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コラム7 子どもの異物誤飲のお話 小児外科専門医の視点から 後編 ―最近話題の異物

このnoteでは基本的には自分の論文紹介をするようにして、たまに箸休めでコラムを書こうと思っていたのですが、ついにコラムもたくさん書きたすぎて前後編に分けるようになってしまいました。
すいませんね。しゃべるのが大好きなもので。

ということで、
コラム7 子どもの異物誤飲のお話 小児外科専門医の視点から 前編 ―リチウム電池は危ないよ!! からの続きです。

前回はリチウム電池の危険さについてひたすらお話しましたが、子どもの危険な異物はもちろん他にも山ほどあります。
前回、こんなスライドを出しました。


講義のスライドより

危険度No2が複数個の磁石!
何がそんなに危険なんでしょう。

子どもが磁石を誤飲することは実にたくさんあります。
しょっちゅうです。
だって、磁石って楽しいですからね。子どものおもちゃにもよく使われているし。
親の目の前で誤飲することだってありますよ。
みなさん予想外かもしれませんが、よくあるシチュエーションとして、
男の子(僕みたいな子ですね)がお母さんの前で、自分のベロの上と下に磁石をつけて、
「ほぁほぁ、おはぁさん、ふっふいへるほ~(ほらほら、お母さん、くっついてるよー)」
とバカなアピールをしていて、しゃべっていますからベロが動き、その瞬間にごくんって飲んじゃうとかね。

バカだなーって思いますよね。
こういう事故、昔は少なかったんですよ。
なぜでしょうか?
磁力が弱かったからです。
少なくとも、僕が子どもの頃は手持ちの磁石をベロの上と下に挟んでもすぐ落ちました。
え?やったこと?もちろんあります。ここを見た賢明なみなさんは、絶っっっ対にしないでください。

1984年に、日本人の手によりネオジム磁石という、とてつもなく小さいのに磁力の大きい磁石が作られました。
リチウム電池も日本人でしたね…。
いや、磁石自体が悪いわけではないんですけどね。ほんと、強力なんですよ…。

磁石を飲んだ個数が1個だったら大丈夫だし、明らかに「くっついたまま飲んだ」ことが分かる状況も比較的大丈夫です。
しかしですね。何回かに分けで飲まれるともう最悪です。
体の中で胃や腸の壁を挟み込んだまま止まってしまいます。
そして、そのまま胃や腸の壁が破れてしまうのです。
よくあるおもちゃで注意喚起されているのが


マグネットボールキューブ

とか


磁気ボールキューブトイマグネットスティックとボールマジカルマグネット

とかですかね。
他にもいっぱいありますが。

「レントゲンでわかんないの?」と思われるかもしれません。
それがですね…


複数のネオジム磁石誤飲により緊急手術を要した小児の1症例 日本腹部救急医学会雑誌42(4):561〜564,2022より引用

淀川キリスト教病院小児外科 栄由香里先生の論文からですが、このレントゲン、磁石が4個つながってくっついているように見えるじゃないですか。
じつはこれ、間に腸が挟み込まれているんですよ。
もちろん緊急手術です。

…ということで、僕は子どもに磁石のついたおもちゃを与えたことはありません。
みなさんも、お子さんに買うときには十分に注意をしていただければと思います。

さて、危険な異物誤飲として僕は講義でNo3に「鋭利なもの」を挙げていますが、正直これは頻度が多いというだけでそこまでやばいわけではありません。
画鋲飲んだところで刺さることなんてめったにないし、ウンチに包まれて出てきますからね。

しかし!世の中には鋭利なものなんかよりずっと危険な異物が次々に出現しています。
個人的に「こいつはヤベぇ」と思う最新の危険な異物3選を挙げておこうと思います。

①加熱式たばこのスティック
国民生活センターHPより


国民生活センターHPより

これは僕も患者さんを経験しました。
昔からたばこの誤飲はありましたが、大事になることは少なかったのです。
だって、たばこ1本飲もうと思っても大きいし難しいですよね。
しかし!この加熱式たばこは衝撃的でしたねー。
これまでたばこ1本に入っていた分が、ちょうどカプセル1個くらいの大きさに入っていて、「飲んでください」といわんばかりの形状。そして、胃の中に入ると中からたばこの葉がパラパラと散らばって出てくる。
いやいや、殺傷力高すぎでしょ。
加熱式たばこ作った人に悪意がないのは分かるんですよ。でも、あえてこんな、子どもが誤飲しやすい形に改悪しなくても…とは思いますよね。小児を治療している身としては。

②水で膨らむボール
これはヤバい!
これを飲んでしまったが最後、腸の中で膨らんでしまい、絶対に取れなくなって手術が必要になるという、非常に殺傷力の高いモノです。
いや、何度も言うようですが、作った人には悪意はないと思いますよ。
ちなみにこれ、赤ちゃんや子供じゃなくて成人でも危険ですので、飲まないでくださいね。
こういう「おなかの中で膨らんでしまう系」異物は他にもよくあるんですよね。
身近なところだと、柔らかい耳栓とかも赤ちゃんが飲み込むと消化管の中で膨らんで取れなくなり、手術が必要になる場合もあるから注意です。


消費生活用製品安全法施行令の一部改正

ちなみに上に書いてある磁石やこの水で膨らむボールは、あまりにも危険性が高いということで令和5年6月19日より販売が規制されております。
でも、まだ似たような製品とかいくらでも買えたりするのでご注意を。

③アロマオイル


ディフューザー

最後のこれは、厳密には「誤飲」ではなく「誤嚥」ですが、あまりにも危険なので加えておきましょう。
香りのために上が開いた形状になっているこの製品。
中にきれいな色の液が入っていて魅力的ですねー。
子どもはすぐに手に取って飲みます。
そして、あまりのきつい匂いにむせて、誤嚥していまうのです。
そして、肺にはいったが最後…


肺が溶ける…

肺が溶けます(怖)。
こういう風に大きな膨らみ状になった肺を「嚢胞肺」といいますが、これは痰の排出ができませんので、風邪をひくたびにここに膿が溜まってしまう危険があります。
生まれつきこういう嚢胞がある病気の子(嚢胞性肺疾患:CPAM)の子に対して、嚢胞を切除する手術を小児外科で行うことがよくありますが、その場合は嚢胞は比較的切除しやすい、末梢側(肺の先っぽの方)にあることがほとんどです。
しかし、このアロマオイルで溶けるのは誤嚥した側。つまり、中枢側(気管側)ですから、手術による切除はとてつもなく難しくなってきます。
つまり、1回誤嚥してしまったら最後、一生肺の合併症に苦しめられるかも…!

ということで、今回のコラムは背筋が寒くなるようなお話ばかりでした。
イギリスのことわざに、「好奇心は猫をころす」という言葉がありますが
自分が今の時代に生まれていたら、確実に好奇心で身を滅ぼしていたんじゃないかと思います。

・子どもが異物を誤飲するのはよくあること
・誤飲したら命にかかわる(もしくは後遺症が残る)モノを周りにおかない
・もし誤飲してしまったらお早めに小児救急へ!そして、手術・処置が必要な場合は小児外科へ!(宣伝)

と最後は結局宣伝でしめて、今回のコラムは終わりにしようと思います。
また何か「これはヤバい…」という異物が世に出てきたら紹介していきます。

参考
・テレビ出演
2018年 フジテレビ TSSプライムニュース 「乳児のボタン電池誤飲に対する注意喚起」
令和6年7月31日 独立行政法人国民生活センター
「子どものボタン電池の誤飲事故に気をつけましょう! -電池の放電によるアルカリで消化管が損傷します―」


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