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夜の高速とAJICOの親和性

夜の高速道路ドライブ。
どこまでも続く暗闇、遠くに見える街の灯り。
私はいつもどちらかに焦点を当ててBGMを選んでいる。

後者の方がイメージしやすいのではないだろうか。いわゆるアーバンソングというか、シティポップというか。先にそちらの音楽について触れておこう。

嵐『Tokyo Lovers Tune Night』
軽快なギターカッティングと豊かに歌い上げるサックスが華やか。ストリングスが情景を目眩く展開させていく。


椎名林檎『走れゎナンバー』
根を張るような重たいベースラインの上でフルートが対比的に高らかに駆け回る。後半の転調もドラマチック。


荒井由美『中央フリーウェイ』
包み込むような柔らかいエレピの響きが心地よい。細かく刻まれるシェイカーやカホン、時折鳴らされるビブラスラップといったパーカッションがリズムに彩りを添える。


Jamiroquai『Too Young to Die』
ファンキーなベースがグルーヴを牽引する。サビ以外の部分はコード進行もベースの動きもストレートに抑え、サビの劇的な展開が映える作りになっている。


個人的に好んでよく聴いている曲の中から、一般に知られているアーティストのものを選曲した。下2つは曲自体の知名度も高い。それぞれ少しずつテイストは異なるものの、いずれも煌びやかな夜景が目に浮かぶような、洗練された明るい成分を含んでいる。

夜の高速ドライブとなるとこの手の音楽を好んで流す方が多いのではないだろうか。ジャズ的アプローチのある、洒落た雰囲気のポップスである。

さて、今回はそのような夜の「陽」部分ではなく、深く深く呑み込まれてしまうほどの「陰」にクローズアップしたアルバムをミッドナイト・ドライブBGMとして薦めたい。

夜の高速にこそ〜AJICO『深緑』〜

UAと元Blankey Jet Cityの浅井健一を中心に結成されたロックバンド、AJICO。活動期間が非常に短く(2000-2001)、この『深緑』がファーストかつラストアルバムとなっている。

『深緑』のジャケットを見ると、タイトル通り黒味の強い緑が均一に塗られ(現物は布地)、そこに奇妙な生物や怪しげな家の絵が施されており、独特なメランコリック風味の存在感がある。

AJICO『深緑』(2001.02.07 発売)

肝心の音楽性であるが、ジャケットに描かれたこのダークネスな色合いこそがアルバムの世界観そのものと言っても過言でない。それほど、このアルバムは「暗く」「重苦しい」のである。「陰鬱」の体現とでも言えよう。先程挙げたアッパーなアーバンチューンとは真逆の様相である。

5曲目『青い鳥はいつも不満気』はアルバムの中でも珠玉の鬱ソングだ。もの悲しく爪弾かれるギターと太く妖しく伸びるウッドベースが織り成す、陰鬱、憂鬱、鬱屈、沈鬱、ありとあらゆる"鬱っけ"を濃縮したかのようなサウンド。そこに、UAの丸みを帯びた冷たい歌声と、浅井の静かに囁くようなハモリが重なる。そのハーモニーは、毒々しく甘美なほどに暗さを極めている。

これを夜の高速ドライブで流してみてほしい。暗闇の中、障壁なくどこまでも続く道路を走り続けるうちにそのまま樹海に招かれてしまうような感覚に陥ること間違いなし。不安になるほどの翳りに思い切り浸り、真夜中の黒を味わい尽くす。それを突き抜けた先に、光を吸収した漆黒の美しさが感じられるはずである。

自分と闇夜の境界線が徐々に混じり合って融合し、暗さの一部と化すような気分を味わえる音楽。夜の高速ドライブのお供に、絶品の鬱ソングはいかが?