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「男らしさへの執着」が依存症を生む理由《ホモソーシャルとミソジニー》

「ええかお前ら、これまでに抱いた女の数を右端のヤツから順番に発表していけ!」

赤ら顔の先輩が何杯目かのビールを煽りながら、座を仕切っている。

一番右端にいた男性から時計回りに「俺は〇人以上抱きました」と答えていく。嬉嬉とした様子で。

吐き気がする話題だと思いながら、僕は居酒屋から出れずにいた。

過去に男性ばかりが集まる飲み会で、こういう話題になることが何度かあった。

男同士の強い結びつき、男の絆を意味するホモソーシャルという言葉がある。

自衛隊の性加害報道を見ていても、明らかなホモソーシャル文化を感じさせるし、マッチョで強いことが推奨されるスポーツもホモソーシャルと縁が深い。

「男たるもの強くあらねば」の呪いにかかっている人ほど、依存症になりやすいという。

なぜなら弱味を見せることに、激しい抵抗を感じるからだ。

心理的に健康な人は、自分の強味も弱味も受容できている。自身の弱さを理解しているから、レジリエンスがある。柔らかさがあり、しなやかなのだ。

反対に「勝つことこそが全て」みたいなマッチョな価値観を持つ人間はポキリと折れやすい。

次々に部下を精神疾患に追い込むパワハラクラッシャー上司が、逆にクラッシュされ病んでしまった事例があるという。

握った刃物を人へ向けているときは無傷だが、自分に刃先を向け自傷し始めた途端、痛くて耐えられなくなるのだろう。

ある集りで「この中にいる男の中で、間違いなく俺が一番女を抱いている」と口にした後輩がいた。

負けず嫌いの性格の彼は、典型的な男尊女卑思想の持主。

女性の人格を見ようとせず、肉体関係を持った女性の数を増やすことに終始していた。

カウント数を増やせば、彼の生きづらさを一瞬和らぐらしい。

人をモノのように認識する根底には、ミソジニーという女性蔑視の心理があるに違いない。

彼は今、ある依存症で苦しんでいるらしい。

筋トレに明け暮れて、女性をとっかえひっかえするような男性ほど、実は「脅かされている」という感覚の持ち主だ。こういう人間ほど、本心は不安でいっぱいだ。

こういう男性ほど、過剰な男らしさを演出しがちだし、あえて粗野に振る舞う。豪快に振る舞うことが、鎧になっているのだ。

「男らしくあらねば」という強迫観念がこじらせて、強迫的なまでに女性へアプローチし続けている人がいる。

こういう人ほど、女性を口説き落とす行為が、復讐的になっているという自覚がない。

そして人前で「男たるもの強くあらねば」と無理している人ほど、ストレスを抱えやすい。
きっとこの手の人は、ひとり家で過ごすときに「男らしくあり続けるのはこんなに苦しいのか…」と懊悩しているだろう。

依存症のベースには、生きづらさがある。生きづらさを刹那、忘れされてくれるものがドラッグであったり、あるいは異性を口説き落とすという行為であったりと、人によって形を変える。

きっとマッチングアプリ依存症に陥っている人の何割かは、苦しみながら異性との出会いで傷を癒そうとしている。
しかし行為自体が復讐的だったり、相手をモノ化してしまっているので上手くいかないし、どんどん悪循環に陥っていく。

こういった生きづらさを抱えている人に必須なのは、自分の弱さに目を向けふんわりと受容してあげること。

僕もワーカホリック(仕事中毒)を経験しているのでわかるが、弱味を直視できないと苦しみが加速していき、やがて人生が立ち行かなくなる。

強迫的ともいえる「〇〇であれねば」という信念は、自分も他人も不幸にする。

うちは小学校高学年で父が亡くなったので、兄や僕が家事をするのは当たり前だった。

育って環境がホモソーシャルとは程遠かったので、それが結果的に良かったと感じている。

僕が仲良くなる男性は例外なく、男らしさという呪いにかかっていない。

男尊女卑のホモソーシャルに染まった人たちと接することもあったが、この手のタイプと意図的に距離をとるようになった途端、一気に楽になった。

令和になっても「男たるもの女よりも稼いで一人前」「男たるものいっぱい女性を口説けて一人前」という「恐竜時代か」とツッコミたくなるような古い価値観で生きている人は少なくない。

こういった人たちと会話をしていると、例外なく「体に力が入っているなあ」と感じる。

踏ん張って強がっているので、話していて角が当たる。そしてマウントを仕掛け自身の優位性を示すことが癖づいている。

だから嫌われやすいし、避けられやすい。

こういう人ほど孤独なのだ。孤独は依存症と密接に関与している。

同じようなホモソーシャル的価値観を持つ人とつるむこともあるが、そこは競争原理が働く世界。そんな環境で心が休まるわけがない。

「もっと力を抜いて、日々を楽しめばいいのにな」と思うのだが。

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