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偏見から関心、そして起業へ。ヴィーガンファッションをきっかけに、価値観の共生する社会を目指す、唐沢海斗さん。

資源の循環を後押しする植物性レザー素材で新しいファッションレーベルを立ち上げた唐沢海斗さんは、LOVST TOKYO(ラヴィスト・トーキョー)で日本初のヴィーガンファッションブランドを立ち上げました。

今回のインタビューでは、Impact HUB Tokyo(以下、IHT)のメンバーである唐沢さんがヴィーガンになったきっかけや、起業の失敗経験、そしてそこから新たに株式会社を立ち上げた経緯などを深掘りしました。

唐沢海斗さん(ラヴィスト トーキョー株式会社・代表取締役)
1991年生まれ、栃木県出身。米国にある州立大学を卒業後、大手人材派遣会社に勤務。2018年、日本初ヴィーガンファッションのオンラインストア事業で起業。 2021年、植物性由来のレザーを使った未来のレザーブランド「LOVST TOKYO」を展開。文化起業家を名乗り「全ての価値観が共存できる文化創造」を目指し、活動の幅を広げている。


ヴィーガンに対する印象が変わったきっかけはアメリカ大学時代

——唐沢さんは、ヴィーガンファッションブランドを立ち上げていますが、もともとヴィーガン(完全菜食主義者)だったのでしょうか。

実は、ヴィーガンなんてありえないと思っていました。しかし、僕が新卒で就職したのがシリコンバレーで、当時はまだニッチだったヴィーガン文化がありふれていました。そこで暮らしていくうちに、それまでの印象とは違う感覚でヴィーガンを受け取ったんです。シリコンバレーの人たちは、新しい文化やライフスタイルを価値があるものとして受け入れるマインドセットができているし、サービスも多く、競って洗練されていきます。最終的には、消費者にいいサービスが残るんですよね。そこで体験したヴィーガンフードがすごくおいしくて、これだったらありだなと思いました。
ここでなぜこういうことが起きているのだろう?と考えたときに、この土地では人のマインドセットとサービスのインフラが整っているからだと思いました。だったら東京でも同じような環境を作れるのではないかと思ったんですよね。

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ヴィーガンの世界から異なる価値観の共生を目指して

——アパレル事業に決めた理由というのは、食からだといきなりは厳しいかなと思ったからでしょうか。

そうですね。もっと別の角度で、柔らかく食以外の形でヴィーガンを知ってもらうほうがよいと思いました。僕自身が1年ぐらいかなり本気でヴィーガンをやった時期があったのですが、取り組みやすいところからやったほうがいいという結論に至りました。帰国して知り合った人がアパレル出身で、その人と一緒にヴィーガンのアパレル事業で起業したというのが2018年でした。

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——ストイックなヴィーガンだったという時期を経て、今に至るのですね。どのように考え方が変化したのでしょうか?

初めは「自分自身よりも大切な存在に向けた目的意識を持つことで」自分自身も幸せになれるということを強く信じていましたので、ヴィーガンというコンセプトがぴったりかなと。でも、、、他人に考え方は強制できないですし、途中で自分自身がそれってかなり難しいなって気がついたんです。まずは自分が満たされて初めて人に還元できると気づいたんです。自分自身がまずハッピーになるところからと考えたときに、ストイックにやってしまうと不都合なことが多かったり、ストレスになってしまったらもったいないと思いました。もっと気軽に取り入れられたらと思ったんです。コンセプトも”follow forms” 「形から入る」と名付け、大切だと思ったことを少しでもライフスタイルに入れてみることから始めることも良いのではないかと思っています。

——自分に合ったライフスタイルとしてヴィーガンという選択肢もあるということを知ってもらうということですね。

そうですね。偏見を持っていたヴィーガンという生き方を一つの価値観として受け入れ、尖っていた人間から丸くなって帰ってきたというのが僕自身の原体験なんです。だから自分がやる意味があると思っています。

自分の想いが届けられなかった一度目の起業

——最初に立ち上げた会社では主にどんなアパレル事業を行っていたのでしょうか。

最初は合同会社で、ヴィーガンファッションのセレクトショップ、ブティック事業として、海外のブランドを輸入してオンラインで売っていました。またショールームも持っていました。ECサイトではアップルレザーだけではなく、パイナップルを使ったレザーなども取扱いをしていて、素材を見せて紹介していました。SDGsが流行っていたことで、問い合わせはかなりあったものの、どこの会社もまだSDGs推進部が立ち上がったばかりで調査で終わり、売上には繋がらなかったんです。
結果的にこの事業は失敗し、借金もできた挙句、仲間も離れていってしまい、経営者として未熟だったと思い知らされました。アパレルならもっと気軽に共感してくれる人が増えるだろう、ショールームを持っていれば人は来てくれるだろうと甘くみてしまい、何が顧客にとって響くのか、顧客のインサイトや集客基盤もままならない中、大きくやり過ぎた結果だったと思います。ただモノを輸入して、ショールームを作っただけでは人が興味を持つとは限らない、独りよがりのサービスではダメなんだと気づきました。
 正直、「起業家」というものに対する華やかなイメージや憧れがあり、早く事業を大きくしたいと焦っていました。実際には、この失敗と学びの過程を経て、全然華やかではなくかなり泥臭い世界だということを思い知ったし、この経験があるからこそ、実は起業はまわりには勧めたくないとすら思っていたこともあります。

——そのあとご自身のブランドを立ち上げたのですね。そのタイミングでIHTにも戻ってきましたよね。

一度目の起業でできてしまった借金も返さなくてはいけないし、想いも届けられないし、やめようかなと思ったのですが諦めきれなかったんですよね。周りの起業家で、ヴィーガンというコンセプトで事業をすることを諦めてやめていく人も多くみてきました。ほとんどは、流行りにのってやろうとして諦めている場合が多かったと思います。僕自身は、ヴィーガンという価値観に対して偏見を持っていたという自分の原体験があって、もともとは関心がなくても価値観を認識して理解していくことの重要性を体験していた自分だからこそ続けられると思うし、この挑戦はやめたくないんです。
それでも現実は甘くないと学んだからこそ、想いをちゃんと伝わる形にしてもっと多くの人に届けたい、ちゃんとユーザーの声を聞いて、もっと学んでいきたいと思うようになりました。
そして、いま日本でヴィーガンレザーという素材について一番知っているであろう自分たちでやってみようと思って自社ブランドを立ち上げることにしたのです。2020年に株式会社で起業しました。そのタイミングで一度退会していたIHTさんにも戻ってきました。

ヴィーガンはひとつのきっかけ、価値観や意識を変えたいという文化起業家としての想い


——唐沢さんはご自身のことを文化起業家と名乗っていますが、文化起業家とは具体的にどういう人なのでしょうか。

社会問題を解決するというよりは新しいカルチャーを作れたらと思っていて、文化起業家のほうがしっくりくると思っています。ヴィーガンは一つのきっかけで、結果、社会課題の解決に繋がればと。そこが押し付けにはならないようにしたいとは思っています。

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売ったら終わりではないサーキュラーエコノミーを目指して

物を売るというよりはサービスだったり仕組みだったり、世界観を売っていきたいです。リンゴを使った製品も出しながら、いずれ回収した製品をコンポストした農園で、バジルやハーブを作ったり。そのハーブとまだ食べれるはずの廃棄リンゴを混ぜてアップルティーパックを作ってイベントで出したりなど、サーキュラーエコノミー(循環型経済)に挑戦していきたいと考えています。いま注目を集めてもいる「サーキュラーアパレル」ですね。

——今までは消費者に向き合うことよりも売ったら終わりのリニア型な消費が一般的でしたよね。

普通に売って消費で終わるのは嫌だと思いました。それに気づいたのが、最初のブティック事業をやっていたときなんですよ。在庫管理して売るわけですが、セールの時が結局一番売れるんです。売れて一部整理して、それを繰り返している。それって大量消費を誘発しているんですよね。ヴィーガンアパレルだからといってそういうモデルだと大量消費を誘発してしまうので良くないと思っています。
学びをアップデートしたのが今の形なんです。だから会社を潰した失敗は経験して良かったと今では思っています。

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——その経験があるから、今のブランドが生まれたのですね。結局セールのときに売れるというのは、生産者や売る側からしたら複雑な心境だと思います。

ユーザーって正直なんです。欲しいと思っていても安いときに買いたいですよね。ビジネスで考えたときにそこは無視できないからうまく仕組み化していかないといけないですね。

ヴィーガン企業として初の上場を目指して

——今後はどういった展開を目指しているのでしょうか。

ヴィーガン企業として初の上場を目指しているので、きちんと売り上げを自社ブランドとしてもつくらなくてはいけないと思っています。この間、投資家さんがついて出資が決まったのですが、スタートアップとしては最初の投資ステージのシード、アーリーの間くらいの額を調達でき、改めて起業してから1年のタイミングで一つ目標を達成できたというのはかなりモチベーションにも繋がっています。

——なぜ「上場」にこだわるのでしょうか。

上場することによって社会的信頼が得られるのと、それによって人々の意識や価値観を変えるきっかけになるのではと思っています。規模的にはまだまだですが、それは5年〜10年で目指していきたいと思っていることです。

——一度失敗しても、それをきっかけに、ヴィーガンアパレルブランドとして、改めて起業。自分自身の原体験をもとにヴィーガンを通じて、人々の意識や価値観に影響を与えたいと言う唐沢さんのストーリーを深掘りすることができました。

唐沢さんのブランドLovst Tokyoのホームページはこちらです。次回も衣食住の文化を作る人と一緒に伴走するというコンセプトのもと、イベントやインタビューを行なっていきます!お楽しみに。


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