電子マネーに相互運用性(異なるアプリ間での送金機能)は必要か

上記の記事の様に、専門家や決済関連企業の方々の意見をみると、異なるアプリ間でも送金できるようにして、電子マネーを現金と同じ感覚で使えるようにするのが重要だとする意見が多い印象です。

確かに例えば、スウェーデンのSwishは無料で個人間送金できるアプリとして普及しました。

しかし、個人間送金が自由にできてしまうと、暗号通貨や振り込め詐欺で生じているように、電子マネーを意図しない形で他人に送金されてしまう危険性も生じます。この問題を防ぐために、日本の法律では、送金機能のある電子マネーを持つための本人確認が必要となっていますが、各個人の本人確認は手間がかかるため、コスト要因になり、完全に行うのは難しいです。

そう考えると、送金機能のない電子マネー(交通系・流通系ICカードやモバイルSuica)を中心にキャッシュレス化を進めた方が、電子マネーの安全性を保つ点では便利だといえます。送金機能のない電子マネーであれば、電子マネー事業者が加盟店管理義務により支払先の小売店舗の審査をするため、支払側の個人の本人確認は軽くできます。

個人間送金の利点の一つとして、飲食店での割り勘が例に挙げられることがありますが、個人向け家計簿アプリが今後、資産運用や税計算も含めた総合的な家計管理ツールとなり、その利用が今以上に拡がる可能性を考えると、店舗側で勘定を割ってもらって、各個人が店舗に直接支払いをした方が、支払先情報の管理の面では楽になるので、個人間送金が必要な場面は家計簿アプリの発展とともに少なくなっていくと思います。

ここに述べたような形でキャッシュレス化がすすんだ場合、現在の自分の身の回りにあるサービスで想像すると、例えば、

・CtoBの支払が生じる日々の買い物や各種料金の支払いはSuicaで、
・友人とのバーベキューやPTAなど、どうしても立替払いが生じるためにCtoCの少額送金が必要な場合はチャットができるLine Payで、
・それ以外の送金は、(今以上に)厳密な本人確認がされる銀行預金・高額送金用電子マネーで、
・資産運用や保険購入などの家計管理及び確定申告はマネーフォワードMEで、

という風になる可能性も考えられます。(個社名は単なる例です。)この場合、伝統的に現金が担ってきた各種機能を全て一つの電子マネーに統合しようとせずに、あえて複数の電子決済手段に分担させることになります。少額送金については、チャット機能との融和性を考えると、同一のチャットアプリに付属する送金機能が使われるのではないかと思いますが、複数アプリ間での相互運用性が必要とする意見も存在するかもしれません。

今回の新コロナウイルス危機対応で現金給付が議論されていますが、特定の小売チェーンに縛られずに普及しているSuicaを公的デジタル通貨(の一つ)として位置づけ、現金給付をSuicaで行うことも考えられます。その場合、Suicaを提供する事業主体の公共性の担保と、店舗側が支払う決済手数料の引き下げが課題になりますが、この危機を日本社会の変革の契機として、単に商品券をくばるというのではなく、キャッシュレス化への具体的なビジョンを伴った現金給付の議論がなされるとよいと思います。