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「牛首馬肉」そのものの菅政権の会食問題は叩き上げ政治家にとってのイメージダウン

以前に、羊頭狗肉・牛首馬肉の語源となった古代中国春秋時代の歴史を紹介したことがありましたが、最近立て続けに報道されている、菅首相や二階幹事長、前大臣ら、自衛隊トップの会食問題は、まさに牛首馬肉そのものでしょう。

古代中国春秋時代、斉の国に晏嬰という名宰相がいました。その彼が子どもの頃に、当時の君主が世間の女性に流行していた男装を禁止したのに一向に民衆が従わないということがありました。悩んだ君主が側に使えていた晏嬰に意見を求めたところ、
「民衆には禁令を出す一方で、君公のご妻妾には同様の男装をさせているから禁令を民衆は真剣に捉えません。高い牛の首を店先に掲げて中では安い馬肉を売っているようなものです。後宮にも禁止させれば民も従うでしょう」
という痛烈な皮肉のこもった諫言を行いました。そしてその通りにするとあっという間に男装の流行は収まったという逸話です。

一律に会食が極悪非道な行いだとは言いません。人数、食べ方、食事の種類によっても差はあるでしょうし、厳密な検証をすればまた判断は違ってくるのかも知れません。ただ、ここで一番重要なのは、国民に対して多人数での会食を控えるように言いながら政府の中枢にいる人たちが多人数での会食しているのですから、緊迫度合いが伝わるわけがない。

「この会食をしなければ国家存亡の危機に陥る」なんて会食は存在しません。はっきり言うと、この世の中にある「会食」は全て不要不急です。命より大切な会食はありません。

そうはいっても100%禁止してしまうと、飲食業が破滅してしまいますから、穏やかな表現である程度の制限をして、国民に空気を読んでね、という雰囲気を出しているだけなのですが、首相が率先して会食していたら国民だって平気で会食するでしょう。

そうは言っても私は個人的には多人数での会食をするつもりはありません。感染したくありませんから。自分や家族や近しい友人には注意や忠告はします。ミクロレベルではそういう人も多いでしょう。

しかし、マクロレベルで見れば、政府中枢が平気で会食している姿を見せていれば、国民も同じく会食してしまいます。

「会食しても感染しないだろう」
「感染しても発症しないだろう」
「発症しても重症化しないだろう」
「重症化しても死なないだろう」

という根拠のない希望的観測に基づいて安易な行動を横並びで取っていたら結果は目に見えています。

まあワクチンの接種が始まって、効果があるのであれば次第に収まるはずですから、人類滅亡までは恐れを抱く必要はありませんが、当面は自分で自分の身を守るしかありません。

しかし、今回の会食問題が菅政権にとってこれまでで一番のダメージになったと思われます。菅義偉という政治家個人の成り立ちで言うと、秋田から都会に出てきて働きながら夜学に通い、政治家の秘書から国会議員になって遂に総理大臣にまで上り詰めたという立志伝的出世物語があります。

その一方で、国民感情から乖離したような会食問題があったのはイメージダウンでしょう。

はっきり言うと、安倍晋三・麻生太郎のような首相・大臣を輩出してきた政治家家系出身のお坊ちゃん政治家であれば、逆に大したイメージダウンにはなりません。「やっぱりお坊ちゃんだから浮世離れしているんだな」とある意味諦観されます。

逆に菅総理の場合は、苦学生から成り上がった政治家として、国民の機微から離れているというイメージは、政治家としてのアイデンティティの一部が失われたと、「見なされる」かも知れません。本人は失われていない、あるいは苦学生は政治家としてのアイデンティティの一部ではないと思っていても、一部の有権者からはそう見られているでしょう。

そう言えば、少し前に噂が出ていた解散総選挙なんぞを12月に行っていたらとんでもないことになっていたかも知れません。8年前の12月に、負けが見えている状況で解散総選挙に打って出た民主党野田政権のように下野する羽目もあり得たでしょう。

この支持率低下によって、当面は解散総選挙など考えもしないでしょう。そのため逆説的に菅政権はまだ続きます。少なくとも東京五輪までは。肝心の東京五輪開催の雲行きも怪しくなってきましたが。

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