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世界が震えた珠玉のアカデミー賞受賞作

いよいよ3月11日に迫った第96回アカデミー賞授賞式。近年の受賞作を改めてチェックしてみては?『コーダ あいのうた』『ドライブ・マイ・カー』の魅力を3ポイントに分けて紹介。

2022年のアカデミー賞の“目玉”となった2作品

2022年に開催された第94回アカデミー賞授賞式にて、話題をさらった2作。3部門にノミネートされ、作品賞、助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞を受賞した『コーダ あいのうた』、そして4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』だ。前者はろう者と家族の姿を描いたフランス映画をアメリカに置き換えてリメイクし、後者は村上春樹の短編小説を見事に組み合わせつつ1本の長編映画に仕立てた作品。テンションやトーン、ストーリーはそれぞれ違えど、どちらも“言葉”と“対話(相互理解)”をテーマにしており、現代の空気感と絶妙にマッチした傑作となっている。当時に比べてコロナ禍は落ち着くも、様々な問題が紛糾している2024年――。いま観ることで、公開時とは別種の切実さを感じられるのではないか。

真の“当たり前”を描こうとした『コーダ あいのうた』

© 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

『コーダ あいのうた』は、Children of Deaf Adults(CODA)=耳が聞こえない、或いは聞こえにくい親のもとで育つ子どもを描いたヒューマンドラマ。家業の漁業を手伝う高校生ルビー(エミリア・ジョーンズ)は、類まれな歌の才能を持っていた。教師からは音楽大学への進学を勧められるが、娘の歌声が聞こえない両親は半信半疑でルビーと衝突してしまう……。本作の重要なポイントのひとつは、ステレオタイプな“悲劇性”を出来る限り削ぎ落とし、ろう者の人々の生き生きとした姿を描き出そうとしたことだろう。ルビーの両親は性に対してあけすけであり、自らを卑下することもなく、間違いも犯すが愛情深く、とかくたくましい。家族がお互いの本音をぶつけ合い、対話の果てに理解し合っていく感動ドラマとしての見ごたえはもちろんだが、「そもそも“ろう者”とひとくくりに出来るものではなく、人は皆違うものだ」という当たり前の意識が行き届いていること――社会に与えた影響含めて、様々な意味で意義深い1本。

日本映画の歴史を変えた『ドライブ・マイ・カー』

©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

濱口竜介監督による『ドライブ・マイ・カー』は、第74回カンヌ国際映画祭では脚本賞を受賞、第94回アカデミー賞では作品賞にノミネートと様々な“日本映画史上初”を成し遂げた1作。妻を亡くした喪失感を抱える舞台俳優兼演出家の家福(西島秀俊)が、寡黙な運転手・みさき(三浦透子)との出会いで人生と向き合っていく。ストレートな再生物語とは一線を画し、静謐なトーンながらも多層的な構造になっているのが大きな特徴。日本語・外国語・手話といった多様な言語が登場する本作は、その一方で「コミュニケーション不全」を細やかに描いてもいる。妻の不倫を知りながら問いただせず、生前の声を吹き込んだテープを再生することで想いを馳せる家福、過去を封印して他者と距離を取るみさき、身体を重ねることでしか他者と繋がれない高槻(岡田将生)等々、それぞれに異なる色の孤独を抱えた登場人物たちの歪な“対話”のアプローチ(或いは対話の出来なさ)が緻密に構築され、その先にある「理解された瞬間の一瞬の激情」で、観る者に得も言われぬ感動を呼び起こす。観るたびに深みが増していく、静かなる力作だ。

Text/SYO

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SYOプロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆、トークイベント・映画情報番組への出演を行う。2023年公開『ヴィレッジ』ほか藤井道人監督の作品に特別協力。『シン・仮面ライダー』ほか多数のオフィシャルライターを担当。装苑、CREA、sweet、WOWOW等で連載中。TwitterInstagram「syocinema」

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