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壮絶なワーグナーのリングサイクル

ワーグナーのリングサイクルを聴き終わり・読み終わりました。時々意識を失いつつ、8月末のバイロイト音楽祭に向けて準備完了。

ワーグナー自身が脚本も書き、音楽も作り、26年かけて4部作を完成させたというリングサイクルですが、26年 . . . ワーグナーが35歳から61歳まで取り組み続けたって私自身のことだったらと考えただけでもう気が狂いそう。

リングサイクル、または「指輪」の正式名称は「ニーベルングの指環」といい、ニーベルング=地下に住むニーベルング族を指しますが、映画になった有名なJ・R・R・トールキンの冒険物語、ホビット+ロード・オブ・ザ・リングシリーズと出どころが同じの北欧神話なので、黄金の指輪やホビットなどを頭で思い浮かべながらの取り組みです。話は本当に長いので、ここではメモのみ。


序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold):2時間40分

ライン=本当にドイツを南北に流れるRhine川が舞台です。ニーベルング族の小人であるAlberichが悪役。Alberichは金のために愛を捨てた男、悪です。いや、愛されないために金の亡者になったのか。Alberichがライン川の乙女たちから黄金を奪い黄金の指輪を手にしますが、後でAlberichから無理やり奪われたこの指輪はAlberichにより呪われます→指輪を手にすると死に至ると。

神々の長Wotanは天上の城Valhallaを巨人族に作らせましたが

Valhallaのイメージとしてエディンバラ城の写真を使っている人がいて、なんか親しみが湧きます

エディンバラ城、高台に立っているので、天井のValhallaのイメージとして使われていたページも

ギリシャ神話もそうですが、神々か人間かを分ける線引きは神々は永遠の若さを保つ(老いて死んでいくということがない)人間は老いるというところにあります。

この神々の長のWotanはずる賢い政治家のような存在なので、巨人族に城を作らせたお礼(女神Freiaを与えるという約束、Freiaは神々に永遠の若さを与えるリンゴを作っている)をずるしたくて、部下の神Logeに状態の収集を指図します。そういえば私の同僚は娘さんにFreiaという名前をつけてました、北欧の女神です。WotanとLogeはAlberichから無理やり金の指輪を奪い、この金の指輪はFreiaとの交換で巨人族の手に渡りますが、その途端に巨人同士で争い殺し合いが始まるのです(死の呪い通り)。金の指輪は元のRhein川底に戻されるべきなのです。

第1日 『ワルキューレ』(Die Walküre):3時間50分

ワルキューレドイツ語: Walküre)は北欧神話の戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性たちのことだそうです。

Wotanは前述した通りギリシャ神話のZeusのようにパワーマニアであり、そして好き勝手している(例えば、妻Frickaがいるのに他の女神や美しい人間の娘と浮気をするとか)自分の行動で生まれる矛盾を色々と操ろうとする政治家的親分。最終的には神々も城も炎と共に燃やされて滅ぼされてしまうのも、自業自得でしょうか。

ここでの主人公は双子の男女のSiegmund とSieglinde(神々の親分Wotanの人間女性との間でできたこともだち)、双子の妹の方はHundingというパワハラ男と結婚していますが、双子の兄に会い、兄が妹を連れ出し、
兄弟姉妹であり愛し合う(近親相姦)(これがWotanの本妻Fricka*の怒りを買う)。Siegmund とSieglindeには子供ができています(後でジークフリードSigfriedとして登場、ジークフリードという名前はよく耳にしますよね、ワーグナーの息子もジークフリードという名前をつけられていたそうです)

双子の兄は妹の夫のHundingと決闘となります。ここで、Wotanが別の女性=知恵の女神Erda**との間にできた愛娘、Brünnhilde(=Walküreの一人)を送り込み、この決闘でSiegmund(双子兄)は死に、死せる勇者は天上の城Valhallaに迎え入れられることを伝えようとしますが、二人の愛、Sieglindeの姿に魅了され、Siegmundを助けようとWotanの命令に反く行動をとるのです。この行動がWotanの怒りを買い、Wotan自らSiegmundに与えた神の剣Notungを破壊しSiegmundはHundingに殺されます。

Wotanの愛娘Brünnhildeは強く美しく
のちにSiegfriedにより眠りから起こされる白雪姫のような展開になる

*Wotanは指輪を取り戻したいので、巨人と戦い指輪を取り戻してくれる役目を子供のSiegmund(双子兄)にさせたくて剣をプレゼントするわけですが、この企みを正妻のFricaが「Wotanにより仕掛けられた、意図的に操作されているSiegmundは自由な意志を持ち、自発的に行動する英雄にはなり得ない」ことを指摘して、Wotanを言いまかします(伏線)。

**知恵の女神ErdaはWotanのパワーマニア、現状を自分で全てコントロールしたい欲求、そのために生まれてくる歪みや矛盾さえ操作しようとする様子をいさめる秩序の役割を担っています。

第2日 『ジークフリート』(Siegfried):4時間

ジークフリード、双子の兄妹の間に生まれた息子です。父であるSiegmund(双子兄)は母の元夫Hundingに殺され、Siegmundを産み落とした母Sieglindeはその後亡くなり、ジークフリートは小人族Mime(前述のAlberichの弟)により育てられています。彼は神の剣NotungをWotanにより破壊されたところから、自力で作り直し上げます(鍛冶)。この剣を使い、また怖いもの知らずのジークフリートは大蛇に姿を変えた巨人族(指環を持っている)を刺し殺し指輪を手に入れることになるのです。またこの剣はWotanの槍をも破壊し、これが神々の滅亡を示唆する伏線回収。つまりジークフリートはWotanの意図的な操作の枠を超えた「自由な意志を持ち、自発的に行動する」であるために指輪を手に入れる英雄となり得たということになります。

そしてWotanにより眠らされていたBrünnhildeの元へ到着し、眠りから目覚めさせ、恋に落ちます。ジークフリートは「指環」をBrünnhildeに愛の証として預けます。

ジークフリードのイメージ。Opera onlineより
「怖いもの知らず」のピュアなヒーロー


第3日 『神々の黄昏』(Götterdämmerung):4時間30分

全てが破滅へと向かっていく最終章。冒頭で時々意識を失いながらと書いたように、ここまで到達するまでの長い道のりは辛かったのですが、ここ最後には感動でいっぱい、ソファーの上でCDを聴きながら涙ボロボロの展開になったのには自分でもびっくりしました。この頃になるとワーグナーのLeitmotiv(ライトモティーフ)(特定の人物や状況などを示すテーマ曲部分)も頭に入っているし、音楽が複雑に厚く重なり合い、四部作を通じて初めて合唱も登場し、なんとも成熟した様相になっています。

我々のピュアなヒーロー、ジークフリードがここであの100%黒のAlberichの息子、これまた悪人のHagenに騙され「薬」を飲まされ、記憶喪失の状態になるというなんとも信じ難い展開に。つまりジークフリードは愛を交わしたBrünnhildeを一切覚えていないというショック。ジークフリード彼自ら変装し、Brünnhildeを親友義兄弟の約束をにわかに交わした男のために山からひきづり出してくるわ、指輪は無理やり奪い返すわ、の展開。結局呪われた指輪の伏線の通り、ジークフリードはHagenに殺されます。殺される直前に記憶を呼び戻す薬で全てを思い出しますが。

そして、全てが終わる破滅、滅亡の最後はBrünnhildeで〆。

ラインの乙女たちからすべてを聞かされたBrünnhildeは、河畔に薪を積み上げるよう命じる。ジークフリートを称え、その亡骸を薪の山の上に運ばせる。Brünnhildeはジークフリートの指環を手に取り、ラインの乙女たちに返す決意を語る。積まれた薪の山に松明が投じられ、火が燃え上がると、Brünnhildeは愛馬にまたがり、炎の中に飛び込む。館は炎に包まれて崩れ落ち、ライン川は氾濫して大洪水となる。炎は天上に広がり、神々と勇士たちが居並ぶValhallaが炎上する。

wikipediaより
夫はViennaでのプロダクションでは本物の馬をステージに上げていたと教えてくれました。

筋を書くとネタバレをしてしまうからなかなか感想を書きづらい一般小説と違い、何回読んでも、誰かの感想を読んでも、いろんな伏線が隠れていたり、どうやって解釈をするかがそれぞれ違うというのは本当に面白いですね。


2022年、一部プロダクションに対して、あまりにも想像からかけ離れたセッティングに聴衆が大ブーイングしたという記事。ストーリーが複雑なので、あんまりにも奇をてらった大胆な読み替えの舞台だと、きっと迷っちゃうなあ. . . 心配。この渾身の記事、ありがたいです。

バイロイトオペラ準備、過去記事はこの2点


いつもありがとうございます。このnoteまだまだ続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。