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『ラーゲリより愛を込めて』を観て

戦争は強さなんかじゃない。誇りでもない。
勘違いするな
みんな生きて、生きている


このマスクをずっとつけている生活の中で、
今までで一番マスクがうっとうしくて、
今までで一番マスクの存在に救われた映画。


マスクの救い

 僕、めっちゃ運動音痴なんです。学校の授業でいちばん苦手なのは、三学期から始まる持久走の時間。グラウンド何周させるんだって、この授業になんの意味があるんだって思いながら毎年走ってて。
持久走ってとりあえずしんどいから、もうどこで呼吸するとかコントロールできなくて、もう鼻からでも口からでも息吸っちゃうから体の芯まで冷えちゃうんですよね。だからマスクをつけてるほうが、吸う空気がちょっとこもって温かくて楽。今までは、この持久走のときと、あと写真を撮る時が、マスクの存在に身体的にも精神的にも一番救われてたんです。ですが、2023年1月4日、僕の『今までで一番マスクの存在に救われた時』が更新されました。

始まり

 アクション映画始まったかな?って勘違いさせられる映画泥棒が終わった。真っ暗になって、『東宝』という文字が浮かび上がる。始まった映画は、思っていた以上に壮絶で、衝撃で、感動で、小さいけど大きく、決して優しいわけじゃないけど、でも暖かく、壮大だった。

 歴史の授業で習ったんです。戦争ってどんなことが起きたのかって。広島の平和記念資料館でみたんです。知ったんです。戦争って絶対だめなんだって。人前で戦争についての作文を読ませていただいた時、聞いてくださった方からいただいた手紙で読んだんです。戦争に幸せなんてないって。それが全てだなんて思っていないけど、でもやっぱり知りきれないんだって、この映画を見て改めて思いました。

言葉

 最初の方から衝撃が大きくて、もう泣きそうだったんですけど、涙が止まらなくなったのは、病室での、二宮和也さん演じる山本幡男さんが、自身の病名を桐谷健太さん演じる相沢光男さんに話す時。皆に希望をもたせた山本幡男が、初めて絶望を口にした。それに対し、相沢光男は言います。

 生きろ

生きろなんて、僕は誰に対しても言えない。人の気持ちは本人以外に知れないから。生きろって言ってもすくえないから。相沢光男は言った。「生きろ」。

 希望なんて見えなくて。どんどん周りの人間が死んでいく世界で。自分から殺されに行く人間がいる世界で。家族が亡くなっていると知っていながら、なんの救いも見つけられず生きる世界で。「生きろ」という言葉がどれほど強いか。俺も生きてるから、お前も生きろ。
この言葉の重さは、到底はかりきれない。

 自分の精一杯抱え込んでいる気持ちを誰にも話せず、ぶつかってくる苦しさに溢れそうな気持ちを掬って掬って、もういっそ死んでしまったほうがいいんじゃないかなんて何度も思った僕を、その言葉は頭を撫でてくれたように感じました。そのシーンから僕の涙は止まることなく、人が多すぎるイオンの中にもかかわらず顔はぐしゃぐしゃで、必死にマスクを押し上げていましたが、家につくまでずっと目は乾きませんでした。

描くもの

この映画は、『戦争』そのものを描くより、『人』を描いています。
戦争により離れ離れになった家族や友人を想う人の感情。戦争で上官に命じられ人を殺し、自分の中の人という感情を殺した人。一人の気持ちが、感情が、言動が持つ強さ。それによって動かされる人々の感情。それは、『戦争』を経験したことのない僕らにも通ずるように感じました。

エンドロール

 エンドロールでMrs. GREEN APPLEの『Soranji』が流れ、ずっと動かなかった映画館内の人々が、次々にハンカチやティッシュを取り出し始めました。この映画は、僕が今まで見てきた映画の中で一番、鼻をすすっている人が多かったように感じます。自身も満州から引揚船で日本に帰ってきた祖父も、自分の体験と重なり、本当に観て良かったと言いながら鼻をすすっていました。
 包み込むように暖かく優しい声から、どんどん力強くなっていくこの『Soranji』は、本当に『ラーゲリより愛を込めて』の人々を表すような歌だと思います。

生きる

 君死にたまふことなかれ、
 すめらみことは、戰ひに
 おほみづからは出でまさね、
 かたみに人の血を流し、
 獸の道に死ねよとは、
 死ぬるを人のほまれとは、
 大みこゝろの深ければ
 もとよりいかで思されむ。

これは、日露戦争中に発表された、与謝野晶子さんの『君死にたまうことなかれ』の一部です。意味は、

天皇は戦いにおいでにならない。互いに血を流し、獣の道に死ねという、死ぬということは元とより御心の深い方ならそのように思うものだろうか

というもの(省略しているので、ぜひ全文とともに調べてみてください)。歴史の授業で習い、心のなかで深くうなずいたのを覚えています。
 今のロシアによるウクライナへの軍事侵攻にも言えますが、戦争を始めた人は、実際に戦場へは行きません。人のことを換えのきくただの道具と考え、ただ安全地帯から指示を出すばかり。権力を持っただけで自分は強いと勘違いし、周りを弱いと勘違いする人がいる。
 でもそうじゃない。教科書で、戦争で何人の人が死亡したと書いているけど、人は数じゃない。みんな生きている。想う誰かがいて、好きなものも苦手なものもあって、笑ったり泣いたりする。

知っているか

 スーパーヒーローはいない。神様もいない。未来なんてわからない。悔しいことが、苦しいことがいっぱいで、でも、たまに見える希望に笑って、また新たな希望を見出して必死に手を伸ばして生きている。いっぱいいっぱいいっぱい抱えて、今日も必死に生きている

全人類に観てほしいと心から思い、言える映画。
『ラーゲリより愛を込めて』


 

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