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嵯峨野綺譚 ~篁(たかむら)の井戸  最終回~

 シャリン、シャリン。鉦の音が近づいてくる。鉾を先頭に神輿が続く長い隊列は御旅所を出て通りを北上してくる。たいして広くない通りの両側には見物客がひしめいている。
 よく晴れた5月の空の下を、祭りの列はゆっくりと進んでくる。
 鉾の長さは電柱の高さを超える。男性の脛くらいの太さがあって先端には鉾の切っ先が、その下には金色の房飾りがあって鉦がついている。さらに幟まで下がっているので相当な重さだ。これを腰だめの姿勢で垂直に捧げ持ち、独特のステップを踏みながら上下に大きく揺すって鉦(鈴=りん と呼ぶらしい)を鳴らす。熟練と体力が必要だ。
 鉾は五基あって、地元の町内がそれぞれ維持している。各町内の男たちが交代で鉾を操る。
 菊鉾が近づいてきた。鉾を操ってるのは奥野だった。パワフルに、しかしいささか大儀そうに、鉾を放り投げるように上に挙げては腰を低くして受け止めていた。僕が立っている前まで来て傍にいた別の者に交代した。
 「奥野、お疲れ!」
 奥野はこちらをチラリと見たが、僕を見つけることができなかったらしく、そのまま行列の中に戻っていった。
 行列は鉾を先頭にゆるゆると進んで行く。
 次の鉾が近づいてきた。

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