符亀の「喰べたもの」 20210822~20210828

今週インプットしたものをまとめるnote、第四十九回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

琥珀の夢で酔いましょう」(1巻) 村野真朱(原作)、依田温(作画)、杉村啓(監修)

画像1

疲れると本音が出ちゃうクール系仕事女子の剣崎、おスカしインスタ野郎の芦刈、脳みそゆるふわくまちゃんな野波(第1話後のコラムより引用)の3人が、野波の居酒屋をクラフトビール専門店として盛り上げるため協力しつつ交流を深める物語。以前本を一気買いした際に2~4巻だけ届いて1巻はお預けとかいう焦らしプレイをされたのですが、ようやく届いたので1巻だけ読みました。なお書影は、なぜかこれしかなかった3巻のものです。

実際にあるものを紹介していくタイプの漫画がここ数年でよく見られるようになったと思いますが、本作の特徴は、1話に出てくる紹介物(ビール)の数の多さでしょう。1話目ではストーリーに合わせた一意専心しか出てきませんが、2話からいきなり4つビールが登場し、2巻では全ての話で複数の実在ビールが紹介されているようです(話末のコラムだけ先読み)。1つの話でいくつもの実在物をストーリーを進めながら紹介するとなると、情報量が多すぎて何も頭に入ってこなさそうに思えます。しかし本作では、実際に飲み比べたかのように、どれが自分の好みに合いそうかが伝わってきます。

その理由が、先に大まかな分類とその傾向をまとめておくことで、口当たりなどのそれらの特徴がキーワード的に何度も繰り返され、「前のページで習ったとこだ!」となってわかった気になるところかと思います。ビールには「スタイル」と呼ばれるタイプ分けがあるのですが、2話ではそのいくつかについて、いきなり座学的な説明が行われます。このキーワード(IPA→苦味など)がその後の話でキャラの感想に出てくるため、「まあIPAやし苦いやろなあ」と知識人のような立場から気持ちよく読むことができ、さらに脳への負荷は抑えつつ情報密度を増やすのにも成功しています。このように読者が知っている部分を定期的に出してあげることで、いろんなものを一気に登場させても脳がパンクしにくく、学べている感が強いためにもっと読みたいと思ってもらいやすい。漫画だけでなく、文章などでも使えるいいテクニックですね。


推しの子」(5巻) 赤坂アカ×横槍メンゴ

画像2

推しの子に転生した兄妹が、それぞれの目的を胸に芸能界に挑む物語。第三十七回以来の紹介です。

1つの事件があるキャラ達によって解決された結果、それが別のキャラ達を修羅場に追い込む展開が面白いですね。本作では、ほぼ全てのキャラがその立場内で自分にできる全力を尽くす「いいキャラ」として描かれているのですが、それとこの展開が非常に噛み合っています。まず1エピソード内で複数の事件を作って解決させられるので、活躍できるキャラの数が増えます。そしてそのキャラが見せ場でやりきった結果次の事件が起こるので、2つ目の事件の元凶となるキャラ達に悪印象を抱きにくく、誰も悪くない世界を作りやすくなっています。これにより、読者が無駄なストレスを抱きにくいです。事件の起こりを前の事件の見せ場と「兼ねて」いるため、面白さの密度が落ちないのもいい点です。こういうのを、ストーリーのないメディアでもパクっていきたいですね。


シタバシリ」 増田こうすけ(原作)、紗池晃久(作画)

舌がむっちゃ伸びたり取れたりするホラー漫画です。「ギャグマンガ日和」を参考に再構築されたそうですが、ホラーを自称してますしぽさはあるのでホラーだと思います。

サブストーリーが何も解決していないのにメインストーリーが丸く収まったからハッピーエンド風に〆ている感じ、実にホラーらしくもギャグらしくもあって面白いですね。こんな感じでいいですか?


今週は載せるほどではないとしてボツにした率が高かったのですが、それが本当に漫画が微妙だったからからなのか、私の面白さを感じ取る器官の調子が悪かったからなのかは疑問の残るところです。一応取り上げた分についてはそれなりに分析したつもりなので、それで許してください。



一般書籍

「オリンピックVS便乗商法」 友利昴

画像3

国際オリンピック委員会(IOC)や関連組織が、スポンサーでもない企業などがオリンピックを連想させて行う「便乗商法」を法的根拠を持たない場合ですら規制しようとしてきた歴史をまとめ、知的財産権の過剰な振り回しについて警鐘を鳴らした本です。

とっつきやすくも専門性の高いジャンルにも関わらず、四六判300ページという重さを感じさせない読みやすい一冊でした。非常に多くの事例が図版と解説、当時の文脈と本文中での位置づけを明確にしながら挙げられており、主張の明確さも相まって筆者が何を言いたいのか分からなくなる瞬間がありませんでした。

内容も非常に面白く、知的財産権のあやふやな行使の有害性が非常にわかりやすかったです。基本的にIOCの非をまとめる内容ですが、IOC側に法的正当性がある事例の際にはそれを明記するなど、ただひたすらに非難している本でないのも素晴らしいと思います。

難点としては、一部の表現が大げさで煽りのようになってしまっている部分でしょうか。特に比喩でその傾向が見られ、比喩元への認識が読者と乖離している場合に比喩が「スベり」やすいというリスクについては、申し訳ないですが反面教師とさせていただきたいと思います。また、一部「べき論」、つまり価値観的な問題(社会にとっては好ましいといえるのだろうか?(あとがきより引用)など)にしている部分があるのも気になりました。「べき論」的には「それに携わる人たちが嫌だと言っているのなら、それに配慮できるような法整備をすべき」とも言えるためです。あくまでIOCが行ってきた規制の法的根拠の無さや各国の「オリンピック保護法」の法的な問題点を淡々と挙げ、思想的な部分は抑えたほうが良かったのではないかとも感じます。しかし、これは上記の煽り感から筆者のポジションへの類推が変に働いてしまったがゆえの感想な気もしますし、むしろ上述の通りかなり公平な立場で書かれた本だとも思っています。

総じて、多様な事例から知的財産権の運用について考え直せる名著だったと思います。ボードゲーム界では「パクり問題」が定期的に起こるのですが、その際には毎回この本を思い出すことになるでしょうね。



Web記事

来週まとめてやります。なんせ未読の記事が2桁弱たまっておりますので。


仕事も製作も来週が山の予定ですので、それが終わり次第諸々読めるようになるはずです。なんせ来週は50回記念ですからね!積読も減ることでしょうよ!きっと!たぶん。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?