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【5冊目】嘘つきアーニャの真っ赤な真実

【タイトル】

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

【著者】

米原 万里

【読む目的】

世界各国の歴史や文化への理解を深めたい

【概要・感想】

筆者である万里さんの学生時代の体験と、数十年後の友人との再会を記したエッセイです。
各国の共産党関係者の子供たちが通う、プラハのソビエト学校で出会った3人の友人、リッツァ、アーニャ、ヤスミンカという3人の友人とのエピソードです。

ソビエト学校時代のエピソードは、瑞々しい青春物語でした。母国もアイデンティティも違う個性豊かな3人の友人との日々は、鮮やかに映りました。
そんな学生時代にも終わりが訪れます。
各国の共産党同士の対立など複雑な政治情勢に翻弄され、万里さんは日本に帰ることを余儀なくされたのです。

万里さんが日本に戻り数十年後、ソ連崩壊を経て彼女達は再開します。
変わる世界の中で、彼女たちは果たして無事なのか、僅かな手がかりを参考に各地をめぐり、旧友を探すドキュメンタリーには、見ているこちらも緊張させられました。

特に印象に残ったのは、ヤスミンカとの再会です。
ヤスミンカはユーゴスラビアが母国です。
ユーゴ内戦の時期、連絡先が分からなくなって久しいヤスミンカを探すため、万里さんは内戦下のユーゴスラビアを訪れます。
どのように内戦が始まったのか、人々は何を思いどう過ごしているのか、実際に訪れた人にしか分からない描写は胸を打ちました。

何よりも彼女たちの友情には感動します。
万里さんは別れてからもずっと友人たちを大切に思い続けてきたということが、文章の端々から伝わります。
その思いが、感動的な再開に繋がったんだと思います。
ただ、学生時代から変わらないことばかりではありません。

容姿も環境も、そして思想にも変化があるものです。
関係性も、学生時代のままとはいきません。
それでもできる限り本音をぶつける万里さんの姿勢は勇気あるものだと感じました。
自分の数十年後、友人との関係は続いているのか、断絶していた場合は再会できるのか、昔のように本音で話し合うことができるのか…。
考えさせられました。

最後になりますが、様々な国から生徒が集まるソビエト学校では、愛国自慢が恒例だったという話が面白かったですね。
自分がその国を離れているからこそ、故国への憧れが強まると。
スケールの小さな話ですが、横浜出身の私は、離れてからより横浜に愛着を持っています。
多くの人間は、好むと好まざるとに関わらずアイデンティティを国や地域、民族に求めてしまうのだろうということを、本を通して感じました。

読書は心の旅と言われることがありますが、この本はまさにそうでした。
東ヨーロッパの曇天と、友情の尊さが心に染みる一作でした。

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