現在ではクリエイターが自分たちだけでマネタイズをする方法はいくらでもある。
そういった自身のマネタイズのホームグラウンドを持ち、クライアントワークへの依存度、toBへの依存度を下げていくことがまずは第一歩だと思っている。

クリエイターよ、立ち上がれ
我々は、元来的に、自分たちでモノづくりを完結できる存在である。
そして、非クリエイターの奴隷ではない
自身の技術に、力に自信と誇りを持っていこう。
個々のクリエイターたちが、そうして行動していかなければ、
今のクリエイターの立場も、見られ方も変わりはしないのだから。


左利きのエレン

私のバイブルである、かっぴー先生が手掛けられている「左ききのエレン」という漫画がある。
その中で、神谷というArtディレクターの言葉で特に心を響いたものがある。
「事情や政治世渡りだけで食ってるクリエイターもどきたちから
日本のクリエイションを取り返すためだ」
僕らは、誇りあるクリエイターだ。
そうでなくては、ユーザーに失礼である。


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