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リスクを分散してもブラックスワンは無くならない

東京五輪で建てた選手村の部屋は、分譲マンションとして売り渡しが既に以前から決まっていましたが、新型コロナの影響で五輪そのものが延期されたために、物件の引渡も延びたことによって購入者からの訴訟が起きているようです。

気持ちも分からんでもないけれど、コロナ禍だからしょうがないんじゃないか、と思いましたが、延期前時点での元々の引渡時期は2023年3月で、それが2024年3月になるということで、引き渡すまでにそんなになんやかんや時間がかかるのかと驚きました。

内部のリフォームやら建物や周辺の整備もあったりするのかも知れませんが、五輪終了後から2年半もかかるものなんですね。まあ訴えた人にとっては長くなるよりも説明不足が原因とのことですが、時間がかかる日本の裁判のことを考えると、元の引き渡し時期までに結審するとは思えません。原告企業側が賠償を払うか、早めに引き渡す人と遅めに引き渡す人に分けて後者は割引するかくらいの和解案しか私には想像つきません。やむを得ない不可抗力だったと判断されて、原告側が全面的に勝つ可能性も十分あるでしょうけれど。

五輪選手村マンションを購入する人にしてみたら、まさに青天の霹靂のようなコロナ禍だったでしょう。ちゃんと建設されて既に使用済みの建物ということで、建設未完や欠陥も無いマンションを周辺相場より安く買えるというメリットが、実は表面化されていなかった五輪延期というリスクによって吹き飛んでしまいました。

建てる側・売る側に当たる組織委や企業にしてみても、選手村の建設費を少しでも回収できる分譲マンション転用、また五輪前の段階で早々と売り先を決められるというメリットがあったはずですが、これもまた想定外の五輪延期によって揉め事が発生してしまいました。

格安かつリスク低減するはずだった売買が、予測していなかったごくわずかなリスク、いわゆるブラックスワンによって、実はとんでもない危機を内包していたという一連の流れを見るに、リーマンショックのサブプライムローンを思い出さざるを得ません。

サブプライムローンも本来ハイリスクな低所得者層への貸付を、一杯集めて訳が分からなくなるくらいまで分割してしまえば、焦げ付きが一部だけ起きても大丈夫!という理論で作られた金融商品でしたが、実際には焦げ付きが一部に留まらなくなって一気に破綻しました。

リスクを減らしたはずが顕在化されていないリスクが存在していて、いざそれが現実のものになったらとてつもない損害が発生する、という失敗は、いつどこでも起きるのでしょう。その失敗そのものを忘れてしまうことこそが、社会にとって一番のリスクかも知れません。

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