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今年一番よかった上半期の一冊

この夏、ホロカトマム山林で2週間、ひたすら虫を見て周る「昆虫類調査オーバービュー」を予定しているので、ここ数年間温めてきた虫への興味はゼロ地点から始まり、ゆるゆるどんどん高まってきています。

そんな中、走りながらAudibleで本を読んでいる(聴いている)という山帆さんの記事に出会います。

こちらで紹介されていた前野ウルド浩太郎さんのこの本を迷わずピックアップ、これは良さそう。

はい、朗報です。そこの虫嫌い、虫苦手の女子、あなたの知らない世界が存在しているのです。いや、虫好き、虫ニュートラルのあなたにも全力で推したい、今年一番よかった上半期の一冊に決定です。結論から言えば、笑って泣いてワクワクしてガッツポーズして、大好きすぎて前野ウルド浩太郎さんをwikiで検索して、早速Xでフォローして、一ファンになりました。

私のお気に入りは、ゴミムシダマシ(通称ゴミダマ)のところ。これはネットでも見れる別記事になっていて

audibleで聴いているだけだとこういう詳細までは知り得ないけれど
別記事になっていて、写真まで載っていて嬉しい

今まで誰も注目したことのなかったゴミダマのオスとメスの判別の仕方を、(アルデンテではない、美味しくなさそうなフニャフニャ)パスタをたらふく食べさせた後の食後にだけ、つまりお腹がいっぱいになっているために押し出されてくるという生殖器を肉眼で観察できると言う凄技を編み出しているところ。

確かに、イギリスでも日本でもアフリカでも、一般食堂でナポリタンを食べるとすれば、アルデンテ?なにそれ美味しいの?のノリで極限まで水分を取り込んだふにゃふにゃパスタが出てくる。私もスダーンから来ていたアフリカ人同僚のお手製パスタをいただいた時のフニャフニャパスタを急に思い出して、そんなところで懐かしくうんうん、そうだよねと頷いたり。

何と言っても前野ウルド浩太郎さんの魅力的なところは、人と人との出会いの描写。

ババ所長、大好きだ

人間が出来ていて会話の隅々まで温かくて優しくて包容力に溢れるババ所長とのやりとりは全て涙を誘うし、相棒のティジャニとのカタコトの即効的なPigion languageというのか、コミュニケーションの仕方には脱帽。「ハゲ」と言って「この車超燃費が悪い」を通じ合えるのって、神業としか思えない。

今、私とティジャニは、片言のフランス語を使って会話をしているが、実はこの世で二人にしか理解できない言語になっている。ティジャニとは意思の疎通ができるが、他の人たちとはほとんどできない。 

「この車、ガソリン、よく食べる」は「この車超燃費が悪い」、「頭の上、疲れている」は「ハゲ」となる。

ネット版プレジデントより

学者というと、地頭がいいというだけでなく、寡黙で、ちょっと近寄りがたくて、講義をしてもらってもなんか重箱の隅系の話にあっという間に突入して、素人にとってみればなんでそんなことが面白いんですかね?って口には出せない「???」で我々の脳みそが埋まってしまうイメージなんですが、前野ウルド浩太郎さんの場合は地頭がいいにもかかわらず、フランス語の勉強をしない思いっきりの怠けっぷりや(失礼)、日本からモーリタニアへ麺つゆやビールを送ってしまうカッコ悪さ(しかもビール缶は没収される)などなどにあっという間に親近感→一緒に引き込まれる感覚を味わい、「バッタを倒しに」とのタイトルにはなっているけれども、害虫と化しているバッタという生き物に、実は深い愛情や尊敬や情熱が感じられ、自然に上から目線ではなく下から目線で寄り添わせてくれる文章力と人間力。

私にも5年間エディンバラの大学院で無収入(いや、大学に授業料も払っていたマイナス収入)の研究生活の時期がありましたが、いやはや、初めての海外生活、日々先へ進んでいる気がしないストレス、その頃のただひたすら耐え忍んでいた自分に教えてあげたい。夢や目標の大切さだけでなく、そういう苦境を楽しむことができるセンスを学べていたかもしれないと。毎日恩師に10分でも近況報告をしに行くとか、プレゼンの前には何度も何度もしつこくシャドウイングで練習するとか、アッと言わせる仕掛けを考えるとか、ちょっとした気づきから発展しうる研究、論文テーマの見つけ方とか、そういう実用的な今からでもすぐ学べる大事なコツも満載で、研究者である人、目指す人の全てに読んでほしい本です。続編のAudible化、期待しております。


追記:noteでこんな対談記事まで発見。

「自分の弱みは、実は強みだった」と解釈していく箇所がたくさんありますよね。たとえば無収入というのは、非常に辛いけれども、それを武器にできる。俺は博士号を持っているのに無収入で、アフリカの厳しい環境で研究しているぞという見せ方をすることで、周りの注目も集めることができるし、周りを励ますこともできる。

 仏教的な観点というのは、何事もプラスに読み替えていくことなんです。読み替えていくことで、相手にプラスの力が湧くように持っていく。そういう意味では、これは形を変えた仏教書だなと思いましたね。

上記記事 本文中。

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