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月記(2024.02)

2月のはなし。

〔写真:Canon AE-1 & lomography babylon 13〕




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ふだん雪が降らない町だから、雪が降った途端に静かになる。




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VX-βのライセンス抽選に当たった。はじめての歌声合成ソフトになる。

世代的には初期のボカロブームにしっかり直撃しているし、いくつか今でも好んで聴いている曲もある。しかし、ここ十年くらいの音声合成ソフトの潮流については全くといっていいほど知らない。それがなぜ今になってソフトをインストールするまでに至ったのか。答えはシンプル。よく知っている人がボイスバンク提供者になったからだ。

タレント性というものは、なんだかんだで人を動かしてしまう力をもっている。




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Maison book girlに出会って6年が経った。

その出会いの場であり、その後も度々忘れられないステージを見せてくれたランドマーク、中野サンプラザ。営業を終了して、もう一年が経とうとしている。解体工事が始まるのも、そんなに先ではないのだろう。向かいの中野駅は、今日も着々と空に向かって伸び続けている。




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楽器の演奏も運動のひとつだ。出音をコントロールすることは、身体をコントロールすることとほぼ同義だ。肩が凝ったり、指が太くなったり、運動が蓄積された身体は変化を続けていく。十何年もやっていれば、自分の身体が下り坂に差し掛かっていることくらい気づく。




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自分がどう怒っていたのかを思い出せないとき、当時の自分を置き去りにしてしまった不甲斐なさと、当時の怒りの矛先にいたものに対する申し訳なさがおそってくる。




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どうやら、音楽に夢中になっている。

とある本に書いてあった、「努力は夢中に勝てない」という言葉がある。これは好き嫌いの話ではない。巧拙の話でもない。そして、苦楽に優劣をつける話でもない。

僕は音楽に夢中になる体験をしてしまったことがある。「楽しいから音楽」というのは、それなりには正しい。というか、根っこのところではそう信じている。ただすこし視点を変えてみれば、音楽ほど世にありふれていて、息苦しくまとわりついてくるものもない。

努力家として考えたとしたら、その努力の結果をもって踏ん切りをつけたりできたのかもしれない。僕は怠惰なので、一度放り込まれた夢の中から逃げることができない。

人間は定期的に睡眠をとるし、睡眠の深さも周期的に変化する。ようやく眠りが深くなってきている。夢に沈んでゆく気配がする。




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この世界で最も美しい音楽とは何か?

僕が思う答えのひとつ、それは『尊しあなたのすべてを』だ。

RAYと名乗る人達が舞台上でこの曲を演じたのを見たのは、いつぶりだろうか。というか今のRAYが演じるのを見るのは初めてに決まっている。それなのに、僕の心身に記憶されていた感覚や記憶や、色んなものが次々に引っ張り出された。前世の記憶がフラッシュバックするときとか、こういう感じなのだろうか。

内山結愛、白川さやか、甲斐莉乃、月日がはじめて形にした演目。

琴山しずくがはじめてRAYのメンバーとして舞台に立ったときの演目。

愛海、月海まお、紬実詩がはじめて形にした演目。

僕の葬式ではこの曲を流すと決めていた。そのせいか、逆にこの曲を聴いたことで、僕のなかで葬式がはじまってしまった。何かが焼き尽くされた気がした。生前葬はつつがなく終了した。空に消えてゆく煙を見届けた僕は、ようやく今のRAYを見ている。




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MATSURI SESSIONをご存じだろうか。MATSURI STUDIOからやってくるZAZEN BOYSとかいう集団が巻き起こす、お祭りである。

でっかい東京ドームシティホールの二階席最後列。ゆっくり椅子に座って会場全体を見下ろす特等席。でっかい舞台上の中心にギュッと集められた楽器類。凝った舞台装飾もない。あるのはでっかいライトだけ。

僕がZAZEN BOYSを知ったのは、『HIMITSU GIRL'S TOP SECRET』のMVだった。殺風景なスタジオで、花魁を中心に円形に取り囲む立ち位置で、ZAZEN BOYSの面々が演奏をしている。今回のMATSURI SESSIONの舞台も、そのMVと同じ色合いだった。

『らんど』発売に合わせて、向井秀徳へのインタビュー記事が複数公開された。それらのなかで向井が語っていることは、大きくふたつ。「自分も人生の終わりを意識するようになった」ということと、「結局、自分はこれしかできない」ということ、このふたつだ。十何年経とうが、『HIMITSU GIRL
'S TOP SECRET』の根っこはそのままでしかないのだ。それぞれの底にあるモノは、それぞれで墓場に持っていくしかない。最終、手荷物が墓場にちゃんとおさまるように、モノを放ち続ける。そういう人生の見方もできそうだ。僕はそれを喰らい続ける。

『破裂音の朝』で「笑って」と優しく言われた気がしたが、酔いが回った向井には観客が吉岡里帆に見えていたらしいので、そのぶん優しく聴こえたんだと思う。僕は少年からおじさんになった。

向井秀徳よ、僕は笑っている。吉岡里帆じゃない。僕だ。僕は笑っている。




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閏日。B7(びーなな)記念日。






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