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ある雨の日に

午後のぬるい雨に打たれ
藤の花散る
つつじの花散る
烏揚羽も濡れ落ちて
黒いアスファルトの光沢となる

わたしも雨に打たれながら
答えのない問いを繰り返す
期待されるから応えるのか
応えるから期待されるのか
誰も どちらも持たないままに
生きられるほど強くはないのに

風は草いきれしそうなほどに
ぬめり、うるみ、あおめいて
ぼうぼうと髪を吹き乱す

何をすべきかはわかってる
なのにわたしは立ちすくんでる
答えは見つけるものではなく
わたしがつくりだすもの
ただ、今のわたしには
わたしだけが欠けている

やがて黒い雲をぬって
ほんのひとすじの陽射しのなか
振りかえったあなたは
はらはらと
ほどけてしまいそうで
思わずその手をつかもうとした

そのときわたしは
ようやく知る
答えは問いに先立って
わたしの中に脈打っている
あなたに手を伸ばすたび
わたしはわたしを取り戻す

わたしはそっと
踵を返すと
烏揚羽を拾い上げる
それは手のひらのなか
息遣いのように二、三度
羽を上下させると
ぐんなりと形を変えながら
夕暮れの風に溶けていった

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