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野球界の目先の繁栄、その先の危機、さらにその先の兆し

 2004年の近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブの合併を機に、日本プロ野球界は再編騒動が沸き起こりました。ある意味、野球界そのものの危機でもあったのですが、楽天の新規参入、そして各チームが地域密着を指向することで観客動員が増え、経営上の問題は取り沙汰されることがほぼ無くなりました。その間も横浜ベイスターズの親会社がTBSからDeNAに変更になったり、阪神タイガースの親会社である阪神電鉄が阪急と合併したりといろいろありましたが、おおむねプロ野球界は平穏になっています。観るスポーツの代表格であるプロ野球(NPB)は、ピンチをチャンスに変える良い改革が出来たと言えるでしょう。

 しかし、その一方で足下とも言えるアマチュア野球界は野球人口の減少に悩まされています。特に中高生での減少が問題です。

http://baseballstats2011.jp/archives/45695604.html
https://sport-ryugaku.com/why-is-the-baseball-popularity-declining/
http://blog.rcn.or.jp/baseball/

 少子化以上のハイペースで減少している一方で、他のスポーツ人口はそれほど減っていませんから、野球が一人負けのような状態に陥っています。プロ野球界は観客増員でウハウハなのに、アマチュア野球界は競技人口減という相反する状況になっているわけです。
 野球界全体で見ますと、観るスポーツとしての改革は出来たが、するスポーツとしての改革がまだまだと言えます。その「まだまだ」感が現れてしまったのが、新潟県高野連が導入しようとして日本高野連と揉めてしまった「投手の投球数制限」問題でしょう。

https://www.nikkei.com/article/DGXLSSXK20438_W9A220C1000000/

 これまでにも、国内国外問わず、野球のピッチャーの肘や肩は消耗品であり、成長中の子どもが投げすぎてしまうことによる弊害を指摘する声はたくさんありました。しかし、日本においてはなかなか投球数制限という形で強制的に投手を保護する仕組みは存在していませんでした。

 メジャーリーグでは先発投手はだいたい100球前後で試合の状況にかかわらず降板し、二番手に任せます。その代わり中4日で投げていくのでトータルでの投球数は中6日で150球投げるのとあまり変わらなくなりますが、投球→休息の頻度が多い方が良いというのが、現時点でのMLB界隈のスポーツ医学の見解なのでしょう。

 プロ選手は自身の体が資本ですし、自己責任で投げている(実際にはそれなりに圧力はあるでしょうが)代わりに高額な報酬を得られるわけですから、肩や肘を酷使してもある程度は見返りがあると言えますが、中高生ではそんな見返りは存在しません。チームが勝つことや全国大会出場などは見返りではありません。その場合、負担が大きい投手が著しく不公平となってしまいます。
 そもそも野球はプレー時間の半分以上はピッチャーがボールを持っています。インプレーも投手と捕手の間でのボールの行き来が大半です。捕手が投げるときに速さと正確さが必要なのは盗塁時のみですが、投手が投げるときはほぼ全て速さと正確さが必要です。さらにほとんどの変化球ではさらに腕への負担が増えます。労力を比べると投手と野手の間に大きな差があるスポーツです。

 そこで大人はともかく子どもは投手の投球数を制限しよう、という考えが出てくるのは当然のことです。しかし、日本高野連はチーム間の不公平を主な理由として反対してきました。投球数制限を行うと、良いピッチャーをたくさん揃えられるチームと比べて、一人のエースに頼るチームが不利になる、という理屈です。しかし、既にそのような傾向は存在していますし、そもそも子どもの頃に無理をして投げすぎたために大人になってから野球が出来なくなる体になるのを放置する方が問題です。高校時代の松坂や最近では金足農の吉田など頑丈な人は頑丈です。しかし個人差を無視してとびきり頑丈な人を基準に置いて判断するのは無理があります。高野連は野球は教育の一環と主張するのであれば一人の選手に大きな負担をかけるのではなく、負担をチームのみんなで分かち合えるようにしましょうね、と呼びかけるべきではないでしょうか。
 現実のアマチュア野球界、特に中高生対象の中野連や高野連にはまだまだやれることはあるはずです。競技人口減への対策が必要な上に、今現実に野球をやっている選手達への配慮がまだまだではないでしょうか。

 観るスポーツとしては盛んでも、やるスポーツとして人口が減ってしまうと、大相撲のように外国人選手がトップクラスをほぼ独占してしまうようなスポーツになりかねません。

 一方、海の向こうのアメリカではアマチュア野球人口が増えたというニュースがありました。

https://jp.wsj.com/articles/SB10039284450484833869604585134762327961490

 有料記事なので一切をコピーするわけにはいきませんが、簡単にまとめると、セミプロレベルから庭で遊ぶレベルまで含めて野球人口が2割増えた。高頻度で野球をするのは5%増だが他のスポーツが減っている状況で増えているのは、人数が少なくても出来るMLB主導の「プレーボール」というプログラムのおかげだ、ということのようです。

 日本野球界には、プロアマの壁という前世紀の遺物がまだ残っていますが、プロアマ含めて野球界全体で野球人口を増やすという取り組みには大きな改善の余地があるはずです。逆に言うと、散々手を尽くして減っているなら絶望的ですが、まだこれからいくらでも対策が残っている状況なのですから、野球人口の減少を食い止め、増加に転じさせることは可能なはずです。

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