符亀の「喰べたもの」 20211121~20211127

今週インプットしたものをまとめるnote、第六十二回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。

寝落ちしたため日曜日に更新しています。


漫画

SAKAMOTO DAYS」(3~4巻) 鈴木裕斗

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元伝説の殺し屋、今太った商店店主。そんな坂本太郎と、周囲の殺し屋たちによるアクションコメディです。なぜか4巻は入荷したのに3巻はしなかった(から発売していたのも知らなかった)ので今更読みました。なぜ1巻2巻で取り上げなかったのかは覚えていません。

3巻中盤から4巻中盤までが敵組織潜入編なのですが、そのラスボス戦を電車内で行ったのが面白かったですね。「日常に溶け込んだ元最強の殺し屋」というのがコンセプトな本作ですが、敵のアジトでドンパチしているだけではそのコンセプトが死んで「普通の」アクション漫画になってしまいます。そこで戦場を電車という日常に移し、この作品の特異性を取り戻しているのが上手いです。


マジメサキュバス柊さん」(1巻) ちると

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性欲などに現を抜かさない、堅物男性の主人公。そんな彼がほぼ恋しかけている隣人は、実はサキュバスであり、しかし寝込みを襲えない真面目な女性だった。恋心により破滅しないように主人公は誘惑を避けられるのかというラブコメです。1話を第四十三回で紹介して以来の登場です。

真面目とクソ真面目の2人が主人公ペアであり、誘惑に勝っても負けてもギャグになるのがいいですね。どっちが来るのかページをめくるまでわからないため常にドキドキしながら読め、かつどっちでもキャラ造形的に納得できて裏切られた不快感はない。いいとこどりの上手い作品だと思います。

6話の駄菓子回も面白く、というか一番笑ってしまったのですが、淫魔ネタでありつつもラブコメ以外もいけるのも強いですね。2人がイチャイチャしている以外にも引き出しがあるのなら、マンネリ化やネタ切れが防げて長く楽しめそうです。


推しの子」(6巻) 赤坂アカ×横槍メンゴ

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推しの子に転生した兄妹が、それぞれの目的を胸に芸能界に挑む物語。第四十九回以来の紹介です。

中盤の鳴嶋メルト回が非常に良かったですね。作中にもある通り「激アツ」な展開、からのもう一発、一番の見せ場。その流れを全て説明し、見せ場というゴールを意識させて回想シーンでダレないようにする主人公のセリフ。感情演技に挑む主人公より先に感情の乗った演技の凄さを見せる構成。下手な演技と乗った演技とが描き分けられている漫画力。どれをとっても見事としか言いようがないですね。あと説明のおかげでいいとこ探しするこの連載にも優しい。

ぱっと見でも乗れて、ちゃんと読んでも読み返すたびに味が出る。これを週刊連載でやっているのが信じられないですね。


積読はそれなりに崩せたのですが、ここに載せるほどではないやつが多くて残念でした。それだけ多いとむしろ私の楽しむ力が弱まっている気もしてくるので、そういう意味でも怖いですね。とはいえ上に上げた3作品はどれもハイレベルでしたので、これをちゃんと味わえただけでもとりあえず良しとしたいです。


一般書籍

日本關係海外史料 イギリス商館長日記 譯文編之上

江戸時代鎖国前に平戸に存在したイギリス商館の館長リチャード・コックス氏の公務日記、その上巻(1615年6月~1617年7月)の訳文です。一般書籍ではねえ。

に関する記述があるとうかがって読み始めたのですが、上巻のみで800ページという圧倒的な物量の前に、読み飛ばしながらなのに二ヶ月かかりました。なお天道の記述は出てこなかった模様。

面白かった点としては、「日記内の日付」「日本の暦上の日付」「新暦上の日付」が全て異なっている点ですね(日本暦→日記暦→新暦の順に計40日分の差がある)。それが一番効いてくるのが、家康が亡くなるタイミングでした。筆者のコックス氏は「大抵の日本の情報が一般にそうであるように、これもやがて虛報であることが判るものと思う。」(P40)と書くほどに日本人の情報に疑いを持っている(し日記に出てくるウワサには確かにおかしいのが多い)のですが、この家康の死についても最初から疑っているんですよね。あまりに「ウワサは来るが嘘だろう」の流れが続くので実際の死期を調べたところ、どうやら本当にもう家康は死んでいるっぽい。と思いきやネット上に書かれた死亡日も2種類(1616年の4月と6月)が存在し、もう片方が正しいのならまだ死んでいない。この怪奇現象の理由が、この日程のズレだったというわけです。ネット上の情報も日本暦と新暦がぐちゃぐちゃですし、さらに日記の暦も新暦と違ったのでより一層混乱させられたわけですね。まあコックス氏が家康の死をちゃんと認識するのは実際の死から28日後なのですが。

もう一つ面白かった、というと不謹慎ながら興味深かった点は、本当に命が軽い点ですね。小舟を盗んだ少年が助命の命令が来る前に試し切りのために「ずたずたに斬りちぎ」られたり(P40)、側室が不義を働いたのを見つけた松浦信正が彼女と男を自ら「寸斷」したり(P453)、あと定期的に舟に乗った一行が難破や海賊により全滅したり、なぜか職員が突然死したり、気を抜くと人が死んでいます。松浦信正の側室の件では、男の兄弟がその男を「寸斷」した刀で髷を切られている点も倫理観的に来るものがあります。

天道に関する記述は見つかりませんでしたが、仏教に関する記述はありました。釈迦降誕會(現在の灌仏会)において、一般市民である信者が釈迦の再臨を信じている様子が、ペルシャのモルタサ・アリと比較して書かれています(P735)。この時代に民間で釈迦再臨が信じられていた史料として、有意義な記述です。

私は門外漢としてこの史料を読みましたが、そもそもこの史料は商館館長の日記ですので、当時日本に何がいくらで貿易により入っていたのかの史料としても大変有用でしょう。むしろそっちが本来の価値なわけですが。流石は東京大学史料編纂所、いい史料を書籍化してくれています。でもできればデジタルアーカイブ化し直して検索できるようにしてほしかったな。


Web記事

きょうの勝ちについて

タイトルにもある「きょうの勝ち」について、作者のナナワリさんがその原点をまとめたnoteです。

「蛇足」の部分の、お題の選定におけるナナワリさんの思いやりが感じられる部分が染みるnoteです。これには勝てない、と他人と比べるオチをつけようとしているところがまさに勝てないですね。


分析!ゲームマーケット2019秋とゲームマーケット2021秋の頒布数を比べてみた。

ゲームマーケット2021秋に出展されたサイコロ塾さんが、その結果を2019年秋と比較し、頒布数の差の原因を探ったnoteです。

同サークルの作品でデザインを比較されると、いわゆるトンマナを統一することの威力が一目瞭然で、驚かされました。また人の縁の強さも感じ、私の試遊会に行きまくるという戦略の有効性と、それを成功させてくださった皆様の助力のありがたさに、改めて気づかされました。

かなり多くの要素を扱っている分、分析というより羅列という印象も強いですが、見る人によって見方が変わる鏡のような記事だとも思います。


これはゲムマ設営を考える時に便利な記事です
2000円でいい感じのゲムマ設営をするための7つのポイント

ゲムマ終わってから読んでんじゃねえ!と言われそうですが、上のバンソウさんの方は紹介を忘れていただけで投稿翌日ぐらいに読みましたので大丈夫です。下のハムさんの方は今週読みました。ゲムマ終わってから読んでんじゃねえ!!

上の記事については、「まずやるべきことは『テーマ決め』!」の部分がおろそかだったなと思いました。ゲムマ直前に読んだこともあり設営資材には反映できませんでしたが、今後は気をつけたいところです。また2章の「何でもかんでも売ろうとしない」の部分は前回から意識していたのですが、今回それを意識してトリテ2作しか並べなかった結果旧作は売り切れたと思われてしまったことが発覚し、品切れかどうかがわかりやすいお品書きの用意が重要だと学びました。

下の記事では、キッチングッズを使うアイデアが素晴らしいですね。布をかけて骨組み感を無くしているところも上手く、丸々移植してこようかと思います。


マンガ『推しの子』は「希望に満ちている作品」2.5次元舞台編について実際の演出家が解説

上記「推しの子」の2.5次元舞台編について、『文豪ストレイドックス』『黒子のバスケ』などの2.5次元舞台の演出家さんに語ってもらったインタビュー記事です。

最初に「推しの子」が好きな方にインタビューしているというのを前面に押し出しているのが上手いと思います。ファンは、同じくファンの人間に弱いので。「最初はこう思っていたが実はこうだった」という読んでいそう感の強い語りも、文字で伝わり辛い口ぶりの情報を足すインタビュアーさんも、上手いですね。これらのおかげで、「推しの子」の話に進む前に2.5次元舞台の基本情報を長めに説明しても読者がダレにくくなっていると思います。


はじめての同人ゲーム製作体験録

はじめて同人PCゲームを制作された作者さんが、その経緯をまとめられたnoteです。

製品リーダーシップとゲームの強みを一貫させることの強みを、再認識させられました。また、我々のゲームはシステム重視ですが、「シナリオ・ストーリーは多くのゲームにとって骨子です。骨子のはずです。」などの記述を見ると、もっとフレーバー部分のウェイトを上げたほうが体験がよくなるのではないかとも感じ、今後意識してみようと思いました。


デジタルゲームの『カード』の意味を考える

デジタルカードゲームやそれ以外のデジタルゲームにおける「カード」の役割について考察されたnoteです。

このnoteでは、カードの機能を「取引、消費」「コレクション」「情報の秘匿」「ランダム性」の4つに分類されています。この枠組みはボードゲームを考える際、つまりそのゲームのコンポーネントがカードでいいのか、逆にカードの機能を使ってより面白さを足せないかを考えるにあたって、一つの指針になるものだと思います。


ゲムマが終わったので久々の土曜日更新を目指しましたが、一度崩れたリズムは簡単には戻せませんでした。次回こそはリベンジを果たしたいですね。

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