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「ラストレター」(2020・日)

ラストレターのあらすじ

若くして亡くなった、シングルマザーの遠野美咲。妹のゆうり(松たか子)は、娘のそよか(森七菜)と息子(降谷凪)と共に、法事に参列するため、仙台の実家に戻ってきていた。そよかは、美咲のひとり娘のあゆみ(広瀬すず)を心配してなのか、そこに残って残りの夏休みを過ごすことを決める。ゆうりは帰り際に、美咲宛てに届いていた高校の同窓会の通知を受け取る。

ゆうりは、姉が亡くなったことを伝えるため、代わりに同窓会に出席することにした。しかし会場につくないなや、学校の人気者だった美咲と間違えられてしまい、本当のことを言い出せなくなる。帰りのバスを待っているときに、姉の同級生で、今は売れない小説家の乙坂鏡史郎(福山雅治)に話しかけられ、連絡先を交換する。そして彼から「君にまだずっと恋してると言ったら信じますか」というメールを受け取るが、「おばさんをからかうのはやめてください」と返信する。

帰ってきたゆうりが入浴中、鏡史郎から「25年間、君にずっと恋しています」というメールがスマホに届いた。たまたまそれを見つけた夫(庵野秀明)は、嫉妬からそのスマホを湯船に放り投げる。ゆうりは鏡史郎にもらった名刺の住所に宛てて、美咲を装った手紙を書く。

監督・キャスト

監督:岩井俊二
出演:松たか子、福山雅治、広瀬すず、森七菜、神木隆之介、庵野秀明、豊川悦司、中山美穂

しゃきっとしろよ

岩井俊二の新作は、淡くてなよなよとした映像が今も健在だった。もう50も半ばなんでしょ。「いいかげんしゃっきとしろよ」と怒られてもしょうがない。

高校生で映画ファンになったころから洋画のエンタメが大好きで、一方で、日本映画が持つ呪いのような土着感がどうも苦手だった。でも、唯一認めていたのが、ユニークな世界観を持った「スワロウテイル」(1996)だった。

桂三枝(現在は桂文枝)

スマホの画面が、Filmarksのアプリの「桂三枝(現在は桂文枝)」のページになっていて首を捻った。だって、僕には、三枝師匠のことを調べなきゃいけない理由が、いっさいなかった。
たぶん、本作のことを調べたあと、画面ロックをせずにポケットに入れたため、勝手に操作されてしまったのだと思う。そこで「戻る」をタップしてみた。すると、Filmarksの画面は、こんなふうに推移していった。

桂三枝→「紅の豚」(1992)→宮崎駿→「風立ちぬ」(2013)→庵野秀明→本作。

ケヴィン・ベーコン

こういう、出演作→出演者→出演作→・・・ とリンクをしていく遊びを、「ケヴィン・ベーコン・ゲーム」と呼ぶ。僕も、映画好きの友達と、酒を飲みながら延々と行っていたものだ。

もともとは、1967年に提唱された「6次の隔たり」という理論があったらしい。
Aさんには、平均して44人の知り合いがいるとする。そして、その44人中の1人であるBさんにも、44人の知り合いがいるとする。ここでポイントとなるのは、Bさんの44人は、Aさんの44人とは、重複してはいけない、ということ。共通の知り合いは除くわけだ。
その場合、6人目の頃には、44の6乗である、72億5631万3856人が、「知り合いの知り合い」ということになる。これは地球の人口を超えるので、少なくとも6人を経れば、あらゆる人はあらゆる人と、繋がりがあるということになる。

しかし、これは1967年に唱えられた理論である。現在の人口は76億人なので、ちょっと足りない。しかも、SNSにより「バーチャルな知り合い」が一気に増えた現代においては、その指数は4.74まで縮まっているらしい。

ちょっとした倉庫

でも、こういう、指数関数的な数字のトリックには、「そうは言ってもさ、無理だよ」という限界がある。

新聞紙を42回折りたたむと、その厚みは月に到達する。
確かに、0.1mmの紙を42回折りたたむと、その厚さは44万Kmとなり、月までの距離である38万Kmを優に超えることができる。でも、これはやってみればわかるけど、7回目くらいからもう折れない。

こんな逸話もある。豊臣秀吉に「お主になんでも褒美をあげよう」と言われた落語家の曽呂利新左衛門は、「米粒を1ヶ月もらえればいいです」と答えた。彼が言うことには、今日は1粒、明日は2粒、明後日は4粒。毎日、前の日の2倍だけの米粒をもらえれば十分です、ということだった。
しかしこの場合、30日目には、536,870,912粒の米をもらえることになる。前日までのぶんも累計すると、新左衛門が手に入れることができた米は10億粒近くになり、これは成人男性が100年に必要なカロリーに匹敵する。

あれ・・、でもこっちは意外といけるな。最終的に450俵(27トン)分の米を得るわけだけれど、これは日本の米の生産量の0.000003に過ぎない。縦に並べると、月なんて到底無理で、東京から北京くらいまでの距離しかない。ちょっとした倉庫なら問題なく置いておけるし、市場価格でせいぜい一千万円程度だ。月に行くよりもぜんぜん安いし、三枝師匠ならたぶん買える。

月面

そんな話をしたいわけではない

そんな話をしたいわけではない。「ラストレター」の話だ。

これは、「広瀬すずや森七菜をかわいいうちに映像に残しておこう」という映画だった。つまり、小さな娘の運動会の様子を、必死にホームビデオに撮るお父さんと同じだ。

昨今の日本の映画やMVが、手持ちカメラによる淡い映像を多様するのは、すべて、岩井俊二の呪いが脈々と受け継がれているのだと思っている。けれども結局、表層だけを真似したところで、やっぱり御大にはかなわないのだ。

なぜかというと、豊川悦司との居酒屋のシーン、これがすごかった。地下の洞窟に巣食う魔物に対峙しに行くダークファンタジーじゃねえかよ、と思わせられるほどの、暗くて陰鬱とした照明の映像。さっきまでは、広瀬すずと森七菜が、ふんわりしたワンピースを着て、眩しい自然の中でボルゾイと戯れていたのに・・。

こんなふうな振り切りかたができるのは、初恋の思い出、とか、小説家への挫折、とか、岩井俊二自身の、極端にパーソナルな暗くて湿った感情を、心の深いところからずるずると引き出してきて、そしてそのまま映像に置き換えているからなのだ。

まとめ

とにもかくにも、「アベンジャーズ」みたいな刺激はいっさいない映画だけれど、クライマックスにはベタな仕掛けがあって、夕方にレモンサワーを飲みながら観ていた僕は、きれいに泣かされた。レモンサワー飲みながら観たら良いと思います。

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