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『水上バス浅草行き』岡本真帆

今までどうして短歌を読んでこなかったのだろう。小説に比べて遥かに文字数は少なくて読みやすいのに、避けてきた理由は何だったっけ。

水上バス〜を読んで短歌の面白さに気づいた。
自分が小説を読む時に求めている「想像の余地」がギュギュッと詰まっているのが短歌という印象だ。
文字数が少ないから自分で短歌を解像する、想像するということが必然的に起こる。
一つの短歌を読むのは5秒とか、10秒なのに、それについて考えるのは数分、数時間、もしかしたら数日間も考えていたかもしれない。そして考える時間が何よりも楽しく充実した時間だった。

買う決め手になったのは帯にあった短歌。

ほんとうに あたしでいいの? ずぼらだし、
傘もこんなに たくさんあるし

p.13 l.1

数文字の中でその人の容姿まで見える気がした。その人物像って、想像する人によって違うと思うし、そんなところが面白いと思う。

私が想像した"あたし"は少し鈍感でドジっ子、髪の毛は少し茶髪で生まれつきの天然パーマ、低いところでポニーテールをしている。
顔を赤く染め上げて「あたしでいいの?」と言う。気が動転していつも気をつけて"私"と言っていたのに、癖で"あたし"と言ってしまう。

想像が平凡だったとしても、苦しくないから考えることが楽しい。想像が膨らむ短歌を読んで、この世界を知りたいと思った。

よく分からない、想像もつかないような短歌もいくつかあったけど、好きだと思える短歌を見つけた時に幸せな気分になる。好きだと思った短歌、分からないと思った短歌、それは今日だけの話かもしれない。再度みた時に強い衝撃があったり、自分の気分によって響く短歌が変わるのは面白い。

『水上バス浅草行き』は本の手触りが良くて、絵も可愛くて、短歌の順番(配置?)も良かった。
たくさんの人の大切な一冊になると思った。

最後に好きだと思った短歌を3つほど引用させてもらう。

もうきみに伝えることが残ってない
いますぐここで虹を出したい

p.0 l.2

きみに恋している"私"。道中、ずっと話していたいけど面白い話が尽きてしまう。変な話をして嫌われたくなくて、言葉を探すも見つからない。
今、目の前に虹があれば同じものを見て「綺麗だ」って、一緒に言い合えるのに、という心情が伺える。必死に言葉を探す"私"の冷や汗が想像できる。

ありえないくらい眩しく笑うから
好きのかわりに夏だと言った

p.34 l.1

歯を見せて笑う君は、太陽を反射してるように眩しくて目がチカチカとする。頭に浮かんだ「好き」という文字を振り去って、「夏だね」。
私はこの短歌を読んで、太宰が「月が綺麗ですね」と言った意味が少し分かる気がした。何よりこの短歌可愛すぎて、歌集の中で一番好きかも。

マフラーの中黙り込む唇が
尖ってるのが僕には見える

p.123 l.2

冬の日、軽く君をイジると拗ねた君。僕は反省しながらもマフラーに埋まった顔を想像して笑いながら謝る。
「僕」って言うのがなんか良い。僕は優しいんだろうなって想像しちゃった。なんとなく、二人は付き合ってない仲良しな関係でいて欲しい。両片思いみたいな。

想像が止まらなくなって、本当に楽しい。みんなの意見も聞きたくなるな。短歌って事前に読んでおかなくても、その場で見てイメージできるから気軽に楽しめて良いな。想像を馬鹿にしないような、真剣に楽しめる人たちと意見交換してみたくなる。

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