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〜喫茶店の大きな人〜聞いた話⑤

ライターのYさんに聞いた話
 

Yさんが地方から引っ越して都内の大学に通っていた頃、学校の近くの商店街に人気の喫茶店があった。

提供されるコーヒーやケーキの評判も良く値段も手ごろだった事から、店はかなり繁盛していたという。付近の住人だけで無くYさんの通う大学の学生もよく使っていたそうだ。

しかし、Yさんは在学中この喫茶店を一度も利用した事がない。

喫茶店の店内に恐ろしく大きい人間がいて、それが怖かったのだという。


その人はYさんがカフェの窓から店内を覗くと時間帯に関わらず、客席の間の通路を緩慢な動きで彷徨いていたそうだ。
 
Yさんが何故大きい人だと思ったのかというと、窓から見えるその人は足から上が見切れ、足の長さから察するに少なくとも身長が3mを越えているように見えたという。

店内の客や従業員はその人に気づく様子は無く、また友人にそれとなく尋ねても見えていないようだった。

大学を卒業してから数年後、Yさんはいくつかの職業を経た後にフリーのライターとして働いていた。

ある時卒業した大学から、学生に向けてライターと言う仕事に関して話してくれないかという依頼が来たそうだ。その依頼はお世話になっていた研究室の教授からのもので、無下に断ることも出来ずYさんはその依頼を受ける事にしたという。


Yさんは大学の事務員と喫茶店で当日の段取りについて打ち合わせすることになった。

その喫茶店は、例の男がいる店だったという。

Yさんは一瞬戸惑ったが、窓を覗いて見るとそこにあの男はいなかった。

Yさんはほっとした。恐らくあれは一時的なもので、もういなくなったのだろうと自分を納得させたという。


喫茶店での話し合いは滞りなく進んだ。Yさんはその話の中で、この喫茶店で見た大きな男の話をしたという。

Yさんが男の話を終えると、大学の事務員は暫く思案顔になった後こんな話をし始めた。

今から一年ほど前、この喫茶店で大学の学生が一人倒れたという。

その学生は友人と課題をやるために喫茶店に入り、暫くコーヒーなどを飲んで課題に取り組んでいた所、突然気を失ったそうだ。

倒れた生徒に話を聞いた所、コーヒーを飲んでいたら突然逆さの男の顔が目の前に現れ、そこから記憶がないという。

曰く、その男は非常に驚いた顔をしていたらしい。

幸い倒れた学生は別段怪我や病気もなかった。しかしその学生はその日以来段々と学校に登校しなくなり、結局一身上の理由で親元に引き取られていったという。


Yさんはその話を聞いて、ゾッとしていた。

やはりあの男はいたのだと、当時感じていた怖いという気持ちが今更ながら体に競り上がってきたという。


全ての話し合いが終わり大学の事務員が会計をしている間、店内でYさんが呆然としていると、突然年配の女性店員が声をかけてきたという。

男の人、いないんですか。

突然の事にYさんが困惑していると、女は続けて


あの大きい男はもう店にいないんでしょうか。

女の問いかけにYさんは半ば反射的に、多分いないと思います、と答えたそうだ。

すると女性は深いため息をついた後、Yさんに何も言わず厨房の奥に引っ込んでしまったという。


それからすぐ、喫茶店は潰れてしまったそうだ。食中毒が発生し、そこから客足が遠退いたのが原因だったという。


Yさんは最近、あの男はどこにいったのだろうかと考えるのだという。

消えてしまったのか、店から出て行っただけなのか、退学したという学生について行ったのか。

少なくとも喫茶店が潰れた事と、あの大きい男が関係していると考えているそうだ。

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