決済システムのセーフモードと中央銀行デジタル通貨(英中銀CBDCディスカッションペーパー感想)

イングランド銀行(英国中央銀行)の中央銀行デジタル通貨(CBDC)についてのディスカッションペーパーの記事が数日前にでました。ディスカッションペーパーの原本をざっくりと読んで目についた点は以下の通りです。(以下は個人的な印象であり、読み違えもあるかもしれません。また、ペーパーのすべての内容は網羅していません。)

・今回のペーパーは、個人・企業向けのリテール決済のみについて論じる。金融機関間決済、国際送金はまた別に取り扱う。

・現金(銀行券・硬貨)の使用が減りつづけている。銀行預金システムに障害が出た場合に決済システムを維持するための資金の逃げ場として、現金に代わる安全なCBDCをイングランド銀行が提供する意義がある。

・CBDCは、安全かつ民間の競争やイノベーションを阻害しないサービスとなる必要がある。そのようなCBDCの提供方法の一つとして、今回のペーパーでは、決済インタフェース提供事業者が中央銀行のサーバーにAPI接続するプラットフォームモデルを提示。

・利用者の本人確認は、決済インターフェース提供事業者か、本人確認サービス事業者が行う。

・決済インターフェース提供事業者がどのように利用者に課金するかは、イングランド銀行が決めることではない。

・銀行預金からCBDCに資金流出した場合、民間銀行は中央銀行から資金(銀行準備)の借入を行う必要があるが、中央銀行が受け入れられる担保の種類に制限があるため、金利のコントロールが難しくなり、また銀行貸出を抑制する可能性がある。また、CBDCは、金融危機時に安全な資金の逃避先を提供する一方、そのことがかえって民間金融市場からの資金逃避をうながす諸刃の剣になりうる。CBDCはこれらの課題を克服する必要がある。

・ブロックチェーンのような分散台帳(DLT)を使用するかどうかは技術的な問題で、長所も短所もある。CBDCをアカウントベースにするかトークンベースにするかについても同様。

このペーパーにあるプラットフォームモデルは、以下の記事で述べた二番目のモデルと同じです。

以下は感想ですが、プラットフォームモデルの課題の一つは、利用者向けサービスに障害が発生した時の、中央銀行と決済インターフェース提供事業者の間の損失分担です。現在の日本でのオープンAPIでも銀行と電代業企業の間で問題になりました。この観点からは、現在の電子マネーの様に、決済サービス事業者が自分の債務を利用者向けに発行した方が、損失分担の問題は簡単になります。(こちらは上の記事で述べた一番目のモデルです。)

もう一つの感想としては、もし本人確認がきちんとでき、国内居住者全てが持つデジタル通貨口座を中央銀行が提供すれば、現在のようにパンデミックにより通常の経済活動を行えなくなった際に、経済のセーフモードの発動として、給付型の社会保障を簡単に即時に行えるようになることです。今後のCBDCの議論では、金融危機などによる銀行預金システムの障害発生時のみならず、大規模災害やパンデミックも含めた、非常時の経済一般でのCBDCの有用性と課題を視野に入れる必要があると思います。